君が世界を終わらせるまで

雪羅

第1話



「――時々自分が、この世界に溶けてしまいそうに思うの」

 イリサは樹の下に、寝転がって誰に言うでもなく呟いた。

 さわさわとこずえが風に揺れる、春も終わる五月のひる下がり。

 はちみつを溶かしたようななめらかな金色にエメラルドが光るかのような金緑色きんりょくしょくの髪が、たった三月前まで血に染まっていた草原に広がる。

今では死体の匂いや肉片、折れた剣など戦の痕跡はなく、ただ美しい草花がさわやかな風に揺れていた。



 ――十二歳の時に初めて剣を持って。

 一月もしないで戦場に出て、初めて人を殺して。

 それから、もう四年も腐った戦場で生きている。

 

 開戦した張本人である父帝さえ諦めた終戦を、自分の手で迎えて。

 『終末しゅうまつのイリサ』なんて国民から呼ばれて、誇りに思われて歓迎されて。

 でも隣国や大陸の他の国々からは悪魔の名として、うわさが容姿とともに伝わっていて。


 …毎日剣を持つ事が当たり前で。剣を持たないで自室から出るなんて考えられないくらい、普通のことになっていて。でも。

 イリサは吐き捨てた。

「でも、――こんな壊れた世界で死ぬことを考えただけで、吐き気がするわ」

 憎悪で目の前が赤く染まるほど。

「何故私たちは、こんな世界のために戦わなければならないの? …死ぬことを強要されるの? ――こんな世界なんて」


 なくなればいい。


 そう呟いたイリサの目から次々と雫がこぼれ、戦闘服の上にあてた軽装の防具に落ち、柔らかな陽射しに輝いて、消えた。






 それを偶然見ていたエゼトは、そのとき彼女のために戦おうと決めた。


 『終末のイリサ』なんて名前を付けられて、戦を終わらせたのに感謝もされないイリサの。

 誰よりも剣が嫌いで、でも誰よりも剣が上手な彼女の。


 この世界を終わらせるという、叶わない夢の為に。

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