アジサイとひと時。
山の中腹に咲いている一本桜。その根元が僕のお気に入りの場所。
学校の帰り道。少しそれた細道の先、獣道を上がっていくと少し開けたそこにたどり着く。
春は過ぎ、桜は散り、今は雨が僕の世界を支配している。梅雨だ。
湿気でじめじめとした毎日に嫌気がさしつつも、暑いよりはましだと自分に言い聞かせる。雨は降っているが、今日も僕は桜の元に足を運んだ。
「こんにちは」
そこには誰もいない。いるのは桜だけだ。でも、僕は桜に挨拶をするのだ。それが、少し前から習慣になっている。
「今日も、学校はだるかったよ。でも、最近沙織とよく話すんだ。他愛もないことばかりだけど、こういうのもいいなって思うよ」
言葉は帰ってこない。でも、僕の言葉が桜に伝わってくれればそれだけで良かった。
桜の木に手を当てて目を閉じる。何かが伝わってくるようなそんな気分だった。
毎日の様にこうしている。いつも通りの光景だった。
不意に静まり返る山の中で背後から草をかき分けるような音が聞こえて来る。
「⁉」
反射的にふりかえると、そこには少女が倒れていた。
身長は150程度といったところだろうか。未発達の身体を純白のワンピースが包んでいる。腰まで髪を伸ばした少女。
「そんな……」
その少女には見覚えがあった。
「大丈夫⁉ ねぇ!」
でも、そんなわけはない。
「おきてって!」
彼女はもう、いないのだから。
セカイにきせつを咲かせよう。 𠮷田 樹 @fateibuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます