過去に書籍化を経験した翔(わたる)は、現在東京で塾講師をしています。
出版した本は1冊。
その一冊が、とある大物から酷評されました。そのせいもあり、なかなか次作にめぐまれなかった翔。
現在はペンネームを替え、小説投稿サイトで『異世界転生もの』を細々と書いていました。
そこに現れたのが愛加里さん。
ひょんなことから知り合った彼女は、翔に「賞が取れる小説の書き方を指導してほしい」と言い出します。
戸惑いながらも彼女の指導を引き受け、そして知ることになるのは彼女の過去や、「どうして賞を取りたいのか」という理由。それは……。
主人公翔は、過去に一冊だけ書籍化を経験します。
ですが次が続きません。
その苦さ。辛さ。もどかしさ。
賞をとるまでは、「たとえ一冊でもいい。書籍化したい」と思い、いざその夢が叶えば、「次は二冊目」「重版」「シリーズ化」……。どんどん思いは膨らみます。
もがきながら、苦しみながら、気づくのです。
書籍化は、スタートラインに立っただけなのだ、と。
翔は不幸な理由も重なり、なかなか次作につながりませんでした。
妬んだり、ひがんだり、世の中をくさしたりしますが、それでも彼は書くことをやめませんでした。
それが、現実を大きく変えていきます。
たった一冊。
たかが一冊の本。
でもそれが誰かの心を癒し、和ませ、また明日も生きていく糧になることを願い、物書きは「嘘をつく」。
読み終わり、本当にいろんなことに思いを巡らせた小説でした。
全20話。14万字の本作。
できれば。
できれば一気読みをおすすめしたい。
今年の年末は、カレンダー通りならば、例年より休日が多い人もいるのではないでしょうか。
その機会にぜひ、この作品をおすすめいたします。