第15話 村の番兵
目的の場所は、想像していたものと少し違っていた。
聞かされていた村の規模ではあるのだが・・・
砦といった方がいいのだろうか?
村にしては厳重な守りを敷いた場所であり、
要塞というにはまだ守りの薄い、そんな場所だった。
木々を利用した無数の柵が、来るものを阻んでおり、
見張り台が設置っされた大木で、やる造達一行を発見した番兵が、警鐘を鳴らしていた。
それに気付いた者が駆けつけ、弓による牽制を始める。
「貴様らーーー! ここで何をしている!」
一人進み出た男が、高圧的な声で確認を取る。
無駄に顔の整った男であった。
状況が呑み込めず、あたふたとするやる造。
それが番兵達の警戒心を煽る形となっていた。
「用がないなら、すぐに引き返せ! そこの穢れを連れてな!!」
番兵の目がやる造を離れ、行動を共にする少女に向けられる。
どうやら警戒しているのは、やる造だけではない様だ。
それに、文言が気になるところではあった。
少女は足を震わせ、やる造のマントを強く掴んでいる。
黙り込み、表情は冴えない。
今思えば、
村に近づくにつれて、彼女は顔を青くしていた。
「どうした?」と確認をしたのだが、口を開かなかった。
彼女なりに気を使っていたのかもしれない。
弓を引き絞る音が響く。
時の経過が、緊張を高めていた。
「今すぐ消えねば、、 矢を放つ!」番兵の声にも圧が増す。
場の空気を察し、落ち着きを取り戻したやる造。
冷静になって考えれば、何の事はない。
用が有って来たのだ。
その為に、ここまで来た訳で・・・
周りを確認すると、少女以外は落ち着いたものである。
やる造は少し恥ずかしい気持ちになった。
「仕事。 悪いけど、仕事で来た」
あくまで冷静であったかの様に装い、要件を伝える。
手には紹介状。
仕事を請け負った際に渡された紙を広げて見せ付けた。
番兵は疑いの目を向けながらも、それを一瞥。
確認を終えると弓を構える者達に合図を送り、下がらせた。
「すまない、
今は緊急事態でな・・・ 無作法を許してほしい」
頭を深々と下げ、謝罪の言葉を述べた。
態度が一変し、可愛いものである。
悪い奴ではないのかもしれない。
手に持つ紙切れの威力に、やる造はホッと息を漏らした。
「話は長とつけてくれ。 私の出る幕ではないからな」
促す様に砦の奥を指し、誘導を行う番兵。
物腰は柔らかく、客人を意識したそれだった。
一部を除いて。
「ただ、そこの穢れは通さん!」
「ヒィ!」
やる造にピッタリと張り付いていた少女が、番兵の圧に屈する。
手がマントから離れ、
尻もちをつき、涙目で後ずさった。
「ちょっと!」ルシフが慌てて少女を抱き寄せると、番兵を睨む。
「小さな子に、何て事するの!」当然の苦情に、番兵は引かない。
「それは子供ではない! ただの穢れだ!!」明確な怒りを少女に向ける。
「な!」
あまりの言い草に、キレそうになるルシフ。
しかし、番兵の瞳がそれを許さない。
歪んでいたのだ。
あまりの憎悪に番兵の顔が歪んでいた。
ルシフは言い返せず、黙り込むしかなかった。
「・・・ごめんなさい、 帰ります」
幼い声が後ろ手に響く。
消え入りそうで、どこか諦めを含んだ声。
こうなる事が分かっていたと表情に浮かべ、納得している。
「ごめんなさい」 そう言うと少女は森に駆け出した。
「あ、あの、、 やるくん、 えっと、、、」
後を追わないやる造を、ルシフがソワソワと確認していた。
しかし、やる造は動かない。
期待を含み待つルシフの視線が、次第に色あせていく。
微動だにしないやる造に、ルシフはしびれを切らした。
「やるくんの馬鹿!」
最後には目に涙を溜め、少女を追いかけたのである。
やる造はそれでも動かなかった。
一つ気になる事があったのだ。
「こえーな。 その顔、ガキに向けるものじゃねーぞ!」
番兵を観る。
やる造は感じ取っていた。
彼の顔から、表情から、目から、
それは、やる造を地獄に突き落とした連中と同じ憎悪・・・ とは違う何かな気がして、動いたのだ。
「・・・お客さん、
深入りはおやめください。
それに、 追いかけなくても良いのですか?
アレと一緒に少女が一人、森へと入っていきましたが?
大丈夫ですか?」
排他的な空気を匂わせながらも、理由を付けて話を流す。
やる造が黙ったのを見ると、確りと蓋を閉じに動いた。
「大丈夫のようですし、 さあ、長と仕事の話を」
営業スマイルを浮かべ、話を区切る。
無駄に整った顔の笑みが、そのまま嫌みの様に思えた。
「穢れってなに?」
出来る限りガキっぽい言葉使いで、質問をぶつける。
どうせ流されると思ったのだが、それは意外にも番兵に効いてしまった。
笑顔が引き攣り、「もう喋るな!」と表情から読み取れる。
「あなたが知らなくてもいい事です。
よそ者に、、 話す事などありません!」
ハッキリとした拒絶に、入る余地などない。
このままでは仕事も破談に終わるかも知れない。
何とかしなくてはいけなかった。
(しかし、よそ者・・・ か。
そう言えば、お墨付きは出てる事だし・・・ 言わせて頂きますか)
「そうかな、
俺はアレと親友だっていう、おっかねえ奴の事を知ってんだけど・・・
紹介しようか?」
今度は冷静な口調で、出来る限り淡々と述べてやる。
やる造は嘘は言っていない。
神が親友だと言ったのだ。
親友なら、プライベートにも多少踏み入る事が許される。
そう考えたのだが、、、
「し、親友!?」番兵の顔に動揺が見られた。
頬に汗が伝い、驚愕の色を濃くしている。
鼻息が荒く、興奮している様にも思える。
え? なに?
これまでとは明らかに違う反応に、やる造は困惑する。
ただ、悪い反応ではない。
「ふ、、 ふはははははははは。
アレが、、 親友? フッ、ハハハハハ、 親友か・・・」
『親友』という言葉を噛みしめる様に呟くと、番兵は手を高く掲げた。
すると、茂みに伏せていた兵が姿を現し、消えていく。
今度こそ全ての兵を引かせたのだった。
兵が引くのを見届けると、番兵はその場で崩れ落ちた。
目からは大粒の涙。
鼻からは大量の鼻水を垂らし綺麗な顔が台無しである。
「びでいぼばびびょう! ばばじは・・」
「いや、、 泣き止んでから話そう」
やる造の静かな提案に、番兵は目を輝かせる。
感情が高ぶったのか、抱き付いてきた。
服が・・・ 鼻水と涙で滅茶苦茶である。
◇
「数々の非礼を詫びします。
私はサリオン。この村で長をしています」
申し訳なさそうに告げて来るサリオン。
「え? 村長?」
「はい、、」
照れくさそうな感じが、気持ち悪い。
見た目年齢は・・・ やる造より若い様に思える。
それが長である。。。
年下の立場に、やる造はコンプレックスを感じずにはいられなかった。
「仕事の話をしましょう!」サリオンが上機嫌で話しかけてくる。
「それに、 あまり、、 大きな声では言えませんが・・・ 妹の話がしたい」
優しい声音に整った顔。
イケメンがモジモジとする姿は、やる造をげんなりさせるのに十分な破壊力を持っていた。
「ん? 今なんて」引っ掛かりを感じ確認する。
キョトンとした表情を浮かべていたサリオンだったが、
気付いたように口を開く。
「はい、妹の話がしたい。 妹の・・・ メルの話が!」
ニッコリとイケメンスマイルが向けられる。
妹? メル? ガキの事だよな?
てか、穢れってのはどうなったの???
穢れがガキで、ガキが妹で、妹がメルって事だよね・・・
穢れの話はどこ行った???
「ああ、親友さんの話も聞かせて下さい!
紹介してくれるんですよね♡」
一人ウキウキなサリオンに、やる造は流される事しかできなかった。
今日も天魔は地獄で笑う ジロジロ @Ziron
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。今日も天魔は地獄で笑うの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます