この小説の主人公である、学術都市ヴェローネルで便利屋を営む青年・ロト。実は彼は都市がある王国出身ではなく、遠く離れた鎖国的な北大陸からの亡命者であり、街の人達から頼られそれなりに穏やかな生活を送りながらも今なおその身に重い事情を抱えています。
生まれ故郷から亡命という形で異邦人の大陸に降り立った原因と過去、異なる大陸の民族と魔術師への差別と偏見、そしてロトを苦しめる魔女の《呪い》――。
本作は同作者様の異世界ファンタジー『ぼくらの冒険譚』と繋がりがある作品で、ロトは『ぼくらの~』の主人公達の保護者ポジションにあたる人物です。なので「あそこにちらっと出たあの人はこんな人だったんだ」「このエピソードはあんな風に繋がってたんだ」というちょっとしたお楽しみを見つけるのもさる事ながら、向こうでは子供達が主役故に語られなかった、あるいは敢えてぼかされた歴史部分を読む事が出来ます。
その歴史がとても深い。まるで本当にこの世界が存在するかのような緻密な世界観に感嘆の溜め息が出ます。書籍化したら見返しに手書き風の世界地図とか年表書かれてるタイプ。
この小説単独で読む事は問題無いし楽しめるのですが、これを読む前に一度本編の『ぼくらの冒険譚』も読んでほしいです。特にⅥは……Ⅵは本当あっちを読んでから……! そして『ぼくらの~』を楽しんだ方は是非ともこっちも……!
純度100%な異世界ファンタジーにどっぷり浸かれる本作、オススメです。
あたりまえだけど、異世界にも国があって街や村がある。
そこに住む人々の営みがあって、歴史を紡いで文化を育んでいく。
歴史の中には楽しいこと、嬉しいこともあるけど悲しいこともあって…
人々の歴史が異なれば、異なる文化が育まれていく。
文化の違いがあれば、そこに齟齬が生まれることもあり…
このお話はとても世界が丁寧に創られています。
国や街といった現在はもちろん、歴史や文化も丁寧に創られており、丁寧に構築された世界に生きる人々も、やはり丁寧に描かれています。
なのでとても感情移入してしまいます。
そしてなにより、このお話の人々は皆、思いやりの心を持っています。
だから、彼らのお話をずっと読んでいたいのです。
このお話を読まれたのなら、同じ作者様の姉妹作、『ぼくらの冒険譚』も是非どうぞ。