ブラインドメルヒェニズム
「そんなに珍しいものが好きかい」
指先で瞳と同じ色のハイドランジアを愛でながら、彼は目を細めて問う。彼女も、地面に落ちた水色の花に触れながら答える。
「好きよ。毎日毎日、わたしの周りは繰り返すばっかりで生きてる心地がしないわ」
変えられるのは、身のうちに隠した複製世界だけだ。好きなだけ耽っていられない「こども」という身分が彼女にはもどかしい。
「じゃあ、今を捨てられるかい?」
彼はまた問うが、その声はどこか無機質である。気づかない彼女は微笑みさえ浮かべながら、言い切る。
「構わないわ。このままずっといたって、未来を捨てているようなものよ」
「そうかい」
暫く彼は黙った。その間にもハイドランジアの花弁は舞い、集い、ぱっと消えたり何もない所から咲いたりと忙しなく、彼女は飽かず戯れた。雲が橙を映し始める頃になって、彼はやおら腰を上げ、少女の傍に立った。差し出した手から、一株の蕾が零れる。
「あげるよ」
「咲いてないわ」
「望むように咲くんだ」
彼女はいかにも綻びそうな口許を取り繕って、蕾を受け取った。ざわりと草花が蠢き、不自然に生温い風が吹き抜けたがやはり彼女は気が付かずに、踊り出しそうな足取りで広場を後にした。
「楽しみにしているよ、次に会う姿を」
笑みの代わりに右目から花弁を流しながら、彼はその背に最後の言葉を投げかけた。
紫白青と 言端 @koppamyginco
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