エピローグ
「最初に結論から申し上げれば、この村を統治するのは誰にも不可能である。
そう。 それはいかなる者にも乗り越えがたき難題であった。
この人気作家にして希代の天才と呼ばれた自分以外には」
ケーユカイネンの、建国式典……それは、奇しくも俺がこのケーユカイネンに初めて訪れた日付であった。
純白で統一された壇上の上で、俺は民衆を前に言葉をつむぐ。
「ある時はこの魔境の特産物の存在を欲深きものから守るために東奔西走し、またある時はこの土地に存在する植物とその利用方法を研究。
賊としてやってきたもの共を説得して民として迎え、またあるいは自ら赴いてその生活を支え、さまざまな医薬品を開発してこの地を快楽と娯楽の都へと育ててきた」
俺の言葉にある者は苦笑いをし、またある者は涙ぐむ。
思えば、策謀を練りながらのスローライフを楽しむつもりがずいぶんとハードな生活を送ってきたものである。
だが、後悔などしてはいない。
反省は多くとも、悔やむことなど何も無いのだ。
失敗が無かったとは言わない。
アンナのことを含めてまだまだ課題は存在している。
だが、賢いものはそれらを未来へと進むための糧にすることが出来るのだ。
人はそれを叡智と呼ぶ。
「このようなことを、成し遂げたのは誰だ?」
そう問いかけると、誰もが声をそろえて俺の名を高らかに叫んだ。
そうだ。 それでいい。
幸せな物語の終わりは、そして新たな物語りを始める日には、ただひたすら陶酔するような恍惚と輝かんばかりの華やかさがあればいい。
ドス黒い不幸と向き合うのは跡からで十分だ。
「このようなことを、他に出来るものが俺のほかにいるか!?」
このような傲慢な言葉さえ、この場においては名誉となる。
さぁ、俺の復讐の物語は終わった。
だから、紡ごうか。
新しい物語を。
俺の名を呼ぶ声が混ざり合い、ザワザワと海鳴りのように世界を満たす。
「俺はこの領地でただ一人の人間として、そして為政者として宣言する。
いま、このときをもって、俺はこの村の代官を返上し……」
そして俺は、代官としての自分を終わらせ、新しい物語を語るための言葉を世界に響かせた。
「この魔境の王……すなわち魔王を宣言する!!」
魔境のお代官様――この里に人間は俺しかいません 卯堂 成隆 @S_Udou
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