第18話

携帯が鳴ったのは丁度、家の門を開いたときだった。すぐに姉からだろうと察しがついた。着信音で区別はしていないが、こんな時間に送ってくる心当たりがあるのは姉しかいなかった。

『しばらくは漫喫泊まって、契約済み次第、秋葉原のゲストハウスに移る。また連絡するから待ってて』

 自宅の門を閉じながら、パピ子はその文面を読んだ。しばらく家族以外の人間と交流を断っていただけあって、人懐っこさの欠片もない自分の都合だけを書いたそのメッセージは祥子らしいといえばそうだった。

 それからパピ子は携帯を鞄に仕舞い、扉を開く。そこにあるはずの見慣れた姉のスニーカーはもうない。玄関もそこから続く廊下も居間もキッチンも全ての明かりが落ちていた。薄らと視界が開けているのは、月明かりのおかげだった。こうやって全員が寝静まってから、帰ってくるのは別に初めてじゃない。

 だがこう言った夜は、大体五回に二回くらいの確率で、姉が一人キッチンで食事をしていた。全員が寝静まったのを見計らって部屋を出てきて、腹を満たしているのだ。そこでいつも姉妹が鉢合わせるというわけである。

 何度かそれが続くと、いつかそこにいても不思議じゃなくなった。引き籠っている祥子は唯一、家族でパピ子と話すようになっていた。

 だがそんな姉、祥子ももうこの家を些細な喧嘩を原因に出て行ってしまった。

 ミュールを脱ぎ、冷たいフローリングに素足を乗せる。耳を澄ませると冷蔵庫の音が聞こえてくる。静香がそろそろ買い換えたいと話をしていた。つい一週間くらい前までは、普通にこれから就活をして就職するつもりだったので初任給で買おうかくらいに思っていたが、それも大学を辞めてしまった今となっては到底無理な話だった。

 パピ子はそのまま二階に上がり、自分の部屋に戻る。服を寝巻に着替えたら、シャワーを浴びるつもりだった。

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