OLは魔女

@tommy999

第1話

私、森村優子は、転職を考えていた。同世代の古株が次々とリストラ対象にされていたのだ。

そんな時、大学時代の友人から好待遇で、転職の誘いを受けた。しかし、直ぐに乗り気に慣れなかった。

彼とは、それほど親しかったわけではないし、職場の実態なんて、実際に働いてみないとわからない。それに、まだ、私は実際に肩たたきにあったたわけでもない段階だ。

しかし、状況は思った以上に急ぐ必要がある気もする。この年で転職となれば、失敗すれば、リストラと事実上、同じ運命だ。

人生というのは、大きな節目の選択の時に限って、ほとんど判断する材料は与えられないものだが、今、まさにそれを実感している。

私は仕事も手がつかず、家でもそんな事ばかり、考えていた。そんな時、ふと、幼い頃に姉が触っていた、タロットカードが家の戸棚にしまい込んでいたのを見つけた。なぜか、私のところに今日まで、あったのだ。

「ふーん、これって、確か、占いに使うヤツだよね」

何も知らない私は、ネットでやり方を調べ、なんとなく、見様見真似でやってみる事にした。素人だから、一番、簡単な方法にした。知りたい事を頭で願って、一枚、引くだけである。

カードには、たくさんの棒を背負って、その重さで苦しんでいるような男性の絵が描かれていた。調べてみると、意味は厳しい環境で押しつぶされる寸前という感じで、要は転職すると、ひどい目に合うという答えのようだった。

「む、意外とはっきり出るんだな」


しかし、素人占いなんて、当てにならない。どうせ、他に判断材料もないのだから、本格的にプロの占い師を探して、占ってもらうのも一興かもしれない。問題は誰に占ってもらうかだ。

有名な占い師はものすごく高額だというし、占ってもらうまで、何か月も予約でいっぱいだと聞く。どこかに、隠れた本物がいないかと、ネットで探していたところ、元占い師で、廃業した人が業界裏話を書いているブログを見つけた。


そうだ、辞めた人なら、もう、利害関係がないから、隠れた本物を知っているかもしれない。そんな、安易な発想から、ダメ元で問い合わせメールを出してみた。

すると、一般人には、無名だが、業界では有名なA先生という占星術師にお願いしてみてはどうかという返事が来た。金額はメール鑑定で1万円。なかなかの金額だ。

しかし、今回は人生の分岐点になる可能性が高いのだ。思い切って申し込んでみる事にした。


すると、

「最初はダメですが、3か月後には、充実してきます。転職した方が良いです」

という、非常に短い、事務的な返事が届いた。

一瞬、これで一万円?と、思ったが、何せ、隠れた本物。余計な事は言わない、質実剛健な態度は嫌いじゃない。むしろ、期待感が出てきた。


私は結局、友人の会社の面接を受ける事にした。とにかく、この時、何もしないまま、リストラの順番を待つ選択肢は私の中にはなかったのだ。


会社は結構な規模の総合ビルにあった。普段、会議に使っているという部屋に通されると、既に数名、面接担当者の社員が待っていた。

皆、丁寧に仕事内容を説明してくれた。そして、何度も確認したが、その好待遇は本当だと、その場の全員が断言してくれたし、なぜ、待遇がよいのか、それは業界自体が上り調子で人手不足だからという理由も明確だった。

IT関連の記事をリライト、編集する作業だった。私はIT会社に勤めていたので、その知識が買われたらしい。しかし、編集作業など、未経験だったので、ちょっと、不安はあった。そう、その時は、仕事内容の不安しかなかったのだ。


 結局、私は転職を決心して、そのまま、その会社と契約を結んだ。次の日には、今の会社に退職届を出した。向うも、待ってましたとばかりに、一切、引き止める事はなかった。


しかし、私の新たな人生設計は、見事に、覆されることになる。出勤初日に、仕事場とは別の部屋に通され、面接の時にいなかった、エライさんから、

「森村さん、せっかくだけど、予定の仕事の9割が無くなったんだよ」

と、あっさり、言われたのだ。

さすがに向こうも、いきなり初日にクビには出来ないという空気があり、しばらくは研修という事で、仕事を覚えて欲しいと言われた。また、忙しくなってくるはずだからとも言われたが、顔は、そんな事はない、早く辞めてくれと訴えていた。

あの占い師の予言どおり、最初はダメというところまでは当たった。

しかし、三か月間も我慢できるのだろうか。最初の2日間だけ、連続勤務があったが、それから、2日に一回、3日に一回と間隔が延びはじめ、1か月もしないうちに3週間に1日しか、呼ばれないようになっていった。

気が付いたら、例の3か月が迫っていた。状況は悪化するばかりだ。

ある日、誘ってくれた友人からメールが来た。金曜日の夜に合わないか?とだけ書かれていた。当日、居酒屋で合う事になった。彼は席についたとたん、


「辞めるんなら、今だよ」


と言った。彼は会社の体制が変わって、人を減らす事になり、仕事はもう、待っていてもない。自分の立場すら危なくなったと言った。


私は結局、その場で、彼に社内に入室する為の電子キーを兼ねた社員証を返した。要は、彼は会社に指示されて、私をリストラする係として、この居酒屋に来たのだ。


振り返ってみたら、最悪である。彼の方から好待遇を条件に、転職を薦められ、三か月直前に、今度は事実上の解雇宣言とは、あまりにひどい話だ。


そう、結局、1万円の隠れた本物占い師の予言は見事に外れたのだ。紹介してくれたブロガーさんには、何も言えなかった。どこかで、「占いなんかに頼った自分が悪いんだ」という想いがあったからだ。それに、あの面接のとき、おそらく、誰もが、未来がこうなるとは、知らなかったのではないかとも思う。


ともかく、私は無職になってしまった。あの時、転職をしなければ、リストラになったとは限らなかったのにと、後悔しても遅かった。

ゲンナリしていた時、ふと、床に転がっている、タロットカードがあの時のまま、放り投げてあったのに気づいた。


「あ、あたしの占いの方が当たってた!」


そうなのだ。なんと、皮肉なことに1万円のプロ鑑定士よりも、私の素人鑑定の方が当たっていたのだ。


運命ってどうなっているんだろう?


私はカードを手に取って、手当たり次第に占ってみることにした。ここは確実に、未来が直ぐに確定する事項に絞った。でも、宝くじのようなものにするにはどこか気がひけた。

そこで、今日、日本人のテニスの試合があると、朝のニュースで見ていたので、結果を占ってみることにした。試合は、日本人選手の勝ちと出た。残念ながら、試合自体は衛星放送でしか、やっていなかったので、夜のニュースを待つしかなかった。


その時、尚子から、電話がかかってきた。尚子は、高校時代の同級生だ。彼女は、確か、衛星放送の契約をしているマンションに住んでいたはずなので、私はこの際だから、本当はあまり、興味のないテニスの試合の結果を聞いてみる事にした。


「え?どっちが勝ったって?途中で、用事が出来たから、最後まで見てない。でも、怪我したんだよ。だから、負けたと思うよ。解説の人が、棄権になるかもって言ってたもの」


どうやら、私の占いは、偶然だったらしい。そりゃ、そうだ。プロでも外れてしまうのだ。ちょっと、ネットで占い方を調べて、試しにやった程度で、当たったら、世話は無い。


私は尚子に近況報告のウソをついて、電話を終えた後、カードを机において、ベッドに大の字になった。


「あー、これから、どうしよう」


気がついたら、朝になっていた。そのまま、眠ってしまったらしい。いつもの習慣で、時刻をテレビで確認すると、まだ、五時にもなっていなかった。

とりあえず、歯磨き、顔を洗って、また、テレビに戻った。


「テニス日本人選手、怪我を乗り越え、4位入賞!」


そんなテロップが目に飛び込んできた時、わが目を疑った。

アナウンサーによると、前半で怪我をして、棄権も危ぶまれたが、奇跡の逆転劇で、見事、勝利を手にしたというのだ。


「また、当たった...」


これを機に、スポーツの試合をいくつか、占ってみた。もはや、関心は占いが当たるかどうかだけに集中していた。面白いのは、この時のように、結果は知らないが、既に終わっている試合。つまり、過去の事は確実に当たる事だった。次に試合途中で、占った場合は、的中率は少し、下がっていた。最後に試合前だと、一番、的中率が悪かった。


そうだ、要するに未来は確定していないから、遠い未来ほど、当たらないんじゃないか?


私はもっと、占いについて、真剣に調べたくなった。ネットで調べても、たいした情報は、公開されていなかったので、占い書籍専門店を探して、見に行った。最初は近所の一般書店に行こうかと思ったが、一般書はほとんどが、いわゆる、エンタメ占いなのが、わかっていた。


朝のテレビで毎日、やっている、星座占いなんて、典型だと思う。

私はおうし座だけど、いったい、全国におうし座の人が何人、いるだろうか?

その日、1日、おうし座の人は全員、同じ運命をたどるのか?ラッキーフードはカレーですなんて、どういう根拠があるのだろうか。

こんなことが本当に当たるとは、誰も思っていない。わかっていて、まさにエンタメとして、受け止めているのだ。そもそも、本格占いなんて、言葉がある事自体、おかしな話だ。つまり、本格的でない占いがある前提だからだ。


それでも、人は困った時に、ひそかに占いに頼る。

各国の首脳ですら、実はお抱え占い師がいたという話も調べていくうちにわかった。

政治家だけでなく、経営者、実業家も多いと聞く。


プロを目指す人は最初から、師匠を探して、弟子入りしたり、占いスクールに通ったりするのだろうと思う。しかし、無職の私にはそんな余裕はなかった。そこで、せめて、本ぐらいはと、本格的なものを求めてやってきたのだ。


書店に着くと、プロ用なので、どれも、値段が半端なく高価なのに、まず、気づいた。ただ、タロットのような西洋系の占いは少なく、専門店には、易とか四柱推命とか、東洋系占いの本ばかりが並んでいた。


そんな時、一冊の辞書のような、タロットの本を見つけた。井川厚子さんという、女性占い師が著者だ。

なんとなく、この本に惹かれて、値段も見ずにレジに持って行ったら、1万円ぐらいだった。

あの、はずれた占い師さんと同じ値段だった。今度は無駄になりませんようにと願いを込めて、その日は持って帰ってパラパラとめくるだけで終わった。


井川さんは、私が想像していた占い師のイメージを完全に覆していた。彼女は論理的で、占いを学問的に説明するような、学者肌のような説明の仕方だった。私はむさぼるように読んでは、タロットの奥深さに、どんどん、のめりこんでいった。


彼女いわく、カードは絶対にウソをつかないという。でも、占いが百%当たる事はプロでもあり得ない。その理由は、カードには、当たりとも、イエスとも書いていないからで、カードが象徴するものを、現実に起こる事の中にいかに見いだせるか?という解釈にかかっていて、解釈の段階で、失敗するから、外れることがあるという事らしい。

結局、卜術は、象徴学だともいえるのだそうだ。


井川本はさすがにプロ向けという事もあって、難解だった。しかし、何度か読み返すうちに、あるいは実践を重ねるうちに、その要旨があまりに的を得た表現である事に気づいていく。


『この人、相当、深く勉強している人なんだな』


そう、思わざるをえなかった。私はぜひ、彼女に占って欲しいという気持ちが出てきた。彼女のサイトを探すと、メール鑑定をしているというので、申し込んでみた。

1回、5千円と、以前、外れた人の半額だ。値段ではないのは、もう、わかっている。前回の占い師の経験が無ければ、私も高いほど、当たるのではないか?という錯覚に陥ったと思う。


3日後、メールは返ってきた。その内容に私は目を疑った。


「大変、申し訳ありません。ご返金したいので、口座番号を教えてください」


こんな冒頭の一文が私の眼球を突き刺した。なんで?という想いで、読み進めると、さらに私を困惑させる文章が待っていた。


「カードを見ていくと、貴方は、私を必要としていないというメッセージでした。

貴方は私を遥かに超えた人だからです。既に私の著書をご愛読いただいているそうで、それで十分なようです。あとは知りたい事は貴方のカードに聞いてください。 井川」


唖然としてしまった。残念な気持ちと同時に、この人のプロ根性に敬服してしまった。普通なら、なんとでも書いて、返金なんか申し出ないはずなのに。

しかし、私にそんな才能があると、プロの占い師に指摘されるとは、想像もしていなかった。ここで、


「だから、私の主催する占い師養成スクールの入学案内を送ります」


などと、書かれていたら、絶対に信用していなかっただろう。


私は井川さんに返金は良いから、私にアドバイスを下さいと返信した。


すると、直ぐにこんな返事が来た。


「貴方は使命があって、この道に来られた人のようです。私の本は吟味して購入されましたか?

もし、直観的に選んだとしたなら、この出会いも、既に決まっていた事です。もちろん、運命は完全に固定されているかといえば、そうではありません。変えられない部分と変えられる部分があります。あとは、貴方が、紐解いてください。カードがきっと、助けてくれるでしょう。

そのうち、カードも必要なくなります。それと、ユングの本を読んでください。難しい部分は飛ばしてかまいません。ただ、シンクロニシティの部分だけは理解してください」


井川さんの返事はこれだけだった。ユングとは、あの心理学のユングだろうか。私は心理学の本など、読んだことがない。

しかし、井川さんのメッセージは何でも、お見通しという感じだったので、今度はユング探しに出かける事にした。


外に出て、3分もしないうちに、声をかけられた。尚子だった。

「あんた、何してんの?会社は?」

専業主婦の尚子は平日に出歩いているのである。

「あ、今日は...休みなんだ」

尚子との付き合いは長い。彼女は私の様子に何かを感じたのか、私の手を引いて、

「暇なんでしょ?お茶でもしようよ」

と、近くの店に連れていかれた。

尚子に隠しても、しょうがないと、観念して、全てを話した。

「へぇ、面白いじゃない、ちょっと、私を占ってみてよ」

「無理言わないでよ、カードなんか、持ち歩いていないわよ」

「そっか、そりゃそうね。でも、真剣に占って欲しい事があるんだ。あとでいいからさ、お願い!」

女性は占い好きが多い。尚子もそうだったのかと、今更ながら、知る事になった。

「で、どんな事なの、占って欲しい事って」

「うん、それがね....」

急にしおらしい態度になったので、これは本当に困っているんだなと思った。

なにやら、にわか占い師の私に手におえない事をこのまま、聞いていいんだろうかという想いにかられた。

「主人のお義母さんなんだけど、ガンだって、言われたのよ。それも、もう、長くないって」

うわぁ、来た。こういうのが一番、困る。

「いいけどさ、これ、あくまで、占いだからね。当たる保証ないよ。で、何を知りたいの?」

「いや、助かるのかなって事...だけど」

「そりゃ、ダメよ。人の生死について、占っちゃ、ダメなのよ」

「えー、そうなの?でも、主人、一人っ子だからさ、もう、ふさぎ込んで、見ていられないのよね」

「じゃあ、今の病院で、回復に向かうかどうかぐらいかなぁ」

「うん、それでいいから、お願い!」

私は気の重い、占い師デビューを果たす事になった。もう、医者から長くないと言われた人だから、カードが正しいなら、きっと、厳しい内容が出るだろう。それを尚子に伝えて、何か良い事があるのだろうか?

しかし、依頼された以上、やってみるしかない。そうだ、井川さんが言っていた。カードが助けてくれるって。もう、カードにすがるしかない。


「あ、ユングの本....」


とりあえず、尚子の件をすませてからにしようと、私は自宅に急遽、帰る事にした。

まずは、前回同様、1枚だけ、引いてみた。出たのは死神のカードだ。

私は期待感が出た。皆、死神だと、まさに死のイメージがあると思う。

しかし、タロットの死神は、再生を意味していて、病気を見た場合には、大抵は回復をイメージさせるものだと、井川本に書いてあった。


しかし、1枚引きでは限界がある。まして、医者がもう、長くないといった人が本当に回復するのだろうか。

何か、回復には条件があるのだろうか。そして、正確には、死神は終焉と再生を意味する。

終焉と再生とは、全く、正反対の意味だ。タロットにはよく、こういうのがある。

だから、解釈で間違う時がある。だから、時に、大当たりか、大外れの場合が出てしまう。


私は、早速、行き詰ってしまった。尚子から催促の連絡があったら、どうしようかと思った。しかし、考えても仕方ないので、そのまんまを、携帯メールで尚子に送る事にした。


「えーと、死神が出たから、回復するかもしれません。でも、なんか、起きるかもしれません。

この程度しか、わからぬ。すまぬ」


なぜか、後半は武士口調になってしまった。それから、尚子の事を忘れてしまうほど、時間が経過したが、彼女から連絡は途絶えたままだった。


「やばい、怒らせたかな?」


そんな思いにもかられたが、とりあえず、自分の生活をなんとかしなきゃと、振り出しに戻る事にした。そうそう、ユングだった。


たしか、シンクロなんとかとか言ってたなと、思いながら、本屋さんを巡って、一番、わかりやすい、初心者向きのものを探していた。私はめぼしいものを2、3冊、書店で選んで、レジに並んでいた。その時、携帯が鳴った。発信者不明と出ている。不気味に思って、電源を一度、切った。


家に着くと、また、携帯が鳴った。また、発信者不明番号だ。

イタズラにしてはしつこい。おそる、おそる、出てみると、

「あ、ごめん、私、尚子。今、病院なの。それがね、大変だったのよ」

取り乱している様子だ。何かがあったのだ。

「ICUの近くだと、病院は携帯使っちゃダメって言われたから、近くの公衆電話でかけてるの。

お義母さん、一度、心臓止まっちゃって、皆、もうダメだと思ったの、でも、その後、また、意識を取り戻して...」


「へぇ、大変だったわね。でも、そんな状態じゃ、まだ、危ないんじゃないの?」


「それが…今、検査終わったんだけどね…」


尚子は息を切らしながら、声が途切れ、途切れになっている。

彼女の呼吸の乱れの回復を待っていると、思わぬ、情報が飛び込んできた。


「ガンが消えたんだって」


結局、詳細は、彼女の自宅に行ってから、知る事になった。

ガンは稀に、自然退縮というのがあるにはあるらしい。それに、末期患者は大抵、抗がん剤は使っている。だから、縮小する事は珍しくない。しかし、大抵は、ガンより先に命が消えてしまうのだ。


「で、お義母さん、どうしてるの?」

「それが、来週には退院だって」


私はまだ、信じられなかった。そう、まさに、終焉と再生を地でいった現象だったからである。

私は尚子のお義母さんが治った理由をその場で、カードに訊ねてみた。私はこの件、以来、常にカードを持ち歩くようになっていたのだ。


節制のカード…。

絵柄は通常、天使だ。一説によると、マリアにキリストの受胎告知をした、大天使ガブリエルだという説がある。

私はキリスト教に詳しくないので、よくわからないが、井川本にはそんな事が書かれていた記憶がある。


「天使の絵ね。やっぱり、そうなのかなぁ」


尚子が関心した顔でカードを覗き込んでいった。

「どういう事?」

「お義母さん、熱心なカトリック教徒なの。代々、そういう家系らしいわよ」


もし、本当なら、占い以前にもっと、不思議な事だ。

しかし、これって、私が占おうと、治癒そのものには何ら、因果関係はないはずだ。

私は、ちょっとした近未来をカードを通じて、入手しただけで、治癒そのものは、関係はない。つまり、今回はカードは確かにウソをつかないという事が再確認できただけなのである。


「とにかく、ありがとう、主人もお義母さんもすごく、喜んでいた」

「そ、そう?お役に立てて、それはそれは」


私はまた、偶然が起こったと思い、その場を早く、離れたかった。尚子が、お礼をと、封筒を手渡さそうとしたが、拒絶して、


「もっと、修行してから、頼むわー」


と逃げるように、彼女の家をあとにした。


私は井川さんの宿題に取り組むことにした。とりあえず、寝る前に、読めるようにユングの本を枕元に置いてある。

しかし数ページ読むと、私は睡魔に襲われ、寝てしまう。

うーん、不眠症の人用に、ユングがわざと書いたのではないかと思えてしまう。正確には彼の著作ではなく、初心者用の解説書なのだが。何度か睡魔と戦う日々を過ごして、私はなんとなく、ユングの言いたい事がわかってきた。彼のいうシンクロニシティとは日本語で、共時性といって、因果関係はよくわからないけど、偶然にしては出来すぎている、何か、共通したものが、一致するという事である。

日本人が理解しやすい喩えは、昔からある、虫の知らせというやつだろうか。たとえば、下駄の鼻緒が切れるというやつだろう。

誰か身内とか、恋人とか、親しい人の命がこと切れた瞬間と、ちょうど同じ時刻に、鼻緒も切れたという類である。

これは、「切れる」という現象だけが一致している。人の命と、鼻緒なのだから、通常は何の因果関係もない。

まるで、言葉遊びだ。しかし、実際にこんな体験をした人が多くいたので、鼻緒の例のような話が伝承されてきた可能性はある。

実際、ユングは自身でも、何度も占いをして、実験したという。

そして、偶然の確率を遥かに超えた的中率に、彼は、心理学者として、この現象を説明しようとしたと、そんなトコロらしい。しかし、シンクロニシティの最大のポイントは単なる、現象の一致だけでない。

人間の想いに、物理現象が反応するという事らしい。たとえば、まさにタロットがそうだ。自分が頭に描いた質問の答えになるような象徴がカードを通じて、実際に現象として、出現する。

それじゃ、鼻緒の例はどうなるのか?通常、鼻緒は勝手に切れる。

そして、人は鼻緒が切れたから、初めて、何かを気にする。鼻緒の切れる前には、何も思わないのである。

これは無意識に思っているんだ説と、やはり、常に意識とリンクして起こるわけではなく、何らかの存在から、シンクロニシティを通じて、教えようとしているという説もあるらしい。


かなり、オカルティックな世界だ。私は心理学というからには、もっと、学問、学問していると思っていた。ユングの場合、その言い回しが小難しいだけで、心理学というイメージから遠い感じがした。実際、ユングは合理的なアメリカ人などには評判が良くないらしい。


そういや、井川さんは、いずれ、カードも必要なくなるって言っていた。

確かにシンクロニシティの意味がわかれば、カードは必要ない。

むしろ、それが出来ないから、抽象的ではあるものの、あらかじめ、意味が決まっているカードを使って、人為的に、シンクロニシティを生じさせているのが、卜術という占い方ともいえる。


しかし、わからないのは、なぜ、尚子の義母だけ、助かったかである。世界中に熱心なカトリック信者はいるだろう。

そして、その多くは、残念ながら、病に勝てずに亡くなっているだろうと思う。信仰の熱心さとはおそらく、関係ないのだ。


私はその時、人間の運命って、どうなっているんだろうと、さらに深く、考えさせられた。


しかし、思索にふけっている余裕はなかった。私はなんせ、無職の身なのだ。私は次に、ネット占い師として、登録する事にした。報酬はわずかだが、さすがに街頭に立って、手相を見ているような、巷の占い師をする勇気は全く、なかったのである。

登録サイトの条件では、最初に5件、無料で占いをして、その評判が一定以上だったら、採用という、なかなか、厳しいものだった。

これも修行だ。というより、普通は先に修行してから、プロになるのが普通だが、井川さんのお墨付きという事で、ここは許してもらう事にした。


依頼が来たら、メールで知らせが来る仕組みになっていたが、さすがは無料期間。あっという間に5件分が埋まってしまった。見ると、皆、女性。それも、恋愛の話ばっかり。


はー、私も経験無いわけじゃないけど、こんなの、占いに頼ったって、うまくいかないよと、思いながら、しょうがないので、一つずつ、占ってみた。ところが、残酷な事にカードは5件全員、全く、無理、辞めた方が良いと告げていた。

しかし、どう、返信してよいか、わからない。私も昔、占いに頼った事があるが、大抵は適当にあしらわれるか、説教されるなんてこともあり、私が占いを信じなくなったきっかけでもあったような気がする。


私はテキトーなウソも、説教も出来ないので、とにかく、励ます事に徹した。

井川さんの言葉を思い出して、運命は固定化していないから、今はじっと耐えましょうとか、自分になりに返事を書いておいた。


結果、私は一応、採用となった。さぁ、ようやく、お金がもらえる立場になる。

占い師歴1週間というところで、早くもこんなところに来てしまった。


ところが、有料となったとたん、私には依頼がさっぱり、来なくなった。

現実は厳しい。自分でカードを見ても、確かに待っても来ないと出ている。

うーん、考えたら、私も顧客として、何人か占い師に見てもらったけど、当たる人ほど、それほど裕福に見えなかった。逆にテレビ出ているような人はキャラが立っているだけで当たらない人が多いとも聞く。


それに本当に当たるんなら、元占い師のブロガーさんのように、とりあえず、生活に困って廃業する占い師なんて、いないはずだろう。私はなぜなのかなと一瞬、思ったが、その答えはすぐに理解できた。

つまり、どんなに当たろうと、占いは、しょせん、未来がわかるだけなのだ。

運命を変更できるわけではない。尚子の義母だって、そうだ。私が彼女を癒したわけではないのだから。


だったら、占いって、何のためにあるんだろう?ちょっと、近未来を見たところで、何が良いんだろう?


私はそんな疑問でいっぱいになってしまった。いや、近未来どころか、この後の一生が見えるとしたら、人は本当にそんなことを欲するだろうか?インドにはアガスティアの葉という、聖者が記した、人の一生が書いている葉があるという。いつ死ぬかすら、書いてあるというのだから、私なら、絶対に知りたくない事だ。


私はまた、どうしてよいか、わからなくなった。ふと、テレビをつけると、何かのドラマのようなものをやっていた。


「もうちょっと待ってみなよ」


と男性が、若い女性に話しかけていた。途中から見たので、さっぱり、内容がわからないが、どうも、なぐさめているようなシーンだった。つまらないなと、チャンネルを変えようと思った瞬間、ふと、想った。


「シンクロニシティ...」


私はとりあえず、今週一杯は依頼が来るのを待つことにした。


ちょうど、一週間になる直前だった。一通の依頼メールが届いたのは。


「自分は、四十代の女性です。小学生の頃から全身にアトピーが出て、ずっと、治らないままです。

特に顔と首はひどい状況です。一度も彼氏ができた事がありません。

私はこのまま、いわゆる、おひとり様で生きていくしかないのかという絶望と、まだ、諦めたくない気持ちとのハザマをいったりきたりしている間にこの年齢になってしまいました。

正直、自殺を考えた事もあります。過去に思い切って告白した男性に、言いにくい感じで、恋愛対象に考えた事がないと言われました。私は一生、独身なのでしょうか。いえ、一生、恋愛を知らないまま、女を終えていくのでしょうか」


重い…。私にはどうして、こんな内容しか、依頼が来ないのだろうか。そして、とても嫌な予感がするのだ。おそらく、この人には奇跡の大逆転のようなことをカードは告げないだろうと。

恐る恐る、カードを展開していく。


これも不思議な事なのだが、カードは質問の返事をそのまま、返さない時がある。

今回、どう読み解いても、彼女が将来、結婚出来るのか、恋人が出来るのか?という、結果を伝えるものとは思えなかった。何度か、質問を変えて、展開しても、必ず、ソード8が出てくる。これは、目隠しをされた人物の足元にたくさんの剣が刺さって、身動きが取れない様子が描かれている。井川本によると、カードの絵はいたるところに、象徴が隠されていて、そこから、質問者の置かれた情況と照らし合わせてみることが肝心だという。


「これ、未来の結果じゃないんだわ、彼女の心が原因だと、カードは告げているんだわ」


私はいかに依頼者を傷つけないように書くか、考えて、何度も返信文を書き直した。


「あなたは、失恋の原因が自分のアトピーのせいだと決めつけて、一歩前進することをためらっていませんか?

全ての男性があなたを恋愛対象としてみていないかどうか、わかりません。

自分に自信を持つなんて、難しいことです。私も経験ありますから、わかります。

でも、諦めずに、自分の頑なな、心とまず、向き合ってみて欲しいと、カードは告げています」


とても、エラそうな内容だ。私はこれでいいんだろうかと、自問自答を繰り返した。彼女の質問は、要するに、このまま、一生、独身で終わりますか?である。

なのに、貴方次第だなんて、占いというより、人生相談だ。

井川さんの合理的で、実践的な方法とはまるで、かけ離れているのではないか。

この時、私は井川さんが唯一の教科書だったので、いかに井川さんと離れているかが、自分への評価基準だったのだ。


すると、たった、一言、依頼者から、

「ありがとうございました」

と返事が来て、終了した。通常、占い師とは最低、1回は、鑑定結果の質疑応答があるものだが、彼女はこれだけで完全に終わってしまった。こういう場合のありがとうございましたは、期待外れだったという婉曲表現である場合が多い。


私はがっかりして、考えこんでしまった。彼女の事はメールでアトピーである以外、何も知らない。

ただ、少なくともアトピーになった事、今も治らない事は、彼女のせいだとは思えなかった。


人間って、絶対に、運の差がある。これは間違いない。生まれながらにして、お金持ちの家に生まれる子とか、給食費も払えない母子家庭とか、また、彼女のように、幼くして、難しい病気になった人も、人生は絶対に公平じゃない。


きっと、彼女は普通の人生を歩みたいんだ。結婚して、子供を育てて、そんな、ささいな幸せが欲しいんだろうと思った。

私は勝手な、彼女像を妄想しながら、この限りなく、苦しい不公平感の元凶ってなんだろう?と思った。


私たちは子供のころから、やたらと、平等精神を叩き込まれて育つが、本当は社会は平等じゃない事は、子供ながらにも薄々、気づいているのだ。


最初から、人生は不平等であると、言ってくれた方がまだ、覚悟ができるだけ良いのではないか。


とはいえ、アトピーになった時、医者から、


「女の子だから、もう、結婚とか、覚悟しないといけないね」


と言われたら、それこそ、滅茶苦茶である。医師だって、訴えられかねない。


だから、皆、言わないだけで、どこかの段階で、人生は不公平で当たり前なんだと思うようになる。そして、幸せになる人、不幸になる人、それはもう、あらかじめ、決まっているんではないかと、どこか、諦めの境地に達してしまう。


でも、占いの門をたたく人は後をたたない。私に来るか、別として、毎日、どこかの占い師が誰かの悩みを聞いているのだ。それはなぜなのだろうか。ほとんど、諦めた状態でやって来た、私の初めての有料依頼者に、私はまるで、彼女の運命の確認をするかのような、返事をしただけで終わったのは何か意味があるのだろうか。


人間の複雑な心理に、私が悩んでしまいそうだった。そういや、井川さんが、ユングを読めといったのはシンクロニシティだけだったのだろうか。でも、正直、他はチンプンカンプンだった。とても、今の私の悩みに役に立つとは思えなかった。


それから、3か月がたった。私には依頼が一つも来なかった。

井川さんには運命的なものだと言われたけど、これじゃ、また、転職しないとダメだ。


久しぶりにPCでメールをチェックしてみた。すると、3日間前に、依頼が来ていた。あまりに来ないものだから、毎日、チェックするのは辞めていたのだ。

急いで、中身を見ると、なんと、例のアトピーの彼女だった。

「先生の言うように、思い切って、気になっている職場の人に声をかけたら、デートが出来ました。

何回か、デートしていくうちに、彼にプロポーズを受けました。彼は本気なのでしょうか。私はからかわれているのでしょうか」


ビックリした。彼女は、カードのアドバイスをきちんと守っていたのだ。決して、人生を諦めていたわけではなかったのだ。

私はすぐに、カードを展開した。カードは、彼女の相手の男性が真摯な人間であることを告げていた。

私は他人の事なのに、飛び上がるほど、嬉しくなり、直ぐに、返事をした。

彼女の返信も、とても喜んでいる文面が言葉の端々で、伝わってくるようだった。


私は返信をした後も、気になって、カードを展開してみた。二人は幸せになるだろうか。ソードの3。私は目を疑った。彼は真摯な人間ではなかったのか?どうして、ハートに3本の剣が突き刺さっている、悲しさの代表のようなカードが出る?何かあるの?


私は仕事そっちのけで、彼女の事が気になって仕方がなかった。しかし、こちらから、個人的に連絡をとる事は、登録した会社から許されていないし、そもそも、占い師から


「どうなりました?」


とは絶対に聞けないのである。これは職業占い師なら、当然のルールだ。

私は悶々とした日々を送りながらも、そろそろ、他の活動をしなければ、とても食べていけない状況だと理解した。カードで自分の事を見ても、解釈できない、意味不明な羅列で終わる場合が多い。まるで、カードが返事をしたがらない感じだ。

何度か経験して、わかってきた事だが、カードはそれ自体、何か、人格のようなものを持っているようだった。アトピーの女性の質問の時も、ストレートに答えはくれなかった。占い師である私が求めてもいない、アドバイスで、返してきた。


私は申し訳なく、思いながらも、唯一の心の師匠、井川さんに相談する事にした。


「以前、申し上げたように、私では貴方の相談には乗れません。カードに聞いて欲しいのですが、今、貴方の心が乱れているので、カードとは通信不能になっているようですね。お困りでしょう。私では力不足なので、この方に会ってみてください。お住まいの地域から遠くても、彼女はメールなんてできませんから、会うしか無理です」


井川さんがいうには、なんと、井川さんの師匠で、在日四十年になる、イギリス人のお婆さんだという。

日本語は達者だから、問題ないという事だった。しかし、井川さんのメールには続きがあった。


「彼女は正確に言うと、占い師ではありません。彼女は魔女なのです。だから、覚悟して行ってくださいね」


こんな恐ろしい言葉で締めくくられているとは思わなかった。現代に魔女が本当にいるのかという大前提の疑問に加えて、日本語が出来るとはいえ、外国人。それも、どうやら、九十歳を超えるというのだから、西洋のおとぎ話に出て来る、あの魔女の姿を想像せずにはいられなかった。

しかし、迷っている余裕はない。少し、怖さはあったが、思い切って、聞いた住所を頼りに、魔女を訪ねる事にした。


そこは海が見える丘にある一軒家だった。西洋風の家で、庭はイングリッシュガーデンが広がっている。

緊張しながら、チャイムを押すと、とても穏やかできれいな顔立ちのイギリス人女性が見えた。

確かに、高齢ではあるが、気品あふれる風貌だった。


「貴方ね、アツコから聞いているわ。今日の事、ずいぶん前から用意しておいたのよ」


流暢な日本語で、私を見るなり、そう、言って、部屋に通された。

さすがにイギリス人だ。部屋にはアンティークなインテリアが並んでいて、紅茶とスコーンが出された。

想像していたような魔女が使いそうな道具とか、そういうものは一切、なかった。


「あ、あの、失礼ですが、井川さんに聞いたのですが、貴方はその...魔女なんでしょうか」

「そうよ。本国では母も祖母もそうだったわ」

私は最低限の質問をした後、とにかく、本題に入らねばという想いで必死だった。すると、魔女から耳を疑う一言が返ってきた。

「貴方は勘違いしてしまったのね、アツコは貴方に占い師になれとは言っていないのよ」

「え!?」

突然の急展開に私は頭が混乱して、次の言葉がなかなか、出てこなくなってしまった。

「貴方は生まれつきの才能を持っているわ。でも、貴方は占いを職業にしない方が良いの。早く、OLに戻りなさい。3か月以内に見つかるから」

「え?じゃぁ、何のために、私はそんな能力を持っているのですか?」

「私の一族も、魔術でお金をもらった事はないわ、普通に生活していたのよ。そして、必要なタイミングで、貴方を必要な人が現れるの。その時に貴方が出来る事をすればそれでよいの」


「さぁ、隣の部屋に行って」


私は言われるまま、隣の部屋に移動した。床には何か、大きな円の中に記号か文字のようなものがびっしりと書かれている。


『これ、ひょっとして、魔法円ってやつ?』


そう思うのが早いか、私は円の真ん中に立たたされ、魔女は、囁くような、か細い声で、何かを唱え始めた。


「はい、いいわよ」

「あの、これって...」


貴方を守護、指導してくれる、スピリット達に確認したの。

本当に不思議ね、貴方は私の後継者になるそうよ。こんな遠い国に来て、四十年も待ったのよ。

アツコがそうだと、初めは思ったの。でも、彼女は違った。そして、アツコがサポートして、貴方をここに導いたのよ。


私はそれから、本当に3か月後にOLに戻っていた。今日が初仕事だ。

私は上司に職場仲間を紹介され、1枚ずつ、名刺をもらった。

その中に、ひときわ目立つ、女性が目に飛び込んできた。それは顔と首にアトピーがいっぱいあったからだ。


『この人、まさか....』


私はとっさに彼女の手を見た。


ある!中指に指輪。


私は思い切って、彼女をランチに誘ってみた。

「あの、ご結婚、長いんですか?」

「いえ、最近なんです。ずっと、男性とはご縁がなくて」

「あはは、私なんか、まだ、ご縁、ありませんけど」

「ふふ、私ね、アトピーでしょ?最初、それで、出来ないんだと思ってたの」

「え、ああ…」

私はストレートに言われて、少し、動揺してしまった。

「でも、ある占い師さんに、それは自分でブレーキをかけているからよって言われたの」

『まさか....』

「それで、同僚の、今の主人に声をかけたの」

「それで、どうなったんですか」

「そしたら、彼は、君はどうなんだ?僕がアトピーだったら、君は僕を避けたか?って、言われたの。

その時、心臓にトゲがグサっと、刺さった感じがしたのよ。

結局、プロポーズらしい言葉はそれだけだったのかなって思うわ。

今は、普通の夫婦よ。私の話はこんなとこよ」

微笑みながら、パスタを食べる彼女を見て、私が、実はその占い師、いえ、今は魔女なんですと心で思った。


カードはウソをつかない。あのハートに刺さる剣は、悪い事じゃなかったんだ。


私は普通のOL。でも、ちょっと違うのは。OLは魔女だったんです。テレビドラマなら、そんなナレーションがつきそうだった。

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OLは魔女 @tommy999

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