容赦のない現実。人知の及ばぬ事態。人はそれを神話と呼ぶ。

 唐突に始まり、唐突に終わる。いきなり現れ、いきなり撃つ。この物語はいつだって不条理だ。そこになにがしかの法則を読み取るすべを僕たちは知らない。作者の精神世界から出力された記述を、ただ受け取ることしか僕たちにはできない。そこに何を見出すか。そこから何を得られるのか。それを徹底的に突きつけるのがいレ生だ。物語としての何かを極限までそぎ落としたこの小説は神話の境地にある。神はいつだってきまぐれで美しく、そして不条理で、強い存在だ。ところかまわず現れて爪痕を残し去っていく長井零路は、そういう意味では神なのだろう。かつて天災や疫病といった不条理は人知の及ばぬ現象として定義され、人格を付与され、そして荒神となった。神秘性が失われた現代においてその不条理に人格を見出すのは難しくなってしまった。そこに神として人格を得た長井零路は、現代社会において、本当の意味で天に座する「神」なのかもしれない。

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