かぐや姫と大和の帝

日本のスターリン

昔々、あるところに、お婆さんと竹取の翁というお爺さんが居た。お婆さんは川へ洗濯に、お爺さんは竹を取りに山へ出かけた。お爺さんが竹山で竹取をしていると、キラキラと黄金に輝く、太い太い竹を見つけた。お爺さんは興味本位で光っている竹をパッカーンと一刀両断した。すると中には赤色の髪が長くて美しい女の子の赤子が入っている。

 「何とも美しい赤ちゃんだ。しかも、赤色の髪とはめでたい赤子だ!うちには子どもがいなかったからちょうど良い!うちの子にしよう!名前は輝く竹から産まれたから『かぐや姫』だ!」

 かぐや姫は尋常でない速さで急成長していった。身長も赤い髪もみるみる伸びていき、1ヶ月ほどで二十歳くらいの成年に成長したのである。またかぐや姫が成長する間、お爺さんは毎日光る竹を見つけては切っていた。しかし、中身は赤子ではなく、黄金や高価な生地などが入っていた。これによりお爺さんとお婆さんは1月にして成金になったのである。

 かぐや姫があっという間に大きくなったので、お爺さんは竹の中から得た財産でかぐや姫に成人の女性の恰好をさせた。そして、おじさんは三日にわたる大宴会を行い、かぐや姫の成人を祝った。大宴会に来た男たちはかぐや姫の美貌と見たこともないほど長くて真っ赤な髪の毛に驚愕する。そして、大宴会が終わらぬうちにかぐや姫の美貌の噂は瞬く間に広まり、悪事の如く千里を走った。

お爺さんはそれ以後も毎日のように光る竹を見つけては中から財産を得続けた。

 そうこうしている内にかぐや姫の評判を聞きつけて、五人の紳士が訪れた。石作の皇子・車持の皇子・右大臣阿倍御主人・大納言大伴の御行・中納言石上麻呂の五人である。五人は共闘し、5人で毎日のようにかぐや姫の家に通った。それを見かねたかぐや姫は5人にこう伝えた。

「5人の熱意は十分に伝わりました。しかし、どなたが一番熱意があるのか、わたくしには分かりかねます。その判断をするために、わたくしが望むものを持ってきていただけないでしょうか。わたくしが所望する物を一番早く持ってきた方のお嫁になります。」

 五人はそれを承諾する。

「では、我々は何を持ってくればよいのですか?」

「石作の皇子には『仏の御石の鉢』を。車持の皇子には『蓬莱の玉の枝』を。右大臣阿倍御主人には『日鼠の皮衣』を。大納言大伴の御行には『竜の首の玉』を。中納言石上麻呂には『優曇華の花』を。お願い致します。」

「分かりました。早速探しに行く準備をしてまいります!」

 五人の紳士は声をそろえてそう言うとそれぞれ宝を求める冒険の準備を済ませた。

「かぐや姫が言っていた宝はきっとこの国にはない。しかし海外へ行けばそのような宝があってもおかしくはない!」

 紳士たちは外国へ向けて就航した。ある者は海で嵐に浚われ、ある者は海賊に襲われ、またあるものは虎に襲われ、またある者は山賊に捕まった。海外への宝を求める旅は危険が隣り合わせの大冒険だったのである。

 しかし、三年後、ただ一人だけは無事に帰ってきたのである。『蓬莱の玉の枝』を探しに行った車持の皇子である。

「かぐや姫!お持ちしましたぞ!これが『蓬莱の玉の枝』です。約束通り我が妻になっていただけますな?」

 お爺さんもかぐや姫も大変驚いた。

「苦労致しましたぞ。思いだせば三年前、国を出港してはや数ヶ月。ある時は荒波に飲まれ、ある時は竜巻に巻き上げられ、またある時は鬼におそわれ、それはもう命からがらでした。」

「まぁ!」

「それはそれは大変でしたのお!」

 かぐや姫とお爺さんはさらに驚いた。そこから車持の皇子の回想が始まった。

 車持の皇子の航海は自然災害に見舞われ、怪物に襲われ、そんなこんなで約500日の時が過ぎようとしていた。そんな日の朝、車持の皇子は遠くに輝く山を発見した。その山はキラキラと輝き、実に美しく、富士山よりも高く、気高い。車持の皇子はその山を見て蓬莱山に違いないと確信した。そして、車持の皇子はそれからさらに2~3日の時を経てようやくその山がある島に上陸する。山を目指して島を歩いていると、車持の皇子は天女と思わしき美しい女性と会う。その女性は美しい金の羽衣を羽織っており、かぐや姫と同じ色の髪を引きずるほどに伸ばしていた。しかし、その長い髪は宙にぷかぷかと浮いており、地面を引きずる事はない。その天女は白金の柄杓で金色に輝く川から金色の水をくんでいる。車持の皇子は高鳴る興奮を抑え、その天女に話かけた。

「初めまして。代は車持の皇子と申すもの。そちの名は何と申す?」

「わたくしは浮感瑠璃と申します。」

 聞きなれない名前に戸惑いながらも、挨拶を済ませた車持の皇子は早速目の前に輝く気高い山について聴く。

「ウカンルリさん。あの神々しい山はなんと申すのかね?」

「蓬莱山と申します。」

 車持の皇子は嬉しすぎて耳を疑った。そして重ねて尋ねる。

「あのお山は蓬莱山という名前で間違いないのかね?!」

「はい。間違いございません。」

 それを聞き車持の皇子は大喜びで、輝く山をめがけて走り出す。蓬莱山の付近には見たこともない金の花びらの華・白金の花びらの華・虹色の花びらの華が咲き誇る。さらに蓬莱山を登っていくと、金色の川、白金色の川、瑠璃色の川が流れ出ていた。そして、川には宝石がちりばめられた金の橋が架かっており、周りには金の木々が鬱蒼と茂っていた。その光景はこの世の物とは思えない極楽浄土のような神秘的な景色であり、車持の皇子は幸福な気持ちで胸が一杯になる。ここで一生暮らしたい。そう思えるほどに感動したのである。しかし、そうはいかない。かぐや姫の所へ蓬莱の玉の枝を持って帰らねば。車持の皇子はそう思い直し、蓬莱の玉の枝を取りに向かった。そして、車持の皇子は金の枝の真珠のような輝かしい珠をはやした木を見つけ、無作為に一本へし折った。

「やった!ついに手に入れたぞ!これをかぐや姫に贈るのだ!!」

 車持の皇子は目当ての枝を手に入れると、急いで就航し、日本を目指した。それまでの航海を記録していたため、帰りは迷うことなく、最短距離で渡航し、400日余りで帰港する事ができた。

「…そして、日本についてから休む間も惜しんで、はるばるかぐや姫の所まで、たった今これを贈りに参ったのです!」

 車持の皇子は目が眩むほどに眩しく輝く蓬莱の玉の枝を差し出した。

「すごいわ!まさか本当に伝説の珍宝を持ってきてしまうなんて思わなかったわ!」

「かぐや姫よ。このお方はこりゃ本物だぞ。きっとお前を幸せにしてくれるに違いない!」

 二人が盛り上がっていると、思わぬ来客が訪れた。数十人の男が手紙を差し出して騒ぎ立てた。

「玉の枝を拵えた匠の綾部内麻呂と申します!玉の枝の製作代金をいただきたいと直訴に参りました!我々の決算日が迫っており、代金を何としても今日中にお支払いしていただかなければなりません!どうか玉の枝の製造に費やした3年分の対価をお支払下さい!」

「何ですって!?」

「玉の枝は作ったものだったのか?車持の皇子、これは一体どういう事か!?」

 車持の皇子を問いただそうとしたが、車持の皇子は蓬莱の玉の枝を置きっぱなしにしたままそそくさと逃げ去っていた。

「どうやらこの蓬莱の玉の枝は偽物のようね。せっかく頂いたものですから記念に取っておきましょう。お爺さん、この素晴らしい模造をして下さった職人さん達にお代を支払ってあげて下さい。」

「うーん。どうも納得いかんが、しかたがないのう。」

 お爺さんは職人達から手紙の請求書を受け取り、そこに書かれた代金を渋々支払った。かくして5人全員がかぐや姫の出した試練に敗れ去ったのである。

 さて、この一件以来、かぐや姫の噂はますます広まり、ついには帝の耳にも入る。一方で、かぐや姫は自分の正体を少しずつ思い出し始める。

 かぐや姫の噂を聞きつけた帝は、かぐや姫に一目会いたいとお爺さん呼び出した。

「竹取の翁よ。お前を呼び出したのは、他でもない。渦中のかぐや姫に会って話がしたいのだ。かぐや姫を朕の所まで連れて参れ。」

「有難きお言葉でございます。仰せられる通りに義理の愚女であるかぐや姫に伝えて参ります。」

「成功した暁には、お前に出世と地位を約束しよう。」

 お爺さんは早速、家に帰り、かぐや姫に帝のお気持ちを伝えた。

「帝がお前に会いたがっている。すぐわしと一緒に宮殿にきてくれ。」

「帝ってなんですの?」

「帝というのは、八咫鏡、八尺瓊勾玉、そして八岐大蛇の尻尾から出たという伝説の草薙剣を受け継ぐ由緒正しきこの国の国家元首だ。つまりこの国の所有者だ。建国からただの一度も絶える事なく1000年以上も代々この国を治めていらっしゃるお方だ。」

「そのような偉大なお方にお会いすることはできません。」

「恐れ多い気持ちは分かる。しかし、お前に会いたいとお望みなのだから恐縮する必要はない。」

「そうではございません。わたくしはこの国の人間ではありません。」

「確かにお前は真っ赤な髪を持つ日本人離れした子だ。だが、例えお前が外国人でもこの国に住んでいる以上はこの国のルールに従う必要がある。『郷に入っては郷に従え』という諺があってだな…。」

「違います。外国人でもありません。わたくしはもっと別のどこかから来たのですわ。」

「別のどこかと言うのはどこからだ?」

「……わたくしにもまだはっきりとは思い出せません。ただわたくしはこの世の人間じゃないのです。それだけははっきり分かります。」

「確かにお前は竹から産まれた不思議な子だ。お前の由緒がどこなのかはわしにも分からぬ。」

「わたくしはこの世の者ではない不詳の身。帝とお会いなど到底できませんわ。」

「分かった。お前が竹から産まれた事、そして人間離れした速さで急成長した事、全てを帝に申し上げて参る。」

 お爺さんは再び帝の元へ参り、かぐや姫の出生について話、かぐや姫はこの世の者ではなく、お会いできないと伝える。それでも帝は諦めきれなかった。

「よし、分かった。どうしてもかぐや姫が朕の所まで出向きたくないと申すなら、朕自らがかぐや姫の元に出向こう。」

 お爺さんは断り切れなかった。そして、帝はかぐや姫の元に行幸された。お爺さんはこっそり出迎え、かぐや姫の部屋に案内する。帝はそこで、この世のものとは思えないほどの長さで、綺麗な赤い髪の美女をご覧になって驚きながらも、さっそく話かけた。

「お前がかぐや姫か?」

 かぐや姫は帝の姿に驚き逃げようとする。しかし、帝はかぐや姫の袖を掴む。

「離さぬぞ。私が帝だ。お前に会いに来たのだ。」

「そうです。わたくしがかぐや姫でございます。」

「話がしたい。逃げないで顔を見せておくれ。」

 かぐや姫は顔を上げた。

「なんと美しすぎる顔だ。髪も顔も美しすぎる。確かにこの世のものとは思えない。」

「お察しの通り、わたくしは本当にこの世のものではないのでございます。」

「この世のものではないものでも私は驚かん。なにせ八岐大蛇を倒した時に出現したと言われる草薙剣を代々継いでいるのだからな。この世のものでなくとも私は一向にかまわない。」

「流石帝ですわ。なんて懐の広いお方なのでしょう。お話に聞いてた以上に素晴らしいお方ですわ。」

「私の祖先は神話の中の人物だ。この世のものでないのは私も同じだ。」

「わたくしと貴方様には共通点がございますのね。」

「うん。私たちは似ている。」

「貴方様にお会いできてとても嬉しいですわ。」

「私もお前に会えて嬉しい。どうだ。私のお后になってくれないか?」

 かぐや姫は帝の求婚に心底喜んだ。しかし、自分の正体の記憶を取り戻しつつあるかぐや姫は気持ちを押し殺した。

「大変光栄なお言葉でございます。でもわたくしはどうしても貴方様とは一緒になれない訳がございます。」

「なぜだ?」

「わたくしが思い出しつつある記憶を貴方様だけにお話し致します。私は天に浮かぶ月からこの地上に参ったのでございます。」

「ではお前は本当に人間ではないというのか?」

「はい。わたくしは正真正銘人間ではございません。だから貴方様のお后様になることはできません。」

「私はそれでも構わないぞ。月から来てもお前はお前だ。」

「わたくしも自分の正体が完全には思い出せないのです。でもわたくしの正体は貴方様と結婚してはならない存在である気がするのです。」

「そんなことはない!何としてもお前を連れて帰るぞよ。」

 するとかぐや姫は幻のようにパッと消えて失せてしまった。

「かぐや姫が消えてしまっただと?!」

「ここにおります。わたくしは消えておりません。ただ姿が見えなくなっただけのようです。」

「どこだ!?かぐや姫!?」

 かぐや姫は帝の手を握った。帝には感触はあったが、かぐや姫の体温は伝わってこなかった。

「どうやらわたくしの身体は消えかかってるようです。このまま私を無理に連れ出そうとすれば私は完全に消滅してしまうでしょう。」

「なんだと!?」

「貴方様に連れられて消滅するのでしたら、わたくしも本望でございます。」

「冗談じゃない!消滅させてなるものか。分かった。かぐや姫を連れて帰るのは諦めよう。」

 するとパッとかぐや姫の姿が現れた。

「安心した。残念だが、お前の事は諦めて帰るしかないようだ。お前が消えてしまっては連れて帰る意味がない。」

「どうかお許しください。」

「帰る前に、お前の秘密を私に教えてくれたお礼に、私の秘密もお前だけに教えよう。我が国では、八咫鏡・八尺瓊勾玉・草薙剣を代々受け継いでいるが、草薙剣だけ数世代前に消失しまっているのだ。これは歴代の帝とお后しか知らない事だ。消失した草薙剣は次に使うべきときに現れると言われている。」

「そんな大切な秘密を教えて下さるなんて…。」

「では、私はこれで御暇させてもらう。」

「お待ちになって下さい!これをお持ちください!」

 かぐや姫は眩く輝く蓬莱の玉の枝を差し出した。

「これは車持の皇子から頂いたものです。車持の皇子が3年もかけて作った大変貴重な品でございます。どうかこれをわたくしの分身だと思ってお持ちくださいませ。」

「うん。ありがとう。お前の事は未来永劫忘れない。」

 帝はかぐや姫の所から還幸された。

 それから数週間後の満月の夜、かぐや姫は月を眺めてさめざめと深く泣いていた。お爺さんはかぐや姫を心配して問う。

「どうしたのだね?綺麗な満月をみてなぜ悲しくなる?」

「なんでもございません。ただただ悲しいだけでございます。」

 それからあくる日もあくる日も夜になるとかぐや姫は月を見て悲しそうに泣いた。その噂は帝にも届いた。帝は心配になりかぐや姫に手紙を書いた。するとかぐや姫から返事がきた。

「貴方様にだけお話致します。わたくしは既にお話した通り、この世の者ではございません。月から参ったのです。しかし、どうもわたくしは月へ帰らなければならないようなのです。それが悲しくて悲しくて仕方がないのです。八月の十五夜には月から迎えがきてしまうようです。月から私の心にそう伝わってくるのです。貴方様とももう二度と会う事はないでしょう。さようなら。」

 帝は驚愕する。

「なんという事だ。かぐや姫が月に連れていかれてしまう!そんな事はさせない!八月の十五夜までに、多くの武士をかぐや姫の所へ集めろ!」

 帝は家臣に命じ、かぐや姫を月の迎えから守るために武士を集った。

 そして八月の一五夜に帝は二千人の武士を引き連れかぐや姫の元へ再び訪れた。お爺さんは困惑する。

「帝!これは一体なんの騒ぎでございますか!?」

「やはりかぐや姫からは何も聞いていないのか。かぐや姫に直接聞いた方が良い。」

「かぐや姫!これはどういうことか!?」

「お爺さんとお婆さんがどんなに悲しむ事かと思い、打ち明けられませんでした。わたくしは今夜月に帰らなければなりません。もうここにはいられないのです。」

「かぐや姫!それは本当か!?それで毎晩月を見ながら悲しんでいたのか!?」

「そうでございます。どんなに嘆き悲しむかと思い申し上げられませんでした。」

「なんという事だ…。」

「安心しろ。かぐや姫は朕が守る。この二千と言う軍勢なら月からの迎えも迎撃できようぞ。」

 屋敷の中や屋敷の周りに1000人。屋根の上に1000人。万全の態勢だ。しかし、かぐや姫は無駄な足掻きだと思ってしまう。

「お爺さん、お婆さん。さようなら。長い事お世話になりました。わたくしからは何もできませんで…。」

「バカなことをいうな。これだけの兵士の数だ。月からの使いでも追い返すことぐらいはできるはずだ。」

 そして深夜0時を回った瞬間、月が太陽のように眩しく光った。月を監視していた兵士達は目が眩んでしまう。そして月からキン斗雲のようなものに乗った何人かの魔人が降り立ってきた。兵士たちは眩んだ目を必死に見開き魔人たちに千本の矢を打ち放った。しかし、覇気によって全ての矢は弾き返されてしまう。魔人は屋根をも吹き飛ばしかぐや姫のいる部屋の上に飛び立った。

「かぐや姫はわたさぬぞ!」

 帝はすかさず刀で応戦しようとするが、覇気で刀を弾かれてしまう。魔王と思わしき人物が話かけた。

「あなたはこの国の帝か。しかしいかに帝でも我々には勝てない。」

「くっ!」

「竹取の翁よ、お前は平凡な凡人だが、善良で子煩悩な人間であった。だからかぐや姫を育てさせるのにお前を選んだのだ。しかし、お前はかぐや姫を育てるには貧乏すぎた。だから竹を使いお前に養育費として財宝を贈ったのだ。元々かぐや姫はこの星を侵略するための刺客としてこの星に送ったのだ。しかし、かぐや姫は月から来たという記憶を取り戻しても一向にこの星の征服の為に働こうとしなかった。月から来た記憶を取り戻すと同時に侵略の目的も思い出したはずなのに、それを成そうとしかったから連れ戻しに来たのだ。」

帝は驚愕する。

「かぐや姫!この者が言っている事は本当か!?」

「申し訳ありません。わたくしが貴方様に月から来たとお話した時には、すでに月から何の目的で来たのか思い出しておりました。しかし、どうしても打ち明ける事ができなかったのでございます。」

「かぐや姫はそうゆう奴だ。育ての親以外と親密になると消滅してしまう呪い・育ての親以外と暮らそうとすると消滅してしまう呪いをかけておいたが、全く無駄だったようだ。かぐや姫はなぜかこの星を侵略しようとしなかった。連れて帰って刑罰を与える。」

「やめて下され!そのような事をなさるなら尚更、かぐや姫を連れて行かないで下さい。かぐや姫は義理の愛娘だ!」

「そうはいかん。かぐや姫からこの星の記憶を取り出して調査しなければならぬからな。かぐや姫は連れて帰る。」

 そういうと魔王の側近と思わしき魔人がかぐや姫に二つの箱を渡した。一つは天女の羽衣だった。もう一つは水晶でできた壺だった。

「かぐや姫よ。この壺の中のどんな呪いをも解く薬を飲みたまえ。呪いを解かねばお前を連れて帰る途中で消滅してしまう。」

 かぐや姫は薬を湯呑に入れて飲みほし、羽衣を身に着けた。帝はかぐや姫を呼び止めた!

「かぐや姫!本当に帰ってしまうのか!」

「ほんの一時でしたけれど、貴方様とお会いできて本当に幸せでした。どうか蓬莱の玉の枝をわたくしだと思って大切にして下さい。貴方様の事は永久に忘れません。」

 そういうとかぐや姫はキン斗雲のような雲に乗せられ魔人たちに連行されていった。キン斗雲のような雲は月に向かってあっという間に飛んでいき、見えなくなってしまった。

 こうしてかぐや姫は月に帰って行ってしまった。お爺さんは酷く落ち込んだ。

「ああ…かぐや姫…長い間本当の親子のように暮らしてきたのにもう二度と会う事はできないのか……。」

「かぐや姫………………。」

 帝は蓬莱の玉の枝を懐かしむように見つめ、嘆いた。

「わしに残されたのはかぐや姫が生まれた時に入っていた黄金の竹のみか……。」

 お爺さんも落胆して嘆いた。しかし、帝はその言葉を耳にしてひらめく。

「翁よ。」

「帝!なんでございましょうか。」

「かぐや姫や財宝は竹を使って送られてきたそうだな。」

「はい、魔人たちもそう申しておりました。」

「ならば、その竹を使えばこちらからも、月に行けるのではないか?」

「!?…考えてもみませんでした。確かにかぐや姫が入っていた竹は記念に取っております。財宝が入っていた竹も最初の内はとっておきました。」

 お爺さんはかぐや姫や財宝が入っていた黄金の竹を全部で10本持っていた。

「これを使えば月に行けるかもしれない!直ちに職人を集めよ!」

「それなら私めにおまかせ下さい!」

「車持の皇子!なぜここに?」

「かぐや姫が連れ去れるという噂を聞きつけて心配だから見に参ったのです。私は蓬莱の玉の枝を作った優れた職人を数十名知っております。その職人達にこの竹を使って月まで行ける装置を作らせましょう!」

 車持の皇子は直ぐに優れた職人達を集め、黄金の竹で月まで向かう装置を作らせた。帝はそれを日本で一番高い山である富士山の頂点に持って行った。

「ここからなら間違いなく月までいけるでしょう。」

「うん。姫を取り戻しに朕が直接行ってくる。」

「この竹の量では一人分の移動装置しか作れませんでした。お一人で大丈夫でしょうか。」

「朕を誰だと思っている。一人でも大丈夫だ。問題ない。」

「移動装置は一度しか使用できません。一度月に行ったら戻ってこられなくなる可能性があります。」

「構わない。朕は行く。」

 帝は月までの転送装置の中に入り、月へ瞬間移動した。一方、その頃かぐや姫は魔王に記憶を読み取られていた。

「かぐや姫の記憶を見る限り大した星ではないな。帝は凄いがそれ以外は何もない。侵略する価値もない星だな。かぐや姫の処罰が終わったら、月を後にし、別のカモとなる惑星を探すこととしよう。」

 魔人がかぐや姫を縛り上げた。

「お前は地球人に似た外見で実に醜いな。地球人に似た外見というだけで地球侵略の刺客に選ばれたのに、それを棒に振るとは馬鹿な奴だ。お仕置気が必要だな。」

 魔人はかぐや姫に電撃を喰らわせ痺れさせる。そして、さらに火炎放射で火あぶりにする。

「いやああああああああああああ!!!!あついあついあついあついあつい!!!!」

 魔人は、猫型の魔獣にかぐや姫の顔を引っ搔き回させ、かぐや姫の顔面に水晶玉を投げつけた。

「あんっ!いった~いん!!」

 さらに魔人はかぐや姫を投げ飛ばし顔面から岩に激突させた。

「きゃあああああああああ!!!」

「そろそろお遊びは終わりだ。お前には拷問処刑の命令が出ている。すこし拷問が足りないが、お前のような醜い奴を拷問し続けても不愉快になるだけだ。すぐに処刑してやる。」

 魔人がかぐや姫の首を切りかかろうとしたと時、帝がそこに駆け付けた。

「やめろ!!!悪行はそこまでだ!!」

「あなたは大和の国の帝!どうやってここに!?どうやって月まできたのだ!?」

「朕は帝だ。帝には代々不思議な力が受け継がれているのだ。」

「くう…邪魔立てするなら死んでいただく!」

「そうはいかない!死ぬのはお前の方だ!」

 魔人は帝に切りかかったが、あっという間に帝に一刀両断されてしまう。

「かぐや姫!」

「貴方様!また、貴方様にお会いできるとは夢にも思ってませんでした。まるで夢のようですわ!」

「私もだ。まるで夢を見ている気分だ。」

「その夢は悪夢だ!!!!」

 魔王が叫んだ。その瞬間、魔王の側近の魔人数名が帝に襲いかかる。帝はすかさず襲いくる魔人を次々に切り倒していく。そして、魔王に切りかかる。しかし、魔王は覇気を放ち、刀は魔王の覇気で彼方へと弾き飛ばされてしまう。

「これで終わりだ、帝!!」

 魔王は魔剣で帝に切りかかる。その時、帝の手に草薙剣の剣が現れ、魔王の魔剣を受け止めた。

「なに!?」

「これが貴方様が仰ってた伝説の草薙剣でございますね!使うべきときに現れるっていうお話は本当だったんだわ!」

 帝は草薙剣で魔剣を弾き飛ばす。そして、魔王に向かって突撃した。魔王は再び覇気を放った。今までで一番大きな覇気だ。しかし、帝は草薙剣でその覇気を薙ぎ払ってしまう。

「バカな!?我が覇気が効かないだと!?」

「これで終わりだ!魔王!!!」

 帝は魔王をめった刺しにしようと草薙剣を乱れ突く。しかし、魔王はそれを全て指で受け流してしまう。

「指だけで全て防ぎきっただと!!!」

「どうやら眠れる獅子を起こしてしまったようだな。」

 魔王は巨大なカマキリのような姿に変身し、右手の鎌で帝に切りかかった。帝は草薙剣でそれを受け止めた。魔王はすかさず左手の鎌で帝に切りかかろうとした。

「あぶないわ!!!!」

 そう叫んだ瞬間、帝の懐から蓬莱の玉の枝がこぼれ出た。

「うぉっ!!!眩しい…。」

 蓬莱の玉の枝の眩しいほどの輝きで目が眩み魔王は怯んだ。帝はその一瞬を見逃さず草薙剣で魔王を真っ二つした。

「そんなばかなあああああああああ!!」

「やったわ!勝ったのでございますね!」

 帝はすかさずかぐや姫を縛っていた縄を切った。

「ずっと持ってて下さったのですね。」

「お前に救われたよ。蓬莱の玉の枝が無ければ私の負けだった。」

「ありがとうございます!!」

「一緒に帰ろう!日本へ!」

 帝とかぐや姫は、キン斗雲のような雲の乗り物に乗り、地球に帰還した。

「おお!!帝がかぐや姫を連れて戻っていらっしゃった!」

「おお、かぐや姫!帰ってきてくれたのか!」

 おじいさんや町の皆がかぐや姫と帝を出迎えた。

「これから結婚式だ!新しいお后のかぐや姫であらせるぞ!」

 帝がそう言うと、町の皆がすぐに結婚の準備に取り掛かった。そして、帝とかぐや姫は盛大に式を挙げた。

「愛している。」

「わたくしも愛してますわ!」

 二人はお互いを抱擁し、接吻を交わした。こうして帝とかぐや姫は結婚し末永く幸せに暮らした。

 めでたし、めでたし。

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