Ep.- Reanimater
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自分が何者なのか、その存在は、よく分かっていない。
いや、名前は知っている。そして独立演算型情報質量体――或いは、悪魔と呼ばれる存在である事も、分かっている。
だが、どういった経緯で自分がこの世界に産み落とされたのかが分からない。
父や母に当たるものが居るのか。何らかの意図を持って生み出されたのか。そういった事がわからないのだ。
だが、その事に困惑はすれど、さほど困っていないというのが、その悪魔の現状だった。
自分が何者なのかは分かっていないけれども、自分が何をする存在なのかは分かっているのだから。
成すべきことを成す。それだけだ。
自分が成すべきことは、他人の手助けだ。
ただし、どんな相手にも手を貸すわけではない。手を貸すのは、復讐をしようとしている人間だ。
今日もまた、悪魔は復讐者の元へと現れた。
その復讐者は、少女だった。場所は、部屋の中。ベッドと机があって、可愛らしい装飾が成されている辺り、ここは少女自身の部屋なのだろうか。
一体何があったのだろうか。そんな事はわからない。何故復讐しようとしているのか。何に復讐しようとしているの。それも分からない。
分からないけれども、それで構わないと、悪魔は思っている。
大事なのは、少女には復讐の意志があって、それに悪魔が応えたのだということだけだ。
少女はいきなり現れた悪魔に驚いて、目を丸くしていた。その目には大粒の涙が残ったままになっている。
或いは、少女が驚いたのは、眼前に現れた存在が、自分と然程変わらない年齢の少女の姿をしていたからかもしれない。
そう、悪魔の背格好もまた、少女のそれであった。
悪魔は少女に向かって、話しかける。
「貴女はこう、思っている。理不尽だって。不条理だって。こんなの間違ってるって。だから、怒ってる」
そして、復讐したいと思っている――そう、続ける。
悪魔に言われて、少女は少し間をおいて、こくりと頷いた。
「そう、良かった。だったら、私が貴女を手伝ってあげる。どんなに強大な相手でも、どんなに理不尽な相手でも関係ない、全てをねじ伏せられる暴力を貸してあげる」
言って、悪魔は左手を少女に向かって伸ばした。
悪魔の左手は、そちらだけが金属の光沢を放つ
差し出された手と、悪魔の顔を、少女は交互に見る。不安そうな目で。そして、問う。
「あなたは、何なの?」
それは悪魔にとっては、聞き慣れた問いかけだった。
人は必ず悪魔に問う。お前は何者なのだと。問われれば、悪魔はこう応えるのだ。
「私は独立演算型情報質量体。貴女にも分かるような言葉で言うと――悪魔」
「悪魔……」
少女が喉を鳴らして唾を飲み込む。
「私は復讐の女神、復讐者に手を貸すもの。貴方が手を取るのなら、間違いなく、最後まで貴方に手を貸し続ける」
ねぇ、どうする? そう続けた悪魔の手に、少女は手を伸ばした。そして、必死に悪魔の目を見ながら、言う。
「ねぇ、悪魔さん。あなたの名前は、何?」
「私の名前は、イリス。イリス・ヴェイン」
悪魔――イリスが知っているのは、それだけだった。
イリスという名前。
そして、自分が、復讐者に手を貸す存在であること。
自分を形作る存在が、そうしろと囁き続けるのだ。
復讐をしろ。復讐者の女神として、その助けをし続けろ。
そうして――自分という存在を、世界に刻みつけてやるのだ、と。
……今夜もまた、復讐劇の幕が上がる。
悪魔と少女と復讐機 下降現状 @kakougg
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