小説自販機でネタ探しなう!!

ちびまるフォイ

あたたか~い小説はいかが?

最近、近所の小説コンビニがつぶれてしまった。


「うそ……閉店って……なんで!?」


ここでいつも小説のネタを探していたのに。

それからしばらくは小説が書けなくなった。


「はぁ、こんな何もない部屋にいても書けないよなぁ」


部屋に一人でパソコンに向かってもアイデアは出ない。

今までのように小説コンビニでネタ探しもできない。


小説なんてのは結局自分の経験をもとに作られている。

ひきこもち真っ盛りの状態じゃネタが尽きるのも当然だ。


「……外でも歩くか」


夜は遅かったが車にひかれて異世界転生でもすれば、

せめて小説の書くネタになりそうだとネタ探しの散歩をはじめた。


つぶれた小説コンビニの近くにさしかかると、

夜の闇の中でぼんやりと光を放つ自動販売機を見つけた。


「おっ。こんなところに自販機あったんだ。どれどれ……」


中に売っているのは飲み物ではなく小説だった。

試しに120円入れてボタンを押してみる。


>あたたか~い


ボタンを押したら、持っていたスマホに小説が送信された。


居酒屋を経営する女店主が地域の人たちと一緒に協力して

お店や商店街を盛り上げていく心温まるお話が届けられた。


「へぇ、これは心が温まるなぁ。いいネタも思いつきそうだ」


120円なので超大作でもないため読みやすい。

軽い気持ちで買って、軽い気持ちで読み捨てる。


小説のネタ探しにはうってつけだ。

俺はすっかり小説自動販売機のとりこになった。




「さて、今日はどれにしようかな?」


こわ~い

た~のし~

おもしろ~い

どっきどき~

せくし~


などなど、自販機にさまざまなボタンがついている。


「よし、今日はこれだ!」


おもしろ~いを選んでボタンを押した。

受け取ったギャグ小説は腹筋を浮き上がらせるほど楽しかった。


笑い転げた涙を拭いて自動販売に表示された文字に目がいく。



>おもしろ~い  うりきれ



「あ、これが最後の1作だったんだ」


その日は気にせず帰ったが、翌日になっても売り切れ表示は残っていた。


「1日たったのにまだ売り切れなのか。

 はやく補充しろよ、まったく。業者なにやってんだ」


こわ~いを選んで小説を買った。

今度は「こわ~い」のボタンにうりきれが表示された。


「……明日にはきっと補充されるよな」


けれど、いつまでたっても補充されることはなかった。

自販機のボタンは「うりきれ」の赤文字が浸食し、ついにすべて売り切れとなった。


「どうなってるんだよ! これじゃネタ探しができない!!」


むかついて自動販売機を蹴った。自販機から悲鳴が聞こえた。

たぶん気のせいだが、ちょうど蹴った先に自販機の連絡先をみつけた。


「きっと補充することを忘れてるんだな。こっちから連絡してやる」


自動販売機にあった連絡先へ電話した。


『はい、こちらノベル・コーラ株式会社です』


「○○町の自販機がいつまでたっても補充されないんだ!

 あんたのところの自販機ならさっさと中身入れ替えろよ!!」


『かしこまりました。すぐに参ります』


やっぱり電話してよかった。

明日にはきっと補充されているだろう。


家に帰ろうとしたが、ふと思い立って足をとめた。


「……せっかくだし、補充作業も見てみようかな」


自販機の補充作業ってそうみられるものじゃない。

好奇心につき動かされてふたたび自販機の方へと戻る。


自販機はドアが開けられてちょうど補充作業の真っ最中だった。


「ああ。もしかして、あなたが補充連絡をした方ですか?」


「まったく、いつまでも補充されないから困ってたんですよ」


「それはすみません。すぐに補充しますから」


業者はにこりと笑うと、後ろに控えていた仲間が俺をつかんだ。


「補充へのご協力、ありがとうございました」





自動販売機のドアが閉められると、

まっくらな自販機の中に閉じ込められ内部のパソコンの灯りだけが見える。


内部のパソコンで書いた小説は自販機の商品として買われる。

またひとり利用者が自販機の前にやってきた。


「なんだよ! せくし~売りきれじゃねぇか!!

 さっさと補充しろよ、このクソ自販機!!」



だってしょうがないだろ。

こんな場所でせくし~なネタなんて思いつかないんだから……。

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