3.死亡後

「前世」 「カルマ」 「運命」

 貴方はこれらの言葉を聞いていったい何を思い浮かべるでしょうか。どこかのアーティストの楽曲や劇中のキャラクターの台詞、果ては危ないオカルト宗教団体の世迷言・・・などといったように、フィクションや眉唾ものの世界でだけ活用されている特殊な概念のように感じる方も多いかもしれません。

 しかしこれら「輪廻転生」と呼ばれるサイクルは、実は死亡後の世界においてはごくごく当たり前のシステムであり、むしろそれが理解できないとまるで田舎から来たお上りさん(図5)かのような特別な扱いを受けてしまう場合もあります。それほどまでに、死んだ人間にとって「転生」とは大変身近な仕組みなのです。

 しかし、人は出生時のバタバタでどうしてもその仕組みを忘れがちですし、その後の日常活動の中においても、「次産まれ変わるときは・・・」などと考える機会はほとんど皆無に等しかったことでしょう。


 そこでこれからご紹介する3章・4章では、死亡後から転生までの大まかな流れや最低限必要な知識などを、皆様がイメージしやすいよう「会社とそこに所属する社員」という設定に置き換えながらお伝えしていきたいと思います。ただそのため少しばかり歪曲された表現になってしまう可能性もありますので、章の最後に改めて本来の言葉の意味や用語の解説なども合わせてご案内いたします。

 貴方もいよいよの土壇場で慌てふためくことのないよう下記を参考にしつつ「もし自分だったら」とご自身に当てはめながら、より実践的にお読みいただくことをお勧めいたします。


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 貴方はとある会社「A社」の新人社員(図6)です。主な仕事内容は専ら「営業」活動であり、その勤務のほとんどを社外で過ごします。実際の業務の詳細としては、まず今回の「営業」での目標を確認し、社外にて「他社」との取引を経験、変化する周囲の環境への対応策、それらがもたらす自身への影響などありとあらゆる情報を収集し、そして最後にはそれを「A社」に報告する、ここまでが貴方の全うすべき職務の基本的なところとなります。

 もちろん貴方はまだ新人なので、全てを一人で任されているわけではありません。人数はその方のスキルによって異なりますが、ほとんどの場合は「先輩社員」(図7)がフォローのため貴方に付いて回ります。取引先などで何かあればこの「先輩社員」が後ろからアドバイスをして貴方を助けてくれるのです。

 また貴方を助けてくれるのはそれだけではありません。「A社」の中には常に各社員の守るべき目標を定め、社員をサポートし会社全体ををまとめ上げる「上席」(図8)の存在があります。ですから貴方が困った時にとるべき行動は、マニュアルとまではいいませんがある程度「営業」に出る前に決められているのです。


 「A社」には貴方以外の社員もたくさん在籍しております。貴方と同じように皆それぞれの目標を携えながら「営業」をこなしていき、最終的にはそれを「A社」に提出、そこから得た情報を会社全体、ひいては一人一人の社員で共有し合うという仕組みになっています。

 ただし、例えば貴方が営業中にもし同じ会社の社員に遭遇したとしても、余りに「A社」に在籍している社員の総数が多いため、同社であることをお互いが気付かないというパターンが多くあります。もし同社の人間に気付けるとすれば、それは相当長い勤務経歴を持っている所謂「ベテラン社員」(図9)に限られてくるのです。

 しかし中には同社とは気付かぬまま、お互い目指す目標が似ていることも手伝ってか、何らかのシンパシーを感じすぐに意気投合し仲良くなってしまうということもあるようですが。


 ちなみにこの「A社」のような会社は他にも数多く存在しています。それこそ星の数ほどある様々な特色を持つ「他社」と、貴方は常に関わり合い理解し合えるよう最善の努力をし、そして常に自分の所属する「A社」とのパイプ役を務め上げているのです。貴方自身はそうとは知らずに。


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 さて、ここまでの内容でご理解はどの程度進まれたでしょうか。勘のよろしい方あるいはオカルトにご興味のある方でしたら、おそらくこの時点で上記の「  」内がそれぞれいったい何を表しているのか気付かれているかもしれません。しかし中には、何のことやらさっぱり分からないという方もいらっしゃるかと思いますので、一度答え合わせも兼ねて解説をさせていただきたいと思います。

 まずは「A社」という会社の仕組みですが、生前の世界で一番近い表現としては「類魂」という考え方があります。分かりやすく言えば、趣味趣向が似ている気の合う仲間、といった感じです。次に「営業」ですが、これは単純に「人生」「生命活動」についてを表しています。ですから現実の営業職との大きな違いとしては、人により一度の外回りが何十年も続く場合があるということでしょう。その他に「先輩社員」は所謂「守護霊」、「他社」はそのまま「他者」に置き換えることができます。ちなみに「上席」と「ベテラン社員」については次章でご説明いたします。


 本章でまず一番先に皆様にお伝えしたかったこと、それは死亡前と死亡後の世界は実のところ、単純な構造からなる地続きの世界なのだということです。死んでいきなり夢のような世界にいったり、地獄に落ちてしまったりといった突飛なものでは決してありません。どのような人生を送った方にも必ずそれ相応の「続き」が待っているのです。もちろん生前の「営業」次第でその「続き」は千変万化いたしますが・・・

 では次の4章では実際に転生に到るまでの方法をいくつかご紹介したいと思います。生前に出来る努力も数多くございますのでぜひご参考になさってください。

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死んでから覚えておきたい5つの事 小早川 丈夫 @takeo_kobayakawa

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