第19話

洗面所の鏡に映る自分の身体をパピ子は眺める。少し痩せ気味で、あばらが浮いていた。男からしたら、もうちょっと太ったほうが良いと言うような体形。くびれはそれほどなく、痩せているので胸も大きくはない。少し左右で大きさが違うのがコンプレックスだが、それよりももっとへそからしたの下腹部が膨らんでいるのが彼女の目下の悩みだった。そこだけ部分的に落とせればどんなに良いだろう、といつも考えている。

 一度その下腹部を摩って、痩せろ~と彼女は念じてから浴室へと入って、シャワーの栓を捻った。

 最初に出てくるのはもちろん水なので、床に向けて手をかざして加減を見る。それからじわりと滲んだ汗を流して、湯を出しっぱなしのまま髪から洗っていく。浴槽に浸かりたい気もあるが、もう夜なので面倒だった。

 それに気疲れもしていた。何もかもが唐突で、今日起きたことのほとんどが予定外だった。これからドライヤーをして髪を乾かす時間でさえ億劫に感じる。

 こんなとき男に生まれてくるんだった、とパピ子は考える。そしたら髪なんてほったかしで眠るのに、と。

 汗を流して身体を洗い、洗面所に出ると、またそこの鏡に下腹部だけ出ている、上半身の痩せた女がいる。今度は髪が濡れていた。なんだか笑いたくなったので、彼女は笑う。

 その後、タオルで身体を拭き、服を着ると、パピ子は洗面台の前でドライヤーを手に取った。コンセントは既に入っている。あとはスイッチを入れるだけだが、濡れた髪を持つ自分を前にして彼女はそれを洗面台に戻した。今日だけ別人のつもりで、髪を乾かさずにそのまま眠ろうと思った。長い一日の終わりだった。

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パピ子の微熱 東雲かたる @sinonomekataru

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