お邪魔虫
二見
お邪魔虫
私には仲の良いお姉ちゃんがいます。
名前は里崎詩織。名前からして可憐さを感じさせますよね。
お姉ちゃんは高校二年生なんですが、成績優秀、運動神経抜群、そして極めつけに容姿端麗と、正に才色兼備と呼ぶにふさわしい女性なのです。
そのせいか、お姉ちゃんを慕う人は男女隔たりなく多い。もちろん、学校の先生にも好評価。
でも、そんなお姉ちゃんには彼氏がいませんでした。まあこんなにも完璧超人なら近寄りがたくなっちゃうよね。
長年お姉ちゃんにはお相手がいなかったんですが、最近は仲良くしている男の人がいるようです。
名前は中村正志。年は同じく高校二年生でお姉ちゃんとは昔からの幼馴染です。まあ私とも面識はあります。
正志さん自信はそんなに人並み外れた感じではありません。成績も普通、運動神経も普通、容姿も悪くはないけど別段イケメンってわけでもない。冴えない顔って感じ。
でも、それがお姉ちゃんにとってはいいみたい。気軽に接してくれるのがお姉ちゃんにとっては高評価だとか。
正直、お姉ちゃんとは全く釣り合っていないと思う。でもお姉ちゃんは好きみたいだし。お姉ちゃんとはずっと一緒だったけど、だからこそわからない所もあるんだなって思った。というか、いつの間にこんな仲になったんだって感じ。
そして今日はそんな二人のデートの日なのです。
お姉ちゃんは何時にも増しておめかししています。めかしこんだお姉ちゃんは一層ときれいだけど、正直あの人のためにそこまでしないでほしいなあ。
「千里ー、行ってくるわねー」
「はーい」
部屋で片付けをしていた私は裏声交じりの甲高い声で答えます。
「なに、その返事」
くすくすと笑いながら、お姉ちゃんは玄関のドアを閉めました。
「……行ったみたいだね」
今日はお姉ちゃんたちのデートを尾行しちゃいます!
だって、不純異性交遊とかしてたらダメだもんね。もしそういったことがあったら私が純潔を守らなくっちゃ!
私は窓をしっかりと閉めて戸締りを確認し、パパッと部屋の片づけを終えてお姉ちゃんの後をつけることにしました。
現在時刻は午前10時前。お姉ちゃんは待ち合わせ場所である駅で正志さんを待っています。私はそれを物陰から見ています。もちろん万が一見つかってもいいように変装済みです。
「お待たせー!」
10時ちょうどになろうとしたとき、正志さんが待ち合わせ場所にやってきました。
「ごめん、待たせちゃったかな」
「全然。それより早速行こっ」
「ああ」
正志さんはお姉ちゃんの手を取ります。
むむっ、あんなにベタベタしちゃって。これはイエローカードですよ!
その後、二人は改札へと入っていきます。
今日は折角の休日だからということで遠出をするみたいです。どこに行くのかは私にもわかりません。
電車に乗ること数分、目的の駅についたようで、二人は電車を降りて改札口に向かいました。私も後をついていくと、郊外にある水族館へとつきました。まあデートの定番だね。
水族館の中に入ると、二人は楽しそうに魚たちを見ています。その間ずっと手をつないでいました。二人とも、ベタベタしすぎです!
「おっと、危ない」
正志さんが人とぶつかりそうになるお姉ちゃんを自分の体へと寄せます。ほら、あんなにくっついちゃって! これは許せないですね。
私は物陰から二人をじーっと見つめます。今すぐ割り込みにいきたいレベルですが、ここはぐっとこらえます。
その後もくっつきながら水族館内を周る二人。そしてそれを物陰で見ながらついていく私。
水族館内を周り終えると、二人は隣にあるレストランへと向かいました。
そういえばもうお昼時。私も何か食べようかな。
幸い二人の近くに案内されたので、観察もしやすいです。尾行しているのがバレちゃうか心配だったけど、変装をしているのでどうやら大丈夫そう。
「次は詩織の行きたい場所に行くんだよね。どこら辺?」
「ん……とね、ここかな」
お姉ちゃんはスマホを正志さんに見せます。当然その体勢になると二人は近づきます。もう何度も見た光景ですが、一向に慣れないですね。
どうやら、今日のデートは二人が行きたいところを行き合うようです。水族館は正志さんが希望した場所らしいですね。
食事を済ませた後、二人は目的の場所目指して歩き始めました。私もパパっとご飯を食べて後をついていきます。
次に来たのはアンティークショップ。良い感じの雰囲気を漂わせています。お姉ちゃんらしいお店ですね。
お姉ちゃんはアンティークを見るのが好きなんですが、正志さんはどうなんでしょうか。
「詩織、こういうのが好きなのか」
「うんうん。あっこれ見て! すっごい良い雰囲気出しててさあ……。もうたまらないよ」
「そうなのか。俺はあんまりよくわからないからなあ」
もう、そんな返答をして! もう少し相手のことを考えないとダメですね。
その後もお姉ちゃんはお店の中を見て回るのですが、正志さんは理解はしようとしているみたいですが、あまりついていけてないようです。
きりのいいところで切り上げて、次の場所まで向かうようです。
続いてきたのは本屋さん。
デートの途中なのになぜこんなところに来たのかというと、お姉ちゃんがほしいと思っている参考書があるのだとか。
それにしても、デート中にこんなところにこなくてもいいと思うなあ。
もちろん、私も中に入ります。お姉ちゃんたちは目的の参考書を手に取りレジに並んでいる最中です。正志さんもついでに漫画本を買うつもりみたい。
せっかくだし、私も何か買おうかな。あっ、この万年筆素敵! ちょっと値段が高いけど、買っちゃおう。
私は二人にバレないようにレジに並びます。
その後も二人はいろいろなところを見て回りました。
もうすぐ日も暮れようとしているときです。次はどこに行くんでしょうか。
「疲れたな。どこかで休憩しようか」
「そうだね……。あっあそこにカラオケがあるよ」
指差した先に見えるのは確かにカラオケ屋。まあカラオケもデートの鉄板といえば鉄板なのかな。
休憩も兼ねて二人は手をつないでカラオケへと向かうようです。こらーっ! イエローカード二枚で退場ですよ! と言いたい気持ちを抑えて私もついていきます。
受付を済ませ、部屋に案内されました。私の部屋と二人の部屋は少し遠いです。部屋の中は至って普通なカラオケ。でも一つ気づいたのは、この部屋には監視カメラがないということ。この部屋にないということは、多分他の部屋にもないのでしょう。
まったく、これじゃイチャイチャし放題じゃないですか! 監視カメラはあるだけでも抑止になるのに……。店側の怠慢ですね、これは。
仕方がないので、私はお姉ちゃんたちの部屋に行くことにしました。私はマイクやグラスなどと一緒に渡されたアンケート用紙をさっき買った万年筆で適当に記入し、その後二人の部屋へと向かいます。どうやら二人は盛り上がっている様子。
しばらくドアの近くで監視していると、ドアに近づいてくる足音が聞こえました。私はすかさず近くに隠れ、その様子を探ります。どうやら正志さんが出てきたようですね。後をつけてみるとトイレに入っていきました。
それを見た後、私はお姉ちゃんたちの部屋を覗いてみると、そこには眠っているお姉ちゃんの姿が見えました。今日のデートで疲れているのかな。
それを見て、私はキュピーンと閃きました。
「ちょっと失礼しちゃおうかな」
私は部屋の中に入ると、寝ているお姉ちゃんに後ろから抱き着きました。私の両手にはおっぱいの柔っこい感触がします。お姉ちゃん、美人でスタイルも良いんだけど、胸は小さいんだよね。
ちらっとお姉ちゃんを見てみると、起きそうにもないのでさらにぎゅーっと強く抱きしめます。おお、いい匂いがする。
「う……ん」
お姉ちゃんが寝返りを打とうとしたので、抱き着いている私の体ごと机にぶつかってメロンソーダの入ったグラスを落としてしまいました。
「あっ、ごめんお姉ちゃん!」
私は茶色っぽく汚れた床をおしぼりで拭きました。これで大丈夫かな。
後はちょっとエアコンが効きすぎて肌寒く感じたので、温度を上げてお姉ちゃんに上着を被せておきました。
「あっ、というかそろそろ正志さんが来ちゃう! バイバイ、お姉ちゃん!」
私は急いで部屋から出ていきます。この場に私がいたら尾行していたこともバレちゃいそうだもんね。
自分の部屋に戻ろうとしたとき、ばったり正志さんと会ってしまいました。
「……君は」
「あ、こんにちは。偶然ですね」
「あ、うん、そうだね」
とりあえず偶然を装っておかなきゃ! 尾行してたのがバレちゃわないように。
「トイレに行ってたんですか?」
「そうなんだけど、電話が来てさ。ちょっと急用が出来て家に帰らなきゃなんだよ。せっかくのデートなのに詩織には申し訳ないな」
「あ、じゃあ私が伝えておきましょうか? さっきお姉ちゃんのところに行ったんですが、疲れているのか寝ちゃってたんですよ。急用だから、早く帰らなきゃなんでしょう」
お姉ちゃんには近づけさせないもんねーだっ!
「そっか。じゃあお願いできるかな。ごめんね、君の分のお金も俺が払うよ」
正志さんは私にお金を渡すと、そのまま受付の方まで行きました。
なんか思いがけないアクシデントが起こったなあ。でも、これでもうお邪魔虫はいなくなったし、デートも終わったから良しとしますか!
じゃあ私も愛しい人の元へと行こうっと!
『―――次のニュースです。昨日未明、○○町のカラオケ店にて、女性の死体が発見されました。○○高校の女子生徒が胸部を鋭利なもので刺されたと見られています。さらに、○○区の民家にて○○中学校の女子生徒の死体が発見されました。こちらは刃物のようなもので喉元を切り付けられたとみられています。警察はこれらの事件を殺人事件として捜査を始めた模様です―――』
テレビをつけたらそんなニュースが流れていました。
……お姉ちゃんがいけないんだよ。ほしいものは何でも手に入れられるからって、私の大好きな人まで手に入れようとするなんて。
だから、関係のない千里ちゃんまで死んじゃったんだよ。
私は血塗られた万年筆で昨日の出来事を日記に書きます。
ああ、それにしても正志さんはかっこよかったなあ。お邪魔虫はいなくなったし、今度は私からデートに誘っちゃおっかな。
「さあて、今日も正志さんのところにいかなくっちゃ」
私はお気に入りの万年筆を手に、今日も元気に正志さんを見に行くのでした。
お邪魔虫 二見 @futami
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