Epilogue

 「弥絵ちゃんは?」

 「診療所の留守番」

 「ごはん食べるよね?」

 「うん。卵持ってきた」

 「あ、ちょうど切らしてたんだ。ありがとう」



 「車ね、赤いのにした。あの中古車……覚えてる?」

 「うん。判る。ずーっと眺めてたやつだろ」

 「そう。それにしても、長かったなぁ……やっと自分の車が持てるんだね」

 「実技下手で落ちまくってたもんな」

 「……一志くんだって筆記試験に落ちたじゃないの」

 「まあ同時に取れたんだから実力の差はない。多分」

 「……ま、あの教習所にもう行かなくて済むのかと思うと、気が楽になったけどね」

 「遠かったよなー。俺も車で行けないのには参った」

 「ふふ」

 「これなに?」

 「え? ああ、はやとうり」

 「はやとうり?」

 「ぬか漬けにしたんだけど、美味しくない?」

 「いや、すげえ旨いんだけど」

 「なんだ。よかった」

 「なに、はやとうりって」

 「なにって言われても……野菜だよ、野菜。瓜の一種でしょ?」

 「旨いなあ」

 「慌てて食べなくていいよ……いっぱいあるから、持って帰る?」

 「ん……うん」

 「ええ……メインは蓮根コロッケなのに……里芋も入ってるのに……。お漬け物のほうが美味しいの?」

 「いや、コロッケもすげえ旨いけど」

 「……ほんと?」

 「はやとうりに感激した」

 「…………そ」



 「あれから電話あった?」

 「ううん。番号変えてからは、大丈夫。新しい番号は、昔の知り合いには一切伝えてないから、間違っても知られることはないと……思いたいな……」

 「殺すって脅しておいたんだろ」

 「えへへ……」

 「ドスの効いた声で」

 「ドスって……普通にだよ、普通に……」

 「普通に殺すって言ったのか。そうか。まあ、あいつ犯罪者だからな。しつこかったら本気で警察突き出そうぜ」

 「……殺さないの?」

 「どっちでもいいよ」

 「村のみんなにも言ってあるし……もう入ってこられないよね?」

 「たぶんな」

 「……」

 「心配いらない」

 「……信じるよ?」

 「いいよ」



 「また、来てね」

 「うん。ごちそうさま。土産ありがと」

 「はやとうり、炒めても美味しいらしいよ。こんどつくってみるね」

 「おう」

 「じゃあね」

 「またな」

 「……じゃあね」

 「うん」

 「……またね」




              Goodbye.

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Goodbye Cruel World 姫野なりた @himeno_narita

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