最終章

━━━ 数年後

ハルが居なくなってから数年。

俺は今もこの地にとどまっていた。

生徒としてではなく、教師として。


ハルの手紙を読んでしばらくは部屋に引きこもっていた。

しかし、何度も手紙を読み返しているうちに決心したのだ。

この学校に、教師として戻ってこようと。

いつまででも、ハルを待っていようと。


今日からまた、俺はこの学校でハルを待つ。

入学・着任式よりもはるかに早い時間から学校に来ていた。

しかし、その足は新校舎ではなく旧校舎のほうに向いている。


古くなった校舎の扉を開け、二人で待ち合わせていた教室へと足を進めようとして、俺は立ち止まった。

数年間誰も立ち入っていないはずなのに、埃っぽい床には規則正しい足跡がある。

その足跡に続くように歩いていくと、教室の前でそれはなくなっていた。


教室からは、覚えのあるメロディーが聞こえてくる。

甘く、切ないメロディー。

これは、あの日にハルが弾いていた曲。

俺は勢いよく教室の扉を開けた。


「……久しぶり、シグレ。」

「ハル……どうして、ここに?」

「手紙に書いたでしょう?

いつかまた、ここで会える日を待ってます。って」

「だけど……」

「シグレ」


幽霊だったのに、おかしい。

と言う前に、ハルが俺の言葉を遮った。


「ただいま、シグレ。」


また見たいと思っていたハルの笑顔。

そして、ハルのその言葉に合わせるように俺は言っていた。


「おかえり、ハル。」

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