第36話 エピローグ
――翌日
いつの間にか朝になっていた……俺を含むラティア以外の四人は、外でそのまま眠ってしまい朝を迎えた。泳げるくらいの気温だし、布団無しでも風邪を引くほどじゃなかったのは幸いだ。
昨日は空が白み始めるくらいまで飲んでいたが、そのまま寝てしまったようだぜ。
俺以外の三人はまだ眠っているようだが、ブラザーに折り重なるようにウーが眠っており、マミは……ちょっとやばい恰好だぞ!
砂浜に大の字になって寝ているのはいい。乙女らしくないが、俺は全く気にしねえ。豪快なレディも嫌いじゃあねえぜ。
問題は……水着のような黒のブラジャーがずり落ちて、右のおっぱいが丸見えってことだ。俺はログハウスに戻り、毛布を取ると彼女へと毛布をかけてやろうと
「……健太郎……私がいない間に……マミさんのその恰好……」
いつの間にか俺の後ろに立っていたラティアが俺の肩を叩く……振り返ると頬を膨らませてウサギ耳をピンと立てた彼女の顔が見えた。
いつもタイミングが悪いラティアだから、こんなこともあると思っていたが……俺が手に持つ毛布が見えねえのかよ! だいたい、マミを脱がせたのは酔っ払ったラティアじゃねえのか?
「毛布をかけてやろうとしただけだぜえ?」
「……私がやります!」
ラティアはプンプンと頬を膨らませたまま、俺から毛布をはぎ取るとマミに毛布を被せる。
やれやれだぜ。全く……
こんな朝のハプニングがあったが、昼までには全員が起きてきて、バーベキューの後片付けをしながら遅い朝食をとる。
朝食を食べ終わる頃、悪趣味なギラギラのメタリックブルーの
本物もマネキンを持っているが……マネキンが履いているタイツだかニーハイソックスだかの色は「白」だ。
プリンスはいつもピチピチの黒のレザースーツに黒の指抜きグローブを嵌めているから、黒が好きだと思っていた。「偽物」のプリンスはマネキンに黒のソックスを履かせていたしな……
「やあ。プリンス。そのマネキンのソックスの色……」
俺はプリンスに挨拶もせず、気になったことを先にプリンスに問いかけた。
「ああ。これかい? 素晴らしいだろう。この脚には白のサイハイソックスが似合う」
プリンスは開いた手でマネキンのサイハイソックス?を撫でる。理解できねえ趣味だぜ!
「そ、そうか……人の趣味には口を出さねえが……プリンスは変わった趣味をしているんだな……」
「君にはこの脚の素晴らしさが分からないようだが……我も君に我の美観を分かってもらおうとは思わないとも!」
マネキンが気になってしまって話が逸れたが、プリンスは約束通り俺に経緯を説明するために訪ねて来てくれた。
プライドは高いが、こういうところはきっちり律儀にこなす奴なんだよな。だから、俺は奴のことが嫌いじゃあないんだ。
俺はプリンスをログハウスに招き入れると、リビングテーブルに備え付けてある椅子に座ってもらう。
「プリンス、飲み物はコーヒーでいいか?」
俺が問うと、プリンスは懐から何かを取り出した。血液パックかあれは?
「健太郎君。グラスだけもらおうか。我はこれで。君の分も持ってきたよ」
血液パックをもう一袋取り出すプリンス……いや、さすがにそれは遠慮したいぜ。
プリンスが言うに、彼は招かれた客なので菓子折り代わりに血液パックを持ってきたそうだ。この血液パックは彼が言うに「最高級品」らしい……なんとRHマイナスのAB型の血液だそうだ。
珍しいが、要らねえ。俺の血液型とも違うしさ。
俺がワイングラスをプリンスに手渡すと、彼は血液パックからワイングラスに血を注ぎ、ワインのテイスティングをするのと同じ動作で香りを楽しんでから少しだけ血液を口に含む。
「んー。最高の血だね。これを飲まないとはもったいないぞ。健太郎君」
「いや……人間は血を飲む習慣はないからな」
見てるだけだが、気持ちいいもんじゃねえな……まあ、プリンスなりの好意なんだからありがたく気持ちだけは受け取っておこうじゃねえか。
「では約束通り、我が大広間を発見した経緯とブレードレースに参加するまでを語ろうじゃあないか」
「おう。頼むぜ」
プリンスはワイングラスをテーブルに置くと、静かに今回の経緯を語り始める。
液体生命体は手軽に膨大なエネルギーを吸収することが出来るから、かつて吸血鬼は嬉々として液体生命体を狩っていたそうだ。まだ宇宙法で知的生命体の保護が規定されてなかった頃に、液体生命体を狩りすぎてしまって絶滅の危機に陥ってしまったらしい。その頃の吸血鬼はまだ野蛮だったんだとよ。
元々繁殖力が低い液体生命体は絶滅の危機に陥ってしまったから、吸血鬼は過去の自分たちの行いを反省し、液体生命体を保護することになったそうだ。
ここまでは液体生命体と吸血鬼の関係性になるが、プリンスも液体生命体を最近保護したそうだ。その液体生命体こそ、今回の騒動の中心になったシュピーゲル。
シュピーゲルはこの星にプリンスの別荘があることを知ると、この星に財宝が隠されていることを彼に教えたそうだ。
場所も把握していて、シュピーゲルはプリンスを大広間に案内する。大広間の日本風石像の壮麗さを気に入ったプリンスはここに隠された財宝もさぞ素晴らしいものなのだろうと確信し、財宝の扉を開ける方法を調査する。
シュピーゲルに聞くも、彼が知っていたのは虎と龍の意匠が浮き出るブローチであるとだけ知っていて、場所は不明であるとプリンスに告げる。
プリンスは有り余る財力を使い、ブレードレースの賞品が求めていたブローチだと当たりをつけた。もう一つのブローチはマミが所有していることも突き止める。
そこで、ウーを雇い二つのブローチを奪取することを画策したってわけだ。
俺たちが財宝を探しにこの星に来たことは知っていたが、途中でブローチを奪うくらいなら、いっそ財宝を発見してから正々堂々勝負して奪おうと考えていたらしい。そこで大広間にカメラだけ仕掛けて俺たちが財宝を発見するのを待っていたところを、シュピーゲルに抜け駆けされたってことだ。
プリンスはどんな財宝が眠っているのかは知らなかったそうで、シュピーゲルの「封印された力」と宇宙船が眠っていたとは露ほども思っていなかったそうだ。大広間にあったような美しい美術品が手に入ると思っていたら、即物的な黄金でがっかりしたと彼は言う。
まあ、プリンスが言うことが全て真実かどうかは分からねえが、きっと真実なんだろうと俺は思う。奴は嘘をつけない。ついてもすぐバレる。プライドが高すぎて、嘘をつけないんだよ。
「……とまあそんなわけだったのだよ」
「なるほどなあ、だからシュピーゲルを殺さずに瀕死に留めたってわけか」
「そういうことだよ。いくら保護対象とはいえ、悪戯が過ぎた者には制裁を加えねばならない」
「分かったぜ。プリンス! シュピーゲルのことはお前さんに任せるさ」
「ふむ。じゃあ我はこれにて失礼するよ。また会おう健太郎君」
俺はプリンスを見送り、ログハウスへ戻る。
他のみんなもプリンスの話を聞いていたけど、シュピーゲルをプリンスに任せることに不安を感じた者はいなかったようだな。
プリンスとの話は終わったし、シュピーゲルは今後暴れることもないだろうと安心したところで、今回の冒険もこれにてお開きってところかなあ。
マミは黄金を手に入れることができたから、まあブローチを集めた甲斐は一応あっただろう。
俺達は再びビーチへと繰り出し、パラソルとビーチベッドを人数分用意して冷たいドリンクを飲みながらゆったりとした時間を過ごす。
俺はうつ伏せに寝そべるマミに目をやり、彼女へ声をかける。
「マミ。今回のお宝さがし楽しかったぜ。ありがとうな!」
「わ、私こそ、こんなことになってしまってごめんなさい……」
「まだ気にしてんのかよ! 黄金が手に入ってそれで良しだって言ったじゃねえか! な? ブラザー、ラティア、ウー?」
俺の問いかけに三人は笑顔になり、無言で頷く。
おおっと、ラティアが俺の手を引いて不満そうな顔だ。どうしたって言うんだよ。
「……健太郎……またマミさんの体を見てました……」
マミと話をしてたんだから、彼女の方を見て当然だろう。何言ってんだよ……
「あら、ラティア。健太郎が私の体を見るのは仕方ないわよ。だって……ラティアじゃねえ」
マミはラティアのささやかな胸に目をやり、からかう様に手をヒラヒラと振る。これはラティアの何かに触れたようで、彼女はウサギ耳をピンと伸ばして頬を膨らます。
「……そのうち、成長するもん……」
「どうかしらねえ」
こら、マミ……
「元気でいいことだね」
静観していたブラザーが呑気に呟く。いや、見て分からねえのか。キャットファイトが始まっちまいそうなんだが!
ウーはブラザーよりさらに無関心だ。彼女はラティア達を全く気に留めた様子はなく、ブラザーのグラスにドリンクを注いでいる。
ここは、そうだな……俺は海へと駆けだす。
「ちょっと健太郎!」
「……健太郎……逃げましたね……」
後ろでラティアとマミの声がしたが、俺は聞こえないふりをしてさらにスピードをあげる。
ヘーイ! 次はどんな冒険が待っているのか、楽しみだぜ!
※これにて完結となります。お読みいただきありがとうございました!
おしまい
ヘーイ! 俺は銀河の風来坊(古典的SF冒険活劇) うみ @Umi12345
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