事件(事故)―side錬

 

 ちょっとした事件、というか事故が起きたのは、入学式から一週間ほど過ぎた頃だった。それは昼休みに起きた。

 しかしまずは、今のクラスの現状を説明しよう。

 クラスでは友達作りが落ち着いたようで、いくつかのグループができ始めていた。特に女子は凄まじい。いつの間にか少数のグループが合わさって、大きな一団が出来ていたのだ。そして、その頂点に君臨する女こそ司城しじょう波瑠はるだ。

 司城は巧みなコミュニケーション能力によって交流を図り、クラスの女子の大半を自身のグループに引きずり込んだ。そしてそれは、他クラスにまで及んでいた。休み時間の度に「ハルちゃ~ん」と隣のクラスから女子が大量にやってくるのだ。一週間もすれば、学年を超えて、女子の先輩がやってくる始末。一体どうやったら先輩が後輩のクラスに遊びにくるのだ。

 さてさて、司城がいかに、人気が高いということは理解できただろう。しかし、もちろんというか当然、男子からの人気が高い。つい見惚れてしまうような美貌。廊下ですれ違ったら、絶対に振り返るとまで言われるほどだ。もちろん、スタイルも抜群。モデルのような美脚。男子共を悩殺させる豊満な胸。

 それじゃあ、性格はどうなんだと言われたら、誰もが口を揃えてこう答える。 


 ――女神、と。


 彼女の性格を表すのに、これ以上最適な言葉はないだろう。

 ただ、先程の言葉に訂正がある。どこかと言うと、『誰もが口を揃えてこう答える』という部分。正しくは、『1人を除いて、誰もが口を揃えてこう答える』だ。

 そして、その1人というのは、花京院錬というダメ男だ。



 さて、事件は俺と錬が購買にパンを買いに行って、教室に戻ったところから始まる。そこまで俺と錬の仲は進展していた。錬は俺のしつこさに渋々一緒にいる感じが否めないのだが、良しとしている。

 2階の購買から1階にある教室へ戻ろうと階段を下りると、廊下では女子生徒が目立っていた。 


「また、司城さん目当ての女子か」


 俺がなんとなく呟くと、錬がいつもの目つきの悪さを2倍にした。


「おい、おまえは司城のこといい女だと思ってんのか?」

「ん、そりゃあ、可愛い子だとは思うけどさ」

「やめとけ。性格は最悪だ。たくさんの人と交流してるのは自分がスクールカーストにおいて、優位になるようにと思ってやってるだけだぞ」

「おいおい、そんな酷いこと言ってやるなよ。司城さんに限ってそんなこと――」


 錬は俺の反論に、フンと鼻を鳴らす。そして、1人で先に教室へ向かってしまった。なんだよと思いながらとぼとぼと歩いていると、俺の教室から悲鳴というか歓声が上がった。何の騒ぎだと思って急いで教室に入ると、錬と司城さんが2人で向かい合っていた。司城さんは頬を桃に染め、錬は相変わらずの目付きで司城さんを睨んでいる。

 この訳の分からない状況に、近くの女子に話を聞く。


「おい、何があったんだ?」

「えっと、ハルちゃんが花京院くんに告白して――」

「こっ、こくはくぅ!?」


 友達のいない錬が告白を受けるとは、一体何があったのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

完璧少女とダメ男 四志・零御・フォーファウンド @lalvandad123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ