第35話 乾杯!

 黄金の残骸を置いて、まずはハニースマイル号で孤島のログハウスに戻った俺達。

 マミはログハウスに戻るとすぐに自分の宇宙船で黄金の回収に向かう。あれだけの量だ。さぞいい稼ぎになるはずだぜ!


 プリンスがいつこちらにやって来るか分からねえが、一仕事済んだんだ。今夜は盛大にバーベキューをやりながらビールで乾杯と行こうじゃねえか!

 俺はラティアと協力しながら、バーベキューの準備をする。ブラザーとウーには海に潜ってもらい、うまい海産物を採って来てもらうことにした。


 日が暮れる前に黄金を回収したマミが戻って来て、前後するようにブラザーとウーも一抱えほどの魚や貝類を手にやって来たのだった。

 既にバーベキューの準備は出来ていたから、早速ラティア以外に缶ビールを配ると……ラティアが俺の手を引く。


「……私も……ビール」


 ラティアは拗ねて頰を膨らませて俺に抗議する。

 おおっと! ビールを飲みたいのか?


「ラティア、お子様はオレンジジュースだぜ?」


「……私の星では十八歳で大人なんです!」


 仕方ねえなあ。俺は渋々ラティアに缶ビールを手渡す。


「じゃあ、みんなお疲れだぜー! 乾杯!」


「乾杯!」

「乾杯ー!」


 俺の音頭にみんな缶ビールを持ち上げて口々に応じる。


 缶ビールのプルタブを開けると、開いた口からうまそうな泡が吹き出てくる。

 俺は缶ビールに口をつけると一気にビールを飲んでいく。喉を通るビールの感触が堪らねえ! 一仕事ひとしごと終えた後のビールは最高だな!


 ブラザーとウーが採ってきてくれた海産物を次々に網に乗せていくと、すぐにいい匂いが漂ってくる。


「ブラザー、あの時聞きそびれたんだけど……」


「ん? 何かね?」


 ブラザーは腕に張り付くウーをベンチに座らせると俺へ向き直る。


「液体生命体のことだよ」


 俺は戦闘前に疑問に感じたことをブラザーに伝える。

 液体生命体は寿命というものがなくて、自然界ではほぼ無敵の存在に思える。しかし、液体生命体は俺が知るほど有名な生物では無かったんだよな。


 繁殖する生物では無く、ごく稀な自然現象でしか産まれないのか。それとも、あいつらを好んで捕食する天敵がいるのか。

 っても知的生命体だから捕食するとなると問題もありそうだがなあ。

 知的生命体は宇宙法で特段の理由がない限り食糧にしてはいけないという決まりがある。例外はその知的生命体が誰彼構わず襲いかかる危険なものである場合だな。見かけることが非常に稀で保護対象から漏れている場合には、違法に裏社会で取引されることがある。


「ふむ、健太郎。液体生命体は稀な生物ではあるが、誰も知らないというわけではないのだよ。現に私のデータベースに登録されている」


 ブラザーは俺が生物に関心を持ったことに喜色を浮かべ、講義を始めだした……簡潔に頼むぜ……

 

「繁殖方法だが、データベース上、不明になっている。私の予測ではコアが分裂して増えると踏んでいるんだがね」


「コアの分裂としたら、ものすごい速度で増えていかねえか?」


「いや、コアの分裂だったとしても、分裂する周期は少なく見積もって百年はかかると見ている。それに分裂するためには膨大なエネルギーが必要だと、私は推測しているよ」


 んー。エネルギーか。奴らの体の仕組みがイマイチ分からねえな。ブラザーは俺が要領を得ない顔をしていると判断したのか、液体生命体の仕組みについて説明してくれる。

 液体生命体はコアと肉体が離れて存在することができる生命体ってのは、以前聞いたが、肉体からエネルギーを取り込みコアに送るそうだ。エネルギーは俺達人間と同じように食糧を溶かして取り込む。

 で、コアに溜まったエネルギーはコアと肉体の稼働に使われるということだ。詳しい仕組みを説明しようとしたブラザーを慌てて止めて、俺は天敵について尋ねる。

 詳しい体の仕組みなんて聞いても俺には分からねえし、ブラザーの話が長時間になっちまうしな……嬉々として説明するのはいいんだが理解出来ねえし退屈だ。

 

「天敵かね? 君はもう見たではないか」


「プリンスが天敵なのか?」


 確か……プリンスは手のひらから何かを吸収していたな。

 

「うむ。吸血鬼にはドレインという能力があって、液体生命体だけではなく、我々のような固体の生命体からもエネルギーを吸収することができる」


「吸血鬼だからなあ。それは俺も知っているぜ。血を吸ってエネルギーにするんだろ?」


「正確には少し違うのだよ。健太郎。液体からエネルギーを吸い取るのだ。それは血であったり、液体生命体の肉体であったりね」


「なるほど。そういうことか!」


 液体生命体はレーザーの熱や冷凍、爆破など外部衝撃に対して滅法強い。俺の認識だと奴は無敵のような存在に思えたが、吸血鬼にとっては異なる。人間と異なり、手のひらを当てるだけでエネルギーを吸収できる「いい鴨」ってことかよ。


「でだね。健太郎。液体生命体のエネルギーの取り込みと体の仕組みについてだが……」


 まずい、話が体の仕組みに戻っちまいやがった。俺は話を逸らすために、慌ててブラザーにイカの串焼きを手渡すが、彼は止まらねえ。

 俺はウーにこそっと耳打ちすると、彼女は無表情なのに頬だけを赤らめて俺に頷く。頼んだぜ……ウー。

 

 彼女はビールを口に含むと、ブラザーに口づけし口を塞ぐ。彼女はそのまま口移しでビールをブラザーに……

 さすがに口がウーの唇でふさがっているとしゃべれないブラザーは黙り込む。

 

 しかし、ビールを飲み込んだブラザーはウーに苦言を呈すが、俺がすかさず止めに入る。

 ブラザーが必ずウーに文句を言うことは分かっていた。だから俺はウーに囁いた時、ブラザーは何とかするから頼むと言ったんだ。

 

「ブラザー、俺がウーに頼んだんだよ。ブラザーの講義が熱くなりそうだったからな」


「ふむ。それならそうと言えばいいだけではないか……」


「いや、ブラザーは言っても止まらねえからな!」


「そうかね。……液体生命体と吸血鬼については理解したかね?」


「ああ。バッチリだぜ。プリンスにとって液体生命体を管理することに、何ら問題ないことは分かったぜ。奴は既に弱っているし、まあ心配ないよな」


「生物とは不思議なものだよ。液体生命体を物理的に破壊するなら、なかなか大変なんだがね」


 ブラザーはウーから追加の缶ビールを受け取りプルタブを開け、ふと呟いた。

 確かにそうだよなあ。あれだけ頑丈な液体生命体も、吸血鬼にかかればイチコロだ。世の中まだまだ知らないことだらけだぜ。

 だからこそ、冒険は面白いんだ。

 

「ちょっと……ラティア……あっ」


 ん。マミが困ったような声を出しているが……どうした?

 ちょうどブラザーとの会話が終わったから、マミの声がした方向を見てみると……マミの後ろのラティアが立って彼女の大きな胸をモミモミしていた!

 ヘーイ! 俺を差し置いて何てことをしてやがるんだ。ラティア!

 

 あれは酔ってるよな。だからビールを飲むなって言ったんだよ! 言わんこっちゃねえ……

 

 ただ、この景色も悪くねえ。もうちょっと見ておこうかと、俺はビーチチェアに腰かけると、良く見える位置に椅子を調整する。

 

「健太郎! 見てないで何とかしなさいよ! ……あっ、あん」


 何とかしたくねえんだが……ラティアはマミの黒い水着のようなブラの上から彼女の大きな胸をモミモミしていたが、いつのまにかラティアの手は服の下に滑り込み直接おっぱいを揉んでいるじゃなねえか。

 もっとやってくれていいぞ。

 

 しかし、俺を睨みつけるマミの目がシャレにならなくなってきたから、俺はラティアをマミから引きはがし抱き上げる。

 

「健太郎……もっと早く助けて欲しかったわ……」


 マミは涙目で地の底から出るような声で俺に文句を言ってくる。

 この後ラティアは酒のせいか直ぐ寝てしまったから、俺はベッドに彼女を寝かしブラザー達とまた飲みなおすことにしたんだ。宴会は深夜にまで及ぶ……

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