6話 『裏切り』

 蟻は恐竜に勝てるのか。

 この質問を投げかけたとき、勝てると答える人間は少ないのではないだろうか。しかし蟻が数千、数万、数億といれば圧倒的な個の力に勝つことも不可能ではないのかもしれない。個の力と同じかそれ以上に数の力は偉大なのだ。

 だが悠馬には個の力どころか、数の力すら存在しない。ただ圧倒的な力の前に倒されるのを待つのみ、今はそんな絶望的状況だ。


「ガキと思うなら見逃してくれたり・・・はしないか」


 紗乃を蹴り飛ばしたスキンヘッドの男の周りに蒼い炎が舞い始めたことで悠馬はその可能性がないことを察した。それと同時に、どこかで見たことがあるようなその顔をじっくりと見つめる。

 たとえ些細なことでも相手の情報は大事だ。格上となれば尚更に。


『なあ、九条。生きてるか?』

『もちろんよ。柊崎くん、あなたこの瞬間にも死んでしまうかもしれないというのに落ち着いてるのね』

『死ぬかもしれない状況は生憎あいにく経験があってな』

『そう。なら数分稼いで』


 蹴り飛ばされながらもしっかりと受け身を取っていたらしい紗乃は文句を言う暇もなく通信を切ってしまう。

 紗乃の手前少しカッコをつけてしまった悠馬だが、心臓が今にも飛び出してしまいそうなほど目の前の男が恐ろしい。死にかけた経験があるというのは事実だが、自分の命が生と死の狭間に立たされているのに笑っていられるほど悠馬も人格破綻者ではないのだ。


「なあ坊主、お前ランクは?」

「え・・・?」


 あまりにも自然に予想外のことを聞かれ驚いた悠馬の声は裏返ってしまっていた。


「その様子じゃ期待できないか・・・、お前らランクってので強さが分かれてるんだろ。強いやつ、いないのか?」

「そういやさっき・・・」


 悠馬はランクという言葉でここで1人戦っていた者がいた事を思い出す。


「さっき?あぁ、あれか。他のやつよりは良かったな」


 スキンヘッドの男の目線の先には黒く大きな何かが転がっている。


「焼死体・・・?殺したのか・・・?」

「見りゃ分かる話だわな。せいぜい抗ってくれよ、そうじゃねぇと楽しめないからな」


 男の後ろにはさらに数体の焼死体。

 その数はレーダーから消えた光点の数と一致する。


「やばいどころじゃないな・・・」


 より一層、身の危険を感じた悠馬は男から距離をとった。そうしなければすぐにでも正気を保てなくなると判断したためだ。

 悠馬の役目は時間稼ぎという1点のみ。なら別に無理に勝負を仕掛ける必要はない。どんな方法でも時間を稼げれば勝ちなのだ。

 そこで悠馬の取った方法は対話だった。彼には目の前の戦闘狂バトルマニアらしい男に1つ思い当たる節があった。


「あんた、プロボクサーだよな?」


 その言葉で男の顔色が変わる。そこに確かな手応えを感じ、悠馬はその先へと踏み込む。


「昔、実力は文句ナシだが素行不良のボクサーがよくスキャンダルを起こしてニュースが持ち切りだった。顔、そっくりだと思ったんだけど?」

「もう7年前のことだ、関係ねぇな。気合い入れろよ」


 どうやら当たりのようだが時間を稼ぐには至らない。しかしボクサーであるなら武器の類は持っていないと考えていいだろう。


(なら、拳のリーチ以上の距離を開けて逃げ続ける!)


 男が自分の懐へ飛び込んでくるより早く悠馬は地を蹴り、後ろへ高速で跳ぶ。

 道路上に停められている車、電柱、看板、様々なものに身体が当たるがそんなことは気にしていられない。一瞬でもスピードを落とせば死ぬ。これは死との鬼ごっこなのだから。


「おらおら、逃げてんじゃねぇぞ!」

「逃げるが勝ちって言うだろ!」


 男はどういう原理か、身体能力を限界まで引き出している悠馬とほぼ同じ速さで追随してくる。


『おい、九条。まだか』


 頼みの綱である紗乃に呼びかけるが返事はない。あわよくばこうして逃げつつ、合流して倒してもらおうという悠馬の希望は叶わないらしい。


 そんな雑念のせいか悠馬は慣れない高速後進バックに脚がもつれる。

 当然スピードは減速し、前から男の拳が紅蓮の炎を纏って迫る。


「やばい、死ぬ・・・」


 跳躍後のため悠馬の脚は地面を離れてしまっている。ここから横へと逃げることも上へと逃げることも不可能だ。


「もらった、こんがり焼いてやる」


 勝利を確信した男の拳は爆発を伴いながら悠馬の顔面へまっすぐと──


「私の前では誰も殺させない」


 爆音の中、鋭く強くしかし心地よく澄んだ声が響く。


「遅いだろ・・・下手すりゃ何回か死んでたぞ」

「死んでないのだから問題なし。それに安易に死ぬという言葉を口にしない。2回目よ、次はないと思って」

「はいはい」


 目を開けると鼻筋スレスレに赤熱した拳とそれを受け止める刃が煌めいていた。その光景を見ただけで悠馬は腰が抜けそうになる。

 だが、力強い意思を内包した紗乃の声を聞いただけでその恐怖も大したものではなくなった。


「木偶の坊さん、あなたの相手は私よ」

「死んではないと思ってたが・・・無傷か。こっちはそれなりに楽しみがいがありそうだ」


 悠馬の目の前の2人はすぐさま殴打と剣戟を繰り出し始める。

 パワーは男が格段に上、スピードはほんの少し紗乃方が上といったところ。少し紗乃の分が悪いか。そんなことを自分でも理解しているのか、男を中心にあらゆる方向から斬りつける紗乃の顔はなかなかに苦しいものだ。


「っ──!」


 武道特有の気合の入った掛声のあと紗乃の動きが一瞬急激に速さを増し、男の胸の衣服が弾け飛ぶ。彼女の攻撃が通ったのだろう。


「っしゃ!いけるか・・・?」


 そんな光景に希望を抱いたのか悠馬は思わずガッツポーズ。だがそこに苦しそうな紗乃の声が聞こえてくる。


『柊崎くん。あなたは先に戻って、緊急帰還申請を今出したから』

『オレにもなにかやれることがあるはずだ、1人でトンズラってのは納得いかん』

『自惚れないで、約束したでしょ』


 約束。その言葉の意味するところはここに来る前にしたあれのことだろう。


『危なくなったら逃げるとは言ったが・・・何もせず全部お前に託すのは違うだろ』

『私はこの相手におそらく勝てない。2人死ぬより1人が死んだ方がマシ。子供でも分かることだと思うのだけれど』

『それならダッシュで逃げて2人で緊急帰還するってのが最適解だ』


 そう紗乃に訴えながら悠馬はそれがおそらく不可能であることに気づいていた。そうでなければつい15分ほど前にすれ違った上級生が、高ランカーといえど仲間1人を置いて逃げるはずがないのだから。


『2秒よ。緊急帰還の間、2秒間身体は無防備な状態になってしまう。あなた1人逃がすくらいなら・・・』

『分かった。じゃあ、オレが生き残るための2秒を稼げ』

『もちろんよ』


 悠馬は紗乃に背を向け、後方の建物の中へと走っていく。平地にいるよりも入り組んだ場所の方が安全。妥当な考えだ。

 未だ男の攻撃を走り、跳び、身を捻り避け、隙あらば攻撃を仕掛ける紗乃の胸にこのとき確かに小さな痛みが生じた。


 その感情までも全てその手に持つ一振りの刀へと乗せ、彼女は通用しない攻撃を放ち続ける。


「自分でも分かってるんだろ?オレには勝てねぇってこと。どうしてそこまで無駄な努力を続けるんだ?」


 男は攻撃の手を緩めると周囲を凄まじいスピードで飛び回る少女へと疑問を投げかけた。


「そうね、私にはこれしかないから・・・かしら」


 男の問に答えながらその無防備な身体を全力で斬りつけるが薄皮1枚、傷つけることすらままならない。


「あの坊主んために死ぬ気か?」

「なにかおかしい?」

「いや、おかしくはねぇ。せめてもの救いに最後は全力で相手してやるよ」


 男の身体から今までの数倍激しく炎が吹き出す。周囲一帯に降る雨を全て蒸発させてしまうその姿はもはや小さな太陽だ。

 そんな底知れない力を前に紗乃は命を散らす決意を固める。


「2秒・・・、それすら持ち堪えられるか」


 視界に映る悠馬の表示はまだ健在。ここからまだ30秒はかかるだろう。紗乃の顔が焦りの色を帯び始める。そんなとき、もはや聞くことはないと思っていた少年の声が脳へと響いた。


『九条、オレはオレのベストを尽くした。だからお前もベストを尽くせ。オレはお前を信じる』


 その声が消えるとともに悠馬の表示が緊急帰還待機状態へと変わる。


「随分上から、勝手なことを言ってくれるのね」


 紗乃は楽しそうに笑うと男の方ではなく、悠馬が逃げ込んだ建物の方へと全速力で移動する。


「さっきまでの威勢はどうしたぁ!」

「少し気が変わったの」


 一階の入口のガラスを背中で突き破り、斬撃を天井に放ち、穴を穿つ。男との距離は10m、悠馬の帰還完了まで0.5秒。


「彼は問題なし、あとは・・・」


 2階へと跳んだ紗乃目掛けて無数の炎球が飛来する。触れれば焼かれ、斬れば爆発するその厄介な攻撃は彼女に避ける以外の選択肢を与えない。

 巧みな身のこなしでその全てをなんとか避けた紗乃は背後に気配を感じるが、もう遅い。


「誘導されてたって気づけ」


 すぐさま背後の男の攻撃に備え、腕で急所をガードする。しかしそのガードを掻い潜って紗乃の鳩尾へ強力な蹴りが入れられた。

 スーパーボールのように床と天井をバウンドして紗乃の身体が飛んでいく。


 かろうじて立ち上がる紗乃の左手は力なく下へと垂れ下がり、衣服の切れ目からは黒く焼け溶けた肌が見えていた。


「終わったな、痛みでイメージの確立さえ危ういだろ?」


 事実、今の紗乃は能力を行使するためのイメージさえ練り上げることが出来ない。

 しかし彼女は寄りかかる柱にある落書きを見つけ微笑む。


「痛覚遮断・・・」


 紗乃の声に呼応して身に纏うスーツの能力が発揮され、身体中の痛みが消え失せる。


(他人を信じて頼る機会なんて、もうないと思っていたのに・・・無様だわ)


 何らかの異変を紗乃の笑みから察したのか男が全速力で突進してくる。それを意に介さず紗乃は刀を縦に横にと二度振るう。

 巨大な十字の斬撃が目の前に存在する全てを破壊していくが、やはり男を倒すには至らない。


「ビビらせやがって、苦し紛れかよ。・・・ん?」


 男が安堵したのも束の間。大きく破壊された建物の上階から超低温の液体が大量に降ってきたのだ。

 白い煙と共に落下するその液体は男の纏う炎の鎧の力をみるみる奪っていく。


「くそが!どこ行った!」


 物陰にひっそりと身を隠す紗乃は叫び荒れ狂う男を他所に、視界に表示される2秒のカウントダウンを見つめ続ける。

 たった2秒が永遠のように長い。


「見つけた、ぶん殴ってやる」


 体から放った爆風で視界を遮る煙を吹き飛ばした男と紗乃の目が合ってしまう。

 残り0.3秒。彼我の距離、約15m。


(ごめんなさい、柊崎くん。あなたの頑張りに応えられなかった・・・)


 死を直前に控えたとき特有のスローモーションの世界で紗乃は視界に映る秒数と男の動きを見ながら心の中で謝罪の言葉を述べ目を瞑る。

 

 目を瞑っていても分かる炎の明るさを感じながら、やってくるであろう衝撃に覚悟を決めた紗乃の身体を襲ったのは強烈な拳のインパクトではなく突風に吹き飛ばされるような感覚だった。

 無防備な身体が紙切れのように吹き飛ばされる。そして目を開けた紗乃の前には地面から生える巨大な火柱と0.000秒の表示。


 そんな光景も奇妙な重量感と共に消え去り白を基調とした美しい病室へと変わった。


「助かったの・・・?」

「九条 紗乃だったかな?治療をするから痛覚遮断の解除と脱衣をお願いできるかな?」


 自分の身に起きたことをいまいち理解出来ていない紗乃は医師に従い焼け焦げた服を脱いでいく。

 と、そこに


「九条!大丈夫・・・か・・・、いやごめん。なんでもないっ!」


 悠馬がやってきた。必死の形相で病室のドアを開けた悠馬は紗乃の半裸を目にしてしまい、すぐに開けたドアを閉めると外へと出て行く。


「はは、元気だね〜彼。前は死人のようだった気がするんだけど」


 女医は笑いながら紗乃へと目を向ける。


「どうかしましたか?」

「いや、彼と君とは相性がよさそうだと少し思っただけだ」

「そうですか・・・」


 紗乃には何故かいつものような気の強さがない。初対面の女医にとってそんなことは分かるはずもないが。


「一晩寝たら治ってるさ」


 紗乃の身体をトンッと手で叩くと女医は治療という治療をせず笑顔で病室から出て行く。

 外でなにか大きな声で悠馬と女医が言い合う声がするがすぐに収まる。その後しばらくして控えめなノックが聞こえてきた。


「入っていいか?」

「どうぞ」


 改めて悠馬が病室へと入ってくる。紗乃の骨が折れ青くなり、焼け爛れた腕に驚きの表情を見せた悠馬だが、すぐにそれも顔から消える。


「女性の体を見てそんなグロテスクなものを見てしまったときのような反応をするのはどうかと思うのだけれど?」


 どうやら紗乃にはバレバレだったらしい。かなり痛々しいその腕はあまり見れたものではなかった。


「悪い・・・。とりあえず無事でよかった。おかえり九条」


 目の前に立つ少年は満面の笑みを浮かべていた。


「傷・・・治るのか?」

「ええ、この学園に併設されている病院は腕を生やすくらいのことは1日でできるから」

「ほんと・・・どうなってんだよ」


 自分のせいで紗乃の身体が生涯傷物になってしまうことはないと知り、悠馬はこっそり安堵した。理由はどうであれ女性の身体に傷をつけてしまうというのは犯罪級の行為なのだ。それに加え、密かに心の中で誓っていたことを果たせた安堵感もあったりするのだが。


「柊崎くん」

「どうした?」

「あなたに謝らないといけないことがあるの」

「は?」


 紗乃という人間の内面を勝手に独善的と決めつけていた悠馬は彼女の言葉にとても驚いた様子だ。


「謝ることなんてないだろ、オレはお前のおかげで怪我ひとつなくピンピンしてる。謝られることは何も無いし、むしろこっちが礼を言いたい」

「あなたは自分の手柄を誇らないのね。私はあなたの助力がなければあの場所で死んでいたというのに・・・」

「死んでないなら問題ないんだろ?」


 悠馬は紗乃が2度口にした言葉を本人へとそのまま返した。それはあてつけでも悪戯でもなく、彼の本心だった。


「そういう問題ではないの。私はあなたが逃げ出したと思って・・・」

「お前1人、あの場において先に逃げたのは事実だろ」

「違う。私はあなたが・・・裏切ったのかと・・・思ってしまって・・・」

「裏切るもなにも信用してくれてたのか。オレの浅知恵は役に立ったか?それとも自分でなんとかしちまったか?」


 狼狽する紗乃の前で少年は優しげな笑みを浮かべていた。


「信用・・・?何故・・・?」


 紗乃の言葉がなにを意味し、何を指しているのか悠馬には分からない。かといってこんなときのための気の利いた言葉の1つも持ち合わせてはいない。

 だからこそ悠馬は思うままを口にするしかない。


「オレはお前のおかげで生き延びた。お前もこうして生きてる。それでいいだろ、それ以上でもそれ以下でもないただそれだけの話だ。素直に喜んで、ありがとうでいいんだよ」

「そうなのかしら・・・」

「お前が何を気にしてるか知らないが、きっとそうなんだろうよ」


 紗乃はそんな悠馬の言葉に幾らか救われたように少しずつ落ち着きを取り戻していく。


「聞いてもいい?あなたがなにをしたのか」

「ああ、単純な話だ。あの建物、化学製品かなにかの研究施設だったろ。だから冷たそうなもの、液体窒素だっけ?あれを大量に拝借したんだよ」

「それをビルの支柱を全て切れば下階の中心に流れるようにしたと。ならあの火柱はなに?」

「あれも上手くいったのかあれはTNT、トリニトロトルエンっていう爆薬みたいなやつと色々混ぜて作った。炎纏ってる状態で上通ったらぶっ飛ぶかなーって」


 紗乃は何気ない様子でタネ明かしをする悠馬に改めて自分が彼を過小評価していたと思い知らされた。


「すごいのね、あなた」

「いやいや。必死だっただけで偶然だ」


 褒められた悠馬は嬉しそうに笑っている。


「それでも、あの柱の落書きはいただけないわね」


 柱の落書き。それは悠馬が紗乃になにかヒントを残そうとして書いたものだ。


「斬撃女王クイーン。2度と呼ばないでと言ってなかったかしら?」

「いや、ほら、相手にバレないように支柱を斬るように伝えるにはあれしかないかなってー・・・な?」


 斬撃女王クイーンと次呼べば斬ると口にしたのは紗乃自身だ。短時間で簡単とはいえそんな暗号を考えつき、策を巡らす。もしかすれば自分が2階へと逃げ込むことも想定内だったのではないだろうか。そんな考えが一瞬紗乃の脳裏をよぎった。


「結果的にこうして生き残ることが出来たのだから、今回は仕方なく不問にするわ」

「死線乗り越えたってのに、斬られてたら洒落にならねぇから・・・」


 そんな悠馬の相変わらずな物言いに紗乃が笑う。なんというかいい雰囲気だ。

 そんな雰囲気に流されてか、悠馬は今朝言いたくても言えなかったことを伝える決心をした。


「明日治るんだよな?」

「ええ、そうね」

「明日は任務クエスト休みだよな?」

「不本意だけどそうせざるを得ないわね」


 心の中で悠馬はガッツポーズをする。場の雰囲気も相まってそんな彼の心臓はドクドクと鼓動していた。


「近くに大きなショッピングモールがあるだろ?」

「それがどうかした?」

「明日行きたいんだけどさ」

「そう、いってらっしゃい。休日なのだから自由にしてくれていいわよ」


 紗乃の言葉で悠馬の胸のドキドキは消し飛んだ。そもそも九条 紗乃になにか期待することが間違いだった。


「いやいや、お前な!」

「なに?」

「なにじゃねぇよ!1人で行かせる気か!?」

「1人?いつもの牛なんとかくんたちと行くのでしょう?」


 牛なんとかくん。そこにツッコんでしまうとなぜか負けのような気がした悠馬はなんとか堪える。


「放課後誘われて一緒に行きたくないことはなかったけどな!?お前と行きたいなって思って誘ってんだよ!」

「道案内?端末のマップの使い方、教えた方がいいのかしら」


 妙に納得の言ったようにそんなことを言う紗乃。この女、なんという鈍さだろうか。それともわざとなのだろうか。


「家具とか服とか買うつもりなんだが、しっかりと監督しないと部屋に気持ちの悪い得体の知れないものが大量に運ばれてきても知らんぞ?」

「それは・・・困るわね」

「ならついてこい」

「よく分からないけれど、仕方ないわね。そこまで言うのなら行ってあげる」


 恐ろしく上からだが、頼んでいる側としては文句は言えまい。


 そのまま特に話すこともなく、無言で空間を共有する2人は外の雨雲を見つめていた。

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