君と来世で祝福を

月島 裕

第1話人生何が起きるか分からない

少年は十字路の交差点に立っていた

何故その場所にいるのか?少年にも分からずただただ立ち尽くしていた

“ここはいつも通る道だ”

それだけは分かるが記憶が曖昧だった

行き交う車も人も自分が居ない存在のようにただ通りすぎて行くだけだった

だが話しかけるでもなく少年はその場所から動く事はなかった

どのぐらい時間が経ったかも分からずボーっとしていると

「ねぇ!貴方何してるの?」

「………」

1人の少女が話しかけてきた

少年は少女の質問に答えるはずもなく空を見つめていた

「ねぇてば!」

急に少年の目の前に現れた

少年はビックリして目を真ん丸に見開いた

「何してるの?」

「………別になにもしてないけど…」

「じゃなんでここにいるの?」

「分からないから…なんでここにいるのか考えてたんだ。」

「そうなんだぁ。じゃさ!私が手伝ってあげるよ!」

「えっ!?」

「私も暇だしさ!ゆっくり考えながら想い出の場所とか行ってみたりさ!」

「それも思い出せないんだ…この道はいつも通ってたのは分かるんだけど…それ以外は……」

「じゃ、なんでいつもここを通ってたの?」

「………毎日ではなかった。週に1.2回は通ってたような…」

「その調子!頑張って!」

少女は少年にヒントを与えるように次々質問し続けた

「通ってた時は何に乗ってたの?それとも歩いてた?」

「……バイク?すごい風が来る感じ」

少年は記憶を辿っていく

実際におきているような感覚で風を感じていた

「バイクに乗ってどこに向かってたの?」

「……友達に会いに行く所……でも電話が来て……あぁそうだ海沿いの道は危ないからバイパスを通れって言われたんだ……」

映像が鮮明になっていくのを目を閉じながら感じていた

「そうだ…電話に出た後…光が近付いて来たんだ…痛って思ったらここに居たんだ…」

「痛い?どんな風に?」

「首の辺り?なんか殴られたような痛み?」

その話をした後少年の頭から血が流れ始めた

少年は不思議そうに手で血を拭った

「なんでかな……俺……死んでんだ……だから皆見てないんだ…」

「ようやく気付いたんだね。あなたは亡くなってしまってるの。名前は思い出せる?」

「龍崎 結斗…帰りたいな……」

死んだときの記憶が戻ると同時にすべてを思い出したようだ

少年の願いは【帰りたい】ただ一つだけだった

「どこに帰りたいの?」

「家…母さんの所に帰りたい…」

「今なら帰れると思うよ。強く願ってみて。もし何かあれば私はこの場所に居るから。」

少女に言われた通りに願ってみると身体が浮き出し家の方に飛んで行った

少女はその様子を見守っていた

少年が見えなくなるのを確認するとその場に座り込み向かい側の地蔵を見つめていた



少女と別れ家に着いた少年は玄関の前で震えていた

“どうしよう…どうしよう…母さん、浩二、正輝、父さん…皆どうしてるんだろう…怖いな…”

玄関の前に着いてからずっとそんな事ばかり考えていた

しばらくすると祖母が自転車に乗って現れた

『ばぁちゃん!ばぁちゃん!俺だよ!』

祖母に近付き何度も叫ぶも聞こえていないようだった

しかし時折、自分と目が合ったような気がして気持ちが高ぶるのだがすぐに違う方向を向いてしまう祖母に怒りにも似た感情がわき起こるのを感じていた

『なんでだよ!俺を見てくれないんだよ!!』

近くにあった盛り塩の器がなんの前触れもなく割れた

祖母はビックリしたようで器を見つめてふいに「結斗…?」と呟いて急いで家に入っていった

少年も後を追うように家の中に入った

そこにはいつもと変わらない風景が広がっていた

少年は感情が入り交じり気付くと目から大粒の涙が流れていた

“俺……なんで泣いてるのかな?”

涙を拭き玄関を上がるとすぐ横に和室がある扉が開いていた

【チーン、チーン、チーン】

鈴の音が響き渡る

少年が扉から覗くと自分の遺影が飾ってあった

“俺だ”

祖母が鐘を鳴らしながら泣いていた

「結斗…結斗…結斗…」

少年の名前を呟いている

視線を感じリビングの方に目をやると母親が座っていた

やつれた顔で目だけが腫れ上がっていた

『母さん!』

少年は母の元へ歩み寄る

『母さん!ゴメンね…ゴメンね…』

通り抜けてしまう身体を何度も何度も抱き付こうとするも叶わず少年は泣き崩れた

『母さん、ばぁちゃん、俺ここに居るんだよ。』

そんな悲鳴にも似た声は届く事はなかった


「毎日来てくれてありがとうね。結斗も喜んでるよ…ばぁちゃん子だったからね…」

「マザコンだったでしょ。母さん、母さんっていつも言ってたじゃない。」

「そうだったね…」

母親はその言葉を聞くと結斗との思い出が走馬灯の様に甦り涙が次から次へと流れ落ちた


その姿を見ている祖母も涙を流している


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