第34話 熱戦! 液体生命体

 俺とプリンスが黄金の船に辿り着くと、船の一部を紫色の薄い被膜が覆っていた。こいつは嫌な予感がするぜ。

 紫色の薄い被膜が覆う船の一部が切り離されたかと思うと、みるみるうちに黄金が球体に変化していく!

 

 球体のサイズは直径およそ五メートルってこところか! どうやって叩き潰してやろうか。このサイズだと冷凍レーザー式ワルサーP380で全体を凍らせることは不可能。

 ならば、球体を解体したらいいのかなあ? また元に戻りそうな気もするがやってみねえことにはどうなるか分からねえな。

 

 まずは、普通のレーザー式44マグナムを撃ち込んでみてやるが……案の定だ……黄金の球体の表面は金メッキみたいになっていて、鏡のようにレーザーを反射しやがる。

 反射率百パーセントってわけなじゃさそうだから、少しは表面を削れているが、黄金の沸点は二千九百七十三ケルビン――摂氏二千七百度――だ。

 レーザーの焦点温度はそれより上だが、大半を反射されちまったから、蒸発させられるのはごく一部だけだぜ……

 

 なら分子分解ディセンブリーしてやるまでだぜ。

 俺は超振動ハンドアックスを構えると、黄金の球体に向かって行く。プリンスは超振動レイピアを気障ったらしく腰から抜き放つ。おおい、プリンス。そんな細い剣じゃあ、叩き潰せないぞ。

 彼にも俺と同じで拘りってもんがあるんだから、何も言わないが……ちょいと厳しいんじゃねえのかな。

 

 だが、俺が黄金の球体に駆け寄ろうとすると、黄金の球体は激しくレーザーを乱射してきやがった。そんな適当な射撃じゃ当たらねえぜ。

 しっかし……当たりはしねえが、これだけ乱射されると近づくのも骨だな。

 

「健太郎君。しゃがんでくれたまえ」


 プリンスは俺と違って球体に向けて駆け出していない。彼はその場に立ち尽くしたまま俺へ悠然と声をかける。

 寒気を感じた俺はとっさにしゃがむと、頭をかすめるように何かが通り過ぎていく!

 

 後方を振り返ると、何をやったのか分かったぜ……プリンスは超振動レイピアを上から下に斬り下ろしただけだ。しかし! あれは超振動レイピアじゃあ無かったみたいだぜ。

 レイピアの軌跡に合わせて、レーザーが発射されているじゃねえか! 弧を描くようなレーザーが黄金の球体に当たると、当たった部分が綺麗に切り裂かれている。それでもレーザーの威力は衰えず、球体を突き抜けて駆け抜けていった。

 

 おおおい! 威力が強過ぎだろう! そうか、あれはレーザーじゃない、熱線ブラスターだ! 焦点温度は六千ケルビンを超えてそうだ。太陽の表面温度並みだぜ。

 黄金の球体の後ろに何かあったらどうするつもりなんだよ。

 

 プリンスの攻撃を受けた黄金の球体は反撃とばかりにレーザーを乱射してくる。

 しかし、そんなんじゃあ当たらねえ。俺は超振動ハンドアックスを上手うわてに構えると、奴を睨みつける。

 

「ヘーイ! そんなんじゃあ当たらねえな。飛び道具ってのは心穏やかにして撃つもんなんだぜ」


 俺は体を思いっきりひねり、超振動ハンドアックスを黄金の球体に向けて放り投げる!

 

――超振動ハンドアックスが放物線を描いて見事、黄金の球体にぶち当たる! 狙い通りだ。当たった場所はさっきプリンスが熱線ブラスターで切り裂いたところだぜ!


 超振動ハンドアックスが黄金の球体の切れ目にハマり込み、超振動の効果で黄金の球体は少しずつ裂け目を中心にヒビが大きくなってくる。

 どうやら、表面と違って中はメッキ状にはなっていないようだ。これならレーザーも効果があるはずだ!

 

 俺はレーザー式44マグナムを構えるとメッキが無い内部を狙い、レーザーを照射する!

 

 おおっと! 俺が急ぎ腰を落とすと、再びプリンスのレイピアが振るわれ黄金の球体を切り裂く! 声くらいかけろよな……

 俺達の一斉攻撃を受けた黄金の球体はバラバラに崩れ去るが、最後とばかりに奴からレーザーが縦横無尽に射出される! 俺は地面に伏せてそれをやり過ごすと、黄金の球体の動きを観察することにした。

 

 さあて、再び球体に戻るのか、それとも紫色の液体だけが出て来るのか?

 

「健太郎君、先に行かせてもらうよ」


 伏せる俺の背中をワザと踏んづけていこうとしたプリンスの足をかわしつつ、俺は彼へ憎まれ口を叩こうとするが、プリンスはものすごい速さでバラバラになった黄金へと迫る。

 プリンスの動きに面食らった俺も慌てて彼を追いかける! 


『健太郎! ここはプリンスに任せて周辺を警戒したまえ!』


 こんな時にブラザーから通信が入りやがったぜ。プリンスに任せて大丈夫ってことだが……ブラザーは無駄な事は言わない。彼の言う通りプリンスには液体生命体の肉体を倒す手段を持っているってことか。

 俺は念のため冷凍レーザー式ワルサーP380を片手に握り、プリンスの後ろに立つ。


『ブラザー、分かったぜ。様子を見守る』


 プリンスは崩れて飛び散った紫色の液体に手を触れる。すると、液体が彼の手に集まり始める!

 何をやってんのか想像がつかねえ! 分かることは、液体生命体の肉体である「紫色の液体」がプリンスの手に集まって来てるってことだけだ。

 

「よくも我をコケにしてくれたね。仕置きをり行う」


 プリンスは相変わらずの芝居かかった仕草で手を天へと掲げると、集まった「紫色の液体」も一緒に持ち上げられる。相変わらずの馬鹿力だな……

 「紫色の液体」の容量はざっと見ただけで四十リットルはあるんだぞ! 軽く持ち上げているように見えるが、水で出来ていたとしても四十キロはある。

 次にプリンスは片手で「紫色の液体」を支えると、もう一方の手を口にやり、指抜きグローブを口で挟んで抜き取った。なんて意味のない動作なんだ……


「健太郎君。これを預かっていてくれたまえ」


 口にくわえた指抜きグローブを手に持ち替えて、俺に差し出してくるプリンス……分かったよ。持てばいいんだろ。

 俺は気が乗らなかったが、彼から指抜きグローブを受け取る。口にくわえたところを触らないように慎重にだ。


「で、何をするんだ? プリンス?」


「まあ、見ていてくれたまえ」


 フンと鼻で笑うプリンスは素手になった手のひらを「紫色の液体」にあてがうと、彼の手の甲に血管が浮き出て腕が脈打つ。多くの部分はピチピチレザーで隠れているが、手から何かを吸っているように見えるな。

 プリンスの動きに合わせて「紫色の液体」が干からびて行くように見える。いや、どんどん小さくなって行っているぞ!

 

 「紫色の液体」は見る見るうちにしぼんでいき、五十センチほどの塊になってしまった。触ってないから確かじゃないが、あれは固体になっているように見えるな。


「完了だ。後はコアを捕らえるとしようじゃないか」


 プリンスは「紫色の液体」だったものを地面に投げ捨てると、赤い目を光らせて周囲を探索している。彼は吸血鬼でコウモリのような超音波を使って「見る」ことができるんだ。

 彼の動きを見て、俺は多機能ゴーグルの「ソナー」機能をONにする。

 

 プリンスがゆっくり歩きながら「コア」を探している間に、俺はさきほど彼が投げ捨てた「紫色の液体」だったものを軽く踏んでみるが、硬い。足で軽く蹴って転がしてみると、ゴロンとそれは転がる。

 ほお。固体になっているな。中の水分を全て抜き取られたかのようだ。これは……生きてはいないな。直感的に俺はそう感じ取った。


 おおっと、俺もコアを探さないとなあ。俺は「紫色の液体」だったものを放置して、プリンスの探索に加わる。

 ほどなくコアは見つかり、プリンスが手で掴み取る。ソナーならばはっきりとコアを彼が掴んでいることが確認できた。

 

「これで、エネルギーを吸ってしまえば無力化できる」


「さっき『紫色の液体』にやったようにか?」


「ご名答だよ、健太郎君。それではエネルギーを……むっ、これは!?」


 プリンスの顔が驚愕きょうがくに歪む。

 その次の瞬間、黄金の船の船体の一部が再び切り離されて、全高3メートルほどの巨大な人型を形成するとプリンスに殴りかかったじゃねえか!

 油断していたプリンスは、その巨大な腕の一振りに吹っ飛ばされる!


 なるほど、そのコアは偽物ダミーか! そして本体の一部を黄金の船の残骸に隠してやがったな。


 黄金で出来た巨人は球体と同様にメッキ状に輝いていてレーザーは有効じゃなさそうだ。超振動アックスは球体の残骸の中で、まだ取り戻してねえ。プリンスのブラスター熱線レイピアはプリンスと一緒に吹っ飛ばされちまった。やれやれ、あの黄金巨人を倒す術がねえぜ。大ピンチだな。だが、男はピンチの時ほど冷静にならなきゃいけねえ。


 俺は何か無いかとおもって周囲を見回してみた……何だあれは?

 ソナーに何か変な反応がある。非常に薄い反応なんだが、空中に小さな何かが浮いてるような反応があるんだ……へえ、そういうことかい。


 黄金の巨人は今度は俺に向かって巨大な腕を振り回して襲ってくる。だが、油断さえしてなきゃ、そんな大ぶりな攻撃には当たらないぜ!


 俺はその腕をかわし、空中の反応を冷凍レーザー式ワルサーP380で狙う!


「液体生命体よお、飛び道具ってのは心を穏やかにして撃つもんなんだぜ!」


 銃の引き金を絞ると、相手の運動エネルギーを低減させる冷凍レーザーがワルサーの銃口から放たれ、怪しいソナー反応がある位置に正確に命中する!


 その瞬間、それまで何も無かった空中に直径十センチくらいの球体が氷に包まれて出現し地面に落下する。こいつが、液体生命体の本当のコアだろうな。

 コアが落ちたからだろうか、時を同じくして黄金の巨人は動きを止めると、グズグズと崩れて黄金の塊に戻っていった。やれやれ、何とかなったようだな。


 吹っ飛ばされたプリンスの方を見ると、頭を押さえながら起き上がっていた。丈夫な野郎だから心配はしてなかったが、案の定無事のようだな。


「やれやれ、我としたことが油断をしてしまったよ。健太郎君には借りができたようだね」


「いいってことよ。それより、このコアはどうするんだ? まだ死んじゃいないと思うぜ」


 冷凍レーザーで三十ケルビンの温度まで下げることはできたが、まだ一時間も照射してはいないからな。


 「これは、我がエネルギーを吸ってしまおう」


 プリンスは冷凍されたコアを手に取ると、先ほど「紫色の液体」にやったのと同じように、手のひらからコアのエネルギーを吸い取る。すると冷凍されていたコアはさらに小さくなっていく。

 彼は小さくなった球体を銀色の箱の中におさめ、俺へと向き直る。

 

「健太郎君、手間をかけた」


「何をやったのか、説明してくれねえか? 後、そのコアはどうなるんだ? また暴れられたら敵わねえからな」


「コアについては心配しないでくれたまえ。もう力はないよ。残りのエネルギーは0.01パーセントにまでげんじたからね」


「液体生命体のエネルギーを吸った? のか?」


「ご名答。さすが健太郎君だ。このコア……シュピーゲルが二度と暴れないことは我が保障する。お詫びになるか分からないが、散らばった黄金は君たちが持ち帰るといい」


「黄金!? これ全部……黄金なのか?」


「紛れもなく。液体生命体が操ることができる金属は金と白金だけだからね」


「液体生命体はこの後どうなるんだ?」


「これだけでは我の気が済まないからね……長い年月をかけて仕置きを行いたいのだよ……滅してはそこでおしまいだろう?」


「……悪趣味な奴だぜ。お前さんに任せても大丈夫なんだな?」


「さきほども言ったが心配しないでくれたまえ。我の矜持きょうじに誓おう」


「分かった。プライドの高いお前さんのことだ。俺は信じるぜ!」


「ふふ。君も相変わらずだね。これで信じるとは……」


 俺とプリンスはニヤリと笑うと、俺は彼に指抜きグローブを返却する。

 正直、何が起こったのか全く意味不明なんだが、ブラザーに聞けば分かるだろ。

 

「そうだプリンス。そのシュピーゲルとお前さんの関係性とか、大広間のこととか聞きたいんだが」


「ふむ。ここで長時間会話をするのは無粋だろう? 君の拠点か我の拠点で経緯を説明しようじゃないか」


「分かった。俺の拠点……ログハウスに来てくれるか」


「了解だよ。健太郎君。ではまた後程……」


 プリンスは片手を振ると、俺に背を向け悪趣味な色をした小型飛行機グライダーへと戻って行く。

 俺もハニースマイル号に戻るか!

 

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