第10話 お母さんの待つ森へ

ムーンライトの森の入口に、だれかが立っています。

それはロッティーの帰りが遅いので心配して、

森の入口で、待っていたお母さんの姿でした。

遠くから、その姿が見えたので

大声で呼びながら、ロッティーがかけ寄っていきます。


「お母さーん」

「ロッティー」

お母さんもロッティーの姿を見て、大きく手を振っています。


「ただいま」

「おかえり」

元気よく笑顔でロッティーが挨拶しました。

お母さんは、出かける前よりもロッティーが

少し頼もしくなって、帰ってきたように見えたのです。


ロッティーの後ろから、見知らぬ、くまの男の子が、

ぴょこんと顔をのぞかせています。


「あ、紹介するわ。『知らない森』からきた。チャムよ」

「俺、チャム。よろしく」

「おや! 友だちも連れてきたのかい?」

「チャムは大事な友だちなのよ!」

「ようこそ、チャム。ムーンライトの森の仲間たちと仲よくしてね」

「はい!」

お母さんに笑顔で歓迎されて、チャムもうれしいそうです。


「ロッティー旅はどうだった?」

「うん、いろいろあったけど楽しかったよ」

それからロッティーは『知らない森』であったことを、

お母さんに次々と話しました。

にんじん畑のことやカラスのおばさんにもらった色ガラスなど、

辛い目にもあったけど、チャムと友だちになれて良かったことも。


「ねぇ、お母さん『心の目』ってどうしたら見られるの?」

「心の目?」

「うん、荒れ地で会ったブタのしじんさんが教えてくれたの、

大事なことは『心の目』で見なさいと……」

「そうかい。それはたぶん……こういうことだと思う」

お母さんは少し考えてから、ゆっくりと答えました。

「見た目にごまかされないで、心の中でよく考えて決めなさいってことよ」

「心の中でよく考えることが『心の目』だったのね!」

やっと、ロッティーにもブタしじんの言っていた意味が、

少し分かりました。


「ホォーホォーホォー」

森のミミズクのおじいさんがムーンライトの森中に、

ロッティーが旅から帰ったことを知らせています。


森の仲間たちが集まってきて、ロッティーの無事を喜びました。

一緒にムーンウインドの森からきたチャムのことも、

みんなで大歓迎してくれました。


ムーンライトの森、ここなら仲間がいるので、

チャムは寂しくなんかありません。

もうウソなんかつかなくてもいいんです。


――チャムは、やっと自分の居場所を見つけました。


ムーンウインドの森からもってきた。

月風草をロッティーとチャムは丘の上に植えました。

大事に、大事に……ふたりはその苗を育てたので、

月風草はムーンライトの森に根付いて、

たくさんの花が咲くようになったのです。


やがて丘の上は月風草の咲く、黄色い花畑に――。


まんまる満月の夜。

ムーンライトの丘の上、月の光が照らしだせば、

さやさやと月風も吹いて、花びらを揺らして、

黄色い花たちが放つ、甘く優しい香りに、

ムーンライトの森が包まれてゆきます。


いつしか、ムーンライトの森では、

黄色い花のことを

月光草(げっこうそう)と呼ぶようになりました。


ムーンライトの森とムーンウインドの森、

ふたつの森はひとつの苗でつながったのです。

そのかけ橋になったのは、ロッティーの冒険でした。


ウソつきじゃなくなったチャムはロッティーと、

ずっと、ずーっと仲よくムーンライトの森で暮らしました。



                    ☆.。.:*・゚ おしまい ☆.。.:*・゚

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

くまの子ロッティー 泡沫恋歌 @utakatarennka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ