第6話 久しぶりののんびりしたお話

 あの戦いから一夜が明けた。


 未だに牡丹の心の傷は癒えていないが、どうやら昨晩よりはまだマシになったようだ。


「おはようございます」


 俺が村長の家に入ると中にいたエルフ達が一斉にお辞儀をして挨拶をしてくれた。


「そ、そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ」


 俺がそう伝えると無駄に肩に力が入っていたエルフ達は少しリラックスした。


「とりあえず俺達はここに残っていいのか?」


「はい、というか、この村を守って欲しいのです」


「だったら条件があーる」


 牡丹が偉そうに腕を組んでエルフ達の視線を一身に受ける。


「条件、とは?」


「フード付きマント少女の胸を揉ませろおおお!」


「いやだよ!!」


 獣のように少女に襲いかかる牡丹を俺が羽交い締めにして、なんとか牡丹の暴走は治まった。


「……もしくは……」


「もしくは?」


「私をこの村の村長にしろおおお!」


 牡丹の無茶振りを真面目に考えるエルフの村長を俺は尊敬する。


「よし、今から牡丹殿をこの村の村長に任命する!」


「「「え?」」」


「なに?その不満げな表情は!?」


「え?普通はお兄さんの方が村長になるんじゃないの?」


「は?私の方が兄さんよりも頭はいいし!それにフード付きマント肉泥棒少女よ、それ以上ゴチャゴチャ言うと胸を揉みしだくぞ!」


「私の呼び方が酷くなってきてるんですけど!?」


「じゃあ名前を教えてよー、むふむふ、えへへへ」


 おじさん化した牡丹がよだれを垂らしながら、不審者発言をした。


「えっと、私の名前は……」


「は、や、く!」


「……シャナ……」


 シャナは顔を真っ赤に染めて照れながら自分の名前を言った。


「シャナか、シャナたんって呼んでいいよね?むふふ、ぐふふふ」


 完全に不審者な牡丹が怪しげな笑みを浮かべてひっそりと喜んでいる。


「そういえば俺達、まだ自己紹介してなかったな。俺はヤナギニシキ、それでこっちでシャナを見てよだれ垂らしてる変態が妹のヤナギボタンだ」


「これから妹が暴走しないように頑張るからこれからよろしくな」


 こうして、牡丹はエルフの村の村長に、そして俺はただの居候となった。


 ◇◇◇


 妹が村長になってから一週間ほど経った。


 血まみれになって、所々が破壊されていた村はなんとか復興の道筋を順調に進んでいる。


 そんなある日……


「ニシキさん、村長が呼んでるよ」


 森の木を切っていた錦に、近くにいたエルフの男がそう言った。


「伝えてくれてありがとう」


 そう言い残して、牡丹が作らせたツリーハウスに向かった。


「遅いよ兄さん!」


「ごめん、今作業していたから少し時間がかかった」


「だったら許してあげる」


「そういえば兄さん、今日はかなり大事な用で呼び出したの」


「おう、どうしたんだ?」


「あのさ、私ってゲームでしか村作りしたことないんだ」


「それが何か問題なのか?」


「問題ありありなの!村作りってまず何からすれば良いのか全然わかんないし、しかもシャナは私が近づこうとしても必ず五メートルは距離をとるし、更に言うとみんな私を変態扱いして目も合わせてくれないの!」


 牡丹が早口で溜め込んでいたストレスを俺にぶつけてきた。


「まあ落ち着け牡丹。それで俺に何をさせるつもりだ?」


「兄さんには村作り全般をやっていただきます」


「お前、仕事を全て俺に押し付けるつもりなのか?」


「その通りだ、我が有能な兄よ」


「だったらこの村を俺好みにして良いんだな?」


「勿論だとも、兄よ……え?今なんて……」


 もう遠くまで歩いて行ってしまった俺にその疑問を含んだ声は届かない。


 俺は仕事場に戻る道中に、何を作るかなどの具体的なリフォーム内容を頭の中で練っていた。


 そして、考え込みすぎて何度か木にぶつかったりもしながら仕事場に戻って来れた。


「おーい、みんな聞いてくれ。村長に俺は村の復興を任された。今日から俺の指示に従ってくれ、頼むぞ」


「やったぜ!これであの変人村長の銅像とかを作らずに済むぜ」


「よっし、俺はやっと家を作らせて貰えるぜ!」


 そんな喜びの声が村の中で響き渡っていた。


 ◇◇◇


 兄に村作り全般を任せてから一日が経った。


 意識が覚醒し、未だに二度寝したい衝動が芽生えるが大きく伸びをして眠気を吹き飛ばす。


 カーテンを勢いよく開けて森の綺麗な空気を吸おうとしたその時、違和感を覚えて外の景色を凝視する。


「は?何が起こったの?」


 窓の外には、コンクリートで舗装された綺麗な道とチラホラと見える建設中の一般住宅が建ち並んでいた。


 この世界ではあり得ない非現実的な風景を見て、顎が外れかかるほど大きく開いた。


「え?何がエルフの村よ……こんなのもう異世界じゃないよ」


 異世界の消失に牡丹の心はズタズタになってしまった。


 恐らくというか、確実に兄が絶対やらかしたに決まっている。


 牡丹はツリーハウスのドアを開け、梯子で木から地面に降り立つ。


 そして、世界観の破壊者である兄とその周りに群がっているエルフの男達のいるところまでズカズカと歩いて行った。


「お?村長じゃねーか。どうだ?すげーだろ」


 エルフの一人がにんまりしながらそんなことを言ってきた。


「な、に、が、復興よー!こんなの世界観破壊行為、即ち世界遺産の消失よ!」


 そこに、全ての元凶である我が兄が少し困った顔でこちらにやって来た。


「おいおい、こっちの方が暮らしやすいだろ。それにまだツリーハウスから半径一キロメートルもコンクリートで舗装していないぞ」


「それでもダメ!とにかく何があったか説明しなさい」


 牡丹は鬼の形相で作業に携わった男達を震撼させた。

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俺と妹で血色に染まった異世界を救いたいと思います 黒い犬 @961961

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