第49話
ドッタタドッタタというバスドラとスネアの激しい組合わせのリズムに乗せて、力の限りおれはバキバキ、ベキベキとスラップする。そこに理子は、あの時の俺の魂の叫びを代弁するかのような高音のチョーキングで火花を散らすようなフレーズを畳みかける。
「神様―!飛んで!」
おれと理子は同時にぴょんぴょんと飛び跳ねた。
同時に神様たちもジャンプする。ものすごい人数のうねりだ。そこかしこで砂煙がもうもうと立っている。このまま、神様がこちらにごうごうとなだれ込んでくるんじゃないかという錯覚におちいる。
一転、激しく突っ走った曲はサイレントパートでブレイクする。理子のトゥクトゥクトゥクトゥクという単音のリフだけが静かに響き渡る。
「神様!ここで一旦座って!座る、わかる?そうそう。みんな座って・・・」
おれのジェスチャーでさすがに「座る」は通じたのか、神様たちはしゃがみ始めた。きちんとライヴのセオリーをわかっている。素晴らしい。おれもこんな人数を前に演奏したことなどないから、どこかのバンドがやっていたことの見よう見まねだけれど、ブレイク後のジャンプをやってみようと思ったのだ。
「神様、ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつで飛ぶよ!」
―おおーう!
どうやら通じているようだ。どん、どん、どん、どん、と善太がバスドラを入れ始める。善太は倉庫の中なので、立ち上がってバスドラを踏みながら窓外の様子をうかがっている。この壮観がすべて見渡せないのはちとかわいそうだ。オトタチは倉庫の入口側に立ち、手を合わせておれの方を見ていた。彼女の周りにはうっすらと輝く金色のもやのようがかかっているように見えた。かすかに頷いたようで、おれもそれに応えて笑顔をつくった。
「高天原!いくよー!」
理子が高らかに叫ぶ。
―うおーう!
その声を受けておれと理子は同時に声を上げる。
―ひとーつ!
―ふたーつ!
―みーっつ!
―よん!それーっ!
神様とおれたちは同時に飛び上がった。ドーンドーンともはやドラムの音だか、足踏みの音だか区別がつかないほどの轟音が響き渡る。おれと理子は喉が張り裂けるくらいの声で叫んだ。
「ゲッコウゲキオ!ゲッコウゲキオ!」
―ゲッコウゲキオ!ゲッコウゲキオ!
神様たちとおれたちは一体となり、最後にはまるで呪文のようなその言葉を叫びながらもう夢中になって激しく体を上下させた。
そうして、とんでもないエクスタシーを感じたままおれたちは激昂擊男を終わらせた。
ギルモアヘッドの『神の国ライブ・ツアー』 なるかみ音海 @otominarukami
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