【外伝】太陽と月

 〈竜の巣〉から帰還し、カッツェの故郷へと戻ってきたノエル達。

 そこから彼らは〈南の港町〉へと渡り、何か解決できる悩み事はないかとギルドや酒場で情報収集をしていた。


*

「ヴァイス……少し話があるのだが……」

「はい、何でしょう?」


 酒場でくつろぐノエル達の元に、いつになく真剣な目をしたレイアがやってきた。ノエルと話していたヴァイスが談笑を止め、彼女の方に向き直る。

 だがレイアは何かを言い淀むようにチラリとノエル達のいるテーブルを見やった。


「ちょっと……ここでは……」

「では、外でお話しましょうか?」


 どうやらノエル達がいると話しずらい内容のようだ。ヴァイスは一つ頷くと立ち上がり、レイアとともに酒場の外に向かって行った。


*

「カッツェ……あれって、まさか……?」

「むむ。あれはどう見ても、こくはk……いや、まだわからん。とりあえず邪魔をしてはいけないな」


 興味深々でカッツェに尋ねてみるノエル。カッツェもかなり興味がありそうな様子をしているのだが、大人の余裕をもってノエルをいさめている。


「ニャッ?」


 主に食べ物にしか興味がないカノアは、一人もぐもぐと満足そうにビーフジャーキーを頬張っていた。


「あっ、それは俺のつまみだ!」

「ニャーーン」


 食べかけのビーフジャーキーをカッツェにお皿ごと取り上げられてしまい、カノアが悲しそうな声をあげる。


*

「ねぇカッツェ……あれからヴァイスとレイア、たまに二人でいなくなってるよね?」


 酒場でのやりとり以来、月夜の晩になると二人のエルフがどこかに出掛けていることにノエルは気付いていた。


「……あれってデート、かな?」

「じゃ、邪魔をしてはいけないぞ……」


 カッツェは腕組みをしてノエルと視線を合わせてくれない。だが頬と目元の筋肉がぴくぴくとほんの少し動いているから、彼もかなり気になっていることは間違いない。


「でも気になる! ちょっとだけなら……!」

「あっ、こら!」

「ニャッ?」


 ついに我慢しきれなくなったノエルは、二人の姿を探しに出かけることにした。カッツェも慌ててノエルの後を追いかける。


*

 意外にも、エルフ二人の影はすぐに見つかった。

 月明かりに照らされた噴水の前で、二人がそっと寄り添っているのが遠目に見える。


 レイアの銀髪が月の光に照らされて淡く光る。胸には何かを大事そうに抱き、少し俯いていた。

 ヴァイスがレイアに何かを話しかけた。しかしノエル達のいる場所からはレイアの横顔とヴァイスの後ろ姿しか見えない。


 しばらくして、レイアがヴァイスを見上げた。琥珀色の瞳が月の光を反射する。

 ヴァイスの顔がレイアに少しだけ近づき、そして……


*

「こ、子供はこれ以上見てはいかん!」

「えーー! いいところだったのに~」

「ニャッ?」


 カッツェが慌てて、ノエルとカノアを抱えてきびすを返した。ノエルは盛大に不満を言っている。


「……でも、いい感じだったね」

「うむ。あれ以上は近付けんな。まぁ美男美女だし、エルフ同士でお似合いなんじゃないか?」

「ニャ♪」


 白黒エルフ二人の仲睦まじい様子を見て満足したノエルは、カッツェに抱えられたままぱたぱたと足を揺らした。カノアも機嫌良さそうに尻尾を揺らす。


*

 ――翌朝。


「カノア、……これを」

「ニャ?」


 朝食を食べに集まった宿の食堂で。緊張した面持ちのレイアが、カノアに何かを差し出した。


 それは綺麗な銀のネックレスだった。

 レイアの髪のように淡い銀色の細いチェーンに、彼女の瞳のように綺麗な琥珀がはめ込まれている。


「……お守り、だ。月の光でカノアを守るまじないを込めてある」

「ニャ、ボクに……?」

「カノアが怪我をしたら心配だから……。う、受け取って欲しい」


 レイアは伏せた顔を耳まで真っ赤にしている。相当恥ずかしいのか、カノアの顔をまともに見られないようだ。緊張のためか、その腕はぷるぷると震えていた。


「レイアが七晩かけて月光のエネルギーを集め、カノアのために想いを込めたモノです」


 ヴァイスが隣で解説を付け加えた。どうやらエルフ族に伝わるお守りのまじないをレイアに教えたのは、彼のようだ。


「七晩? じゃあ、ヴァイスとレイアが夜中に外に出ていたのは……」

「覗きは良くないですよ、お二人さん」


 眼鏡の奥から、ヴァイスがノエルとカッツェを流し目で睨んできた。


「あっ……バレてた」

「エルフの聴力を見くびらないでください」

「なんだ~、二人はカノアのためにおまじないを掛けてただけだったんだ」

「つまらん。勘が外れたな」


 街でカノアに似合いそうな装飾品アクセサリを見つけたレイアは、ただプレゼントするだけでなく、守護の力を備えた世界で唯一つの贈り物にしたかったようだ。


「ニャッ! レイア、ありがとニャ。大事にするニャ♪」


 怒られているノエルとカッツェの隣で、カノアは嬉しそうにレイアのプレゼントを受け取っていた。


 ニコニコと笑うカノアの笑顔を見て、レイアもほっと笑顔を見せる。


 夜空に静かにきらめく月がレイアだとしたら。それを照らすカノアは、まるで太陽のようだと、二人を見ながらノエルは思うのだった。



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◆登場人物コンビ紹介: ヴァイスとカノア…医療コンビ

 白魔導師のヴァイスと薬師見習いのカノア。「第36話 死神に抱かれた村」「第37話 踊る妖精 」などで活躍した医療コンビである。

 魔導術による治療をヴァイスが、薬による治療をカノアが行い、チームの医療体制は万全である。


 ……なぜこのタイミングでこのコンビ紹介なのかというと、作者が本編中で紹介するのを忘れていたからである。(これで全部の組み合わせ紹介が終わりました!by作者)



◆作者コメント:

 続編である「魔王の手紙」を公開しています! よろしければそちらも読んでみてください!

  ↓ ↓ ↓

■とある少年魔導師の 異世界冒険譚 ~魔王の手紙~

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883374391

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はじまりの詩(うた)/とある少年魔導師の異世界冒険譚Ⅰ 邑弥 澪 @purelucifer2016

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