終わり
かつて所属していた事務所が入るビルの屋上に、バレエシューズで立つ。立つことすらままならないけれど、杖のお陰で柵を飛び越えることは容易そうだ。
バレエの基本姿勢。アン・ドゥオール。軸の左足が震えるのは、筋力の衰えからか、恐怖からか。杖で体を支えつつ、足を高く持ち上げ、転落防止用の柵に足をかけた。柵にかけた足に体重をかけ、杖に力をかけてからだの重心を移動させる。
そのまま、飛び降りた。重力加速度に従ってからだが落下する。からだが風を切る。ひどくゆっくりに思えた。バレエダンサーとして過ごした、厳しいけど充実していた日々。事故に遭ってからの長いようで短かった日々が、走馬灯のように脳内を駆け巡る。地面が近づく。もうすぐだ。もうすぐ、楽になれる。わたしは目を閉じる。身体中に走る激痛のち、意識が遠退いていった。
**
『次のニュースです。元バレエダンサーの──さんが、都内の路上で遺体で発見されました。全身を強く打ち付けた跡があり、また近くの高層ビルに遺書が残されていたことから、警察は自殺とみて調べを進めています』
-終-
羽のない蝶 佐宮 綾 @ryo_samiya
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