第35話 復讐の果てに。
「復讐する者だと?」
「そうだ」
「地球が鋼鉄兵団に何をしたっていうんだ? お前達が一方的に攻撃を仕掛けてきたくせに」
「とぼけるつもりか。お前等地球人が作った核ミサイルによってわしの星は滅んだんだぞ」
「地球は宇宙人に攻撃したことなんてないぞ。その核ミサイルだって少し残ってはいたが、大半は放棄したんだからな」
「もしかして、その放棄された核ミサイルのことじゃないかしら」
「宇宙連合発足に当たって宇宙に放棄された核ミサイルのことだっていうのか」
「それのことだ」
「放棄された核ミサイルが、お前の星に落ちたってことかよ」
「そうだ。あの日のことは今でもはっきり覚えているぞ。お前等の核ミサイルがわしの両親や恋人に友の命を奪ったことをなっ!」
憤慨した老人は、大きく目を見開き、弱々しい外見からは想像できないほど力強い怒鳴り声を上げてきた。
「星が全滅したにのにどうしてお前だけは生き残っているんだ?」
話を聞いている中で、思い浮かんだ疑問を口にする。
「その時、わしは父の地下研究所に居て、直接の被害を免れることができたからだ。他にも僅かな生き残りは居たが、核ミサイルが撒き散らした放射能によって一人また一人と死んでいったのだ。ただ、同胞の死を見ていくしかなかったわしの気持ちがお前等に分かるか?」
「核ミサイルが廃棄されたのは百年以上も前なのに随分長生きだな」
「わしの星で開発していた医療カプセルを改良してどうにか生き永らえてきたのだ。復讐を終えるまで死ぬわけにはいかないからな」
「酷い目に合ったことは気の毒に思うが、お前だって他の星を散々滅ぼしてきているんだから被害者面できる立場かよ」
「それは生き物が弱いからだ」
悪びれることなく、平然とした態度で言い返してくる。
「お前等がよく口にする弱き者ってやつか。あれはどういう意味だよ」
「死んでいく同胞を見ていく内に生命の弱さと脆さに絶望したからだ。そこで絶対に滅びないものを創造しようと決めたのだ」
「それが鋼鉄兵団ってわけか」
「そうだ。父の研究を元にわしが造り出した何者にも滅ぼすことのできない絶対の存在だ」
自身満々な返事だった。
「その力で他の星を滅ぼしていったのはなぜ?」
「生命とは弱く脆く簡単に滅びる。だから、お前等を探す傍ら先に滅ぼしてやったのだ。わしなりの親切だよ」
身勝手な理屈を口にしていく。
「ふざけやがって、そんなことをしているお前だって他の星の生き物からすれば復讐の対象だぞ」
「ふん、お前達が核ミサイルを放棄しなければこんなことにはならなかったぞ。一番の元凶が何を言う!」
「そうかもしれないが、お前の復讐もこれまでだ」
「甘いな。この程度での敗北でわしの復讐を止められたと本気で思っているのか?」
老人は、邪悪な微笑みを浮かべだした。
「それはどういう意味だ?」
「あれを見るがいい」
老人が指差す方を見ると、機械惑星が動き出しているのだった。
「お前、何をするつもりだ?」
「我が星を月と地球にぶつけてやるのだ! お前達に止められるか~? あはははっ~!」
老人は、完全な勝利を手に入れたかのように狂気に満ちた笑い声を上げた。
「・・・・もういい」
健は、ハカイオーの右手を灰色のまま閉じて、カプセルごと老人を握り潰した。
「健、どうして・・・・?」
明海が、信じられないといった声を上げる。
「あのじいさんは復讐に取り付かれ過ぎている。生かしておいてもしょうがないよ」
健は、冷めた声で返事をしていたが、右手は僅かに震えていた。
「それでどうするの?」
「機械惑星を破すに決まってんだろ。ここからは俺とハカイオーだけで十分だから明海は力を使わなくてもいいぞ」
「わたしの力が無くて大丈夫なの?」
「あんな惑星一つハカイオーでぶっ壊してやる」
ハカイオーに翼を形成させて、月面から飛び立って機械惑星に向かっていった。
「どうやって破壊するの?」
「ハカイオーが地球を破壊しようとした時と同じように中心部を攻撃して破壊するんだ。その後は爆発の影響が少ないことを祈るしかない」
「心配しないで、その時はわたしの力で守るから」
「ああ、頼んだぜ」
あまり気乗りしない返事をした。
健は、翼を分解してハカイオーの全身を包み、ドリルのような形態に変形させて向かっていったが、機械惑星は眼中に無いかのように一切攻撃してこなかった。
健は、抵抗されないことを不信に思いながら表面を削って内部に突入した。
内部に入ってからも一切攻撃されず、地中を掘り進むようにスムーズに突き進むことができた。
「もうすぐ中心部に着くぞ!」
内壁を突き破ると目の前には、太陽のように赤く明滅を繰り返す中枢機関が飛び込んできた。
「こいつを破壊すれば終わりだ!」
健は、ドリル形態を解いたハカイオーに高出力のビームを放射させ、その攻撃をまともに受けた中枢機関は、赤味を増して膨張し始めた。
「外に出るぞ!」
入る時に開けた穴を通って、外に出てからハカイオーを一旦停止させて振り返ると、機械惑星は方々から火を噴き出し、今にも爆発しそうだった。
「これで終わりだな」
健は、安堵して静かな声を上げた後、振り返って明海の様子を伺うと、じっと身構えていた。
爆発の規模によっては、自分の力を使う場合に備えているのだろうと思った。
だが、二人の予想とは裏腹に火は萎み、その後は損傷箇所も徐々に塞がり、元通りの姿に再生したのだった。
「いったい、どうなっているの?」
「機械惑星の再生力が働いたんだ。あれ自体が一つの個体みたいなもんなんだろ」
「じゃあ、どうするの? 早くしないと月とぶつかるわ」
「そうなる前に壊すまでだ!」
健は、機械惑星に向かい、青い焔を伸ばした剣で真っ二つに斬る、ビームを最大出力で放射して表面を抉るといった方法を取っていったが、機械惑星は全ての攻撃を無意味だと言うように再生していきながら、月への進行を続けていくのだった。
「まずいわ。このままじゃ月が壊されちゃう・・・・」
「ちっくしょう~!」
健は、ハカイオーを機械惑星と月の間に移動させ、最大出力でビームを放射して機械惑星を貫いたが、それでも止まる気配はなかった。
「壊れろ!」
機体崩壊の危険を知らせる警報が鳴るのも構わず、最大出力のままビームを放射していく内に、ハカイオー全体にひびが入り始めていく。
「壊れろっぉぉぉおおお!」
後の事を考えずに放射し続けていくと、ハカイオーは胸部装甲が弾け飛び、左手と下半身は粉々に砕け散っていくなど、限界に達した分だけのダメージを負っていった。
その分だけビームは、今までで最大の太さになって放射され、機械惑星をぶち抜いて大穴を開けてドーナツのような形にした。
「どうだ?」
激しく息を切らしながら目を向けたモニターに映る機械惑星は、穴を再生させながら向かってくるのだった。
その様子を見た健は、なんとしてでも復讐を遂げようとする老人の執念を見せ付けられたような気がした。
「ここまでやってダメなのかよ~」
健は、悔しさと落胆のあまりに全身から力が抜け、両手はずり落ちるように操縦倬から離れていった。
操縦を放棄されて動かなくなったハカイオーの前に、半分以上再生した機械惑星が迫ってくる。
「健、避けないと激突するわよ」
明海の呼び掛けに対して、健は答えなかった。
「健、ハカイオーを動かして! わたし達がここでやられてどうするの!」
明海は、出せる限りの大声で、健を叱咤した。
健は、無言のまま右手を動かして操縦倬を握り、ハカイオーに翼を形成させ、機械惑星の軌道上から離していった。
それによって月は、再生していく機械惑星の穴に飲み込まれるように押し潰されていった。
「これじゃあ、地球も終わりだわ」
明海が、月の崩壊を前に泣き崩れて、絶望の声を上げる。
「・・・まだ終わりじゃない」
「どうするつもり?」
「最後の手段を使う。明海は外へ出てくれ」
「え?」
明海が、返事をする間もなく、健はハカイオーの後頭部ハッチを開けて、ブレインポッドを宇宙に出した。
「明海、ヘルメットを被ってくれ」
「ヘルメット?」
「いいから早くしてくれ」
健は、自分のヘルメットを被った後、明海がヘルメットを被ったのを確認してキャノピーを開け、腰を掴んで外へ出した。
「明海、元気でな」
健は、キャノピーを閉じてブレインポッドをハカイオーに戻し、操縦桿を動かして唯一残っている右手で明海を掴み、右腕を遠くへ飛ばした。
「これくらいでいいだろ」
明海を安全と思える距離まで飛ばした後、右腕をハカイオーに戻した。
「なあ、ハカイオー。じいさんはお前を造る為に命を捧げて、親父はお前を完成させる為に命を捧げて、母さんはお前を直す為に命を捧げた。俺はお前の力を解放する為に命を捧げてやるよ」
健は、ハカイオーの右手を装甲の無い胸部へ突っ込ませ、中枢機関である万物破壊装置を鷲掴みにして引っ張り出した。
機体の外に引きずり出された破壊装置は、何本ものケーブルと繋がっていて、人間の臓器のようだった。
健は、装置を一瞥した後、大きく深呼吸してから握り潰した。
その直後、大量の破壊粒子が溢れ出て、健とハカイオーを呑み込み、機械惑星と地球を覆うくらいの範囲に放出されていく中で、徐々に人の形を形成して、ハカイオーに酷似した漆黒の大巨人になった。
大巨人は、右腕を大きく振り降ろして、機械惑星を猛烈な勢いで削って、月から切り離した後、左腕や両足を振るうといった猛攻を行い、再生するより速く削って小さくしていった。
そうして剥き出しになった中枢機関を右手で握り潰すことで、機械惑星を跡形もなく破壊したのだった。
破壊行為を終えた大巨人は、振り返って地球を見た後、薄れていくように消滅した。
「終わったのか? 俺達助かったのか?」
ドメルが、空を見上げながら言った。
「機械の星が無くなったんだから助かったんだろうさ」
同じように空を見ているアマンダが、やや自信が無い感じで返事をした。
月市民を乗せた船団は、地球の中でもパトラの被害がもっとも少なく、人が居ない砂漠地帯に着陸したことで、月の半壊による津波の被害から免れ、大巨人が機械惑星を破壊する様子の一部始終を見ることができたのである。
「健! 健!」
アマンダ達の側で片膝を付いているホルスに乗っている珠樹は、健の名前をひたすら呼び続けていた。
「健がどうかしたのかい?」
コックピットに入ってきたアマンダが、声を掛けてくる。
「機械惑星が無くなってからずっと呼び掛けているのに健からの応答が無いんだよ!」
珠樹は、両目に涙を浮かべながら返事をした。
「珠樹、あんたも見ただろ。あのでっかいのが健とハカイオーだったんだよ。あいつは自分を犠牲にしてあたしらと月と地球を守ったのさ」
アマンダが、苦い表情を浮かべながら励ましの言葉を口にする。
「健~!」
珠樹は、コックピットの中で泣き崩れた。
「いつまでも泣いていないで、さっさと明海に通信を送りな。まだ生きているかもしれないよ。健があの子を巻き込むわけがないからね」
「そうだね。明海。明海。生きているなら返事をして」
珠樹は、明海に通信を送った。
珠樹の通信は、明海に届いていたが返事をしなかった。
健の死を前に涙が止まらず、返事をすることができなかったからだ。
「っ! この感じ・・・。そうか。健、ここに居るんだね。こちら明海、わたしは無事だよ」
明海は、自身に小さな命が宿っていることを感じながら返答した。
こうして人類の核ミサイルの放棄によって引き起こされた一人の老人の復讐は、多大な犠牲の上に終わりを向かえたのである。
超鋼機神ハカイオー いも男爵 @biguzamu
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