第9話 荒れ地を越えて

「おーい! ロッティー」


荒れ地を歩いていると、誰かの呼び声が聴こえてきました。

ふり向くとチャムが息を切らせながら追いかけてきます。

腹が立っていたので、わざと気がつかないふりで、

どんどん早足でロッティーは歩いていきます。


「ま、待ってくれよぉー」

泣きそうな声で、チャムが呼びかけてきますが……。

「なぁに?」

おもいっきり、ふくれっ面でふり向きました。

「お願いだから……待ってくれ」

「しらない!」

「ロッティーに、渡したい物があるんだ」


「これを……」

そう言うと、チャムは手に持った物を見せました。

それは小さな花の苗でした。

かれんな、パンジーみたいな黄色いお花が咲いています。


「これは?」

「月風草(つきかぜそう)って言って、俺の森にしか咲いてないんだ」

「とっても可愛いお花ね」

「うん、香りもいいんだ」

「これをわたしに……」

「ムーンライトの森に持って帰って植えてくれよ」

「ありがと……でも……」

ロッティーは少し考えました。

またチャムにだまされるんじゃないかと……。


「まさか、盗んできたんじゃないでしょうね?」

「ちがうよ! 崖をよじ登って俺が摘んできたんだ」

そういえば、チャムの体には土と草がついています。

よく見れば、手にすり傷もありました。

たぶん、崖をよじ登るときについたのでしょう。


ウソつきだと思って、チャムをうたがって悪かったと思いました。


「俺のために一番大事な物を差し出してくれて、ありがとう」

「さっきのことね」

「すごく、うれしかった!」

「そう」

「俺のためにそこまでやってくれたのは、ロッティーが初めて……」

「だって放って置けなかったもの」

「――友だち。ロッティーは俺の友だち!」

そう叫んで、手をにぎったら、おもわずロッティーも。

「うん、チャムは友だち!」

二匹は手を取り合って、「わははっ」と大声で笑った。


「ロッティー、君のことは忘れない」

チャムは手をふって、ムーンウインドの森へ帰ろうとしました。

「チャム待って! ムーンウインドの森に友だちはいるの?」

その質問に地面を見つめて、チャムは首を横に振った。

きっと友だちのいないチャムは寂しくて……。

ウソつきに戻ってしまいそうで、ロッティーは心配です。


「ねぇ、わたしと一緒にムーンライトの森へくる?」

その言葉にパッとチャムの顔が明るくなった。

「お、俺がいってもいいのか?」

「ええ、だけど約束してほしいことがあるの」


チャムは、三つの約束をさせられました。


   ひとつ、ウソをつかない。

   ふたつ、人の物を盗まない。

   みっつ、みんなと仲よくする。


「分かった! 約束するよ」

「ホント?」

「うん。ウソつかない、盗まない、みんなと仲よくする」

「ちゃんと守れる?」

「絶対に守る!」

「じゃあ、ずっと友だちだよ」

「友だちだぁー!」

二匹は手をつないで、荒れ地を歩いていきました。


荒れ地の黒い岩の上に、だれかが座っています。

それは一匹の大きなブタですが……。


「こんにちは。しじんさん」

「やあ! 仲間がふえたね」

「俺、チャム」

「大事な友だちです」

「ほほぉー『友だち』は、しじんの好きな言葉だ!」

いきなり、しじんはマンドリンをかき鳴らして、うたいだしました。


   友だちって なぁに~♪ 友だちって なぁに~♪

 

   君が悲しくて 泣いていると

   どうしたの? 声をかける

   何も言わずに 泣いていたら

   ポケットから ハンカチを差し出して

   ふたりで一緒に 涙を拭くんだぁ~♪


   それが 友だち~♪ それが 友だち~♪


   君がうれしくて 笑っていたら

   いつの間にか そばにいる奴

   背中をバシッと叩いて この野郎!

   はしゃいで ふざけて 大笑い

   ふたり一緒なら 喜びも二倍さぁ~♪


   友だちって いいなぁ~♪ 友だちって いいなぁ~♪


ブタしじんは気持ち良さそうに、ヘンテコリンな歌を

うたっています。


その歌声に見送られるように、ロッティーとチャムは、

ムーンライトの森へ帰っていきました。

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