奴隷、というなかなかに扱いにくい題材に真っ正面から取り組んだ歴史ものの意欲作にして力作。
それも、「アルスラーン王は奴隷解放してエライ!」というタイプではなく、奴隷視点で奴隷の実態を生々しく描いています。
それでいて、生々しすぎて読者が不快を覚えるようなこともなく、ちゃんとバランスを保っているのも上手い。
そして驚くべきは読みやすさ。
本作品のように描写に厚みのある作品というのは、えてして読みやすさとトレードオフになってしまうケースも多いのですが、本作品は実際に読んでみれば分かる通り、さくさくページを進めることができます。
話数は多い。でもそれは、うわーなげー、とうんざりする要素ではなく、それだけたくさんこの物語を楽しめる数だということです。
Web小説に情景描写はいらないーー
作者さんもあとがきでそんなことを言っているように、とかくWeb小説では情景描写は読み飛ばされることが多く、力を入れるべきところではないのかもしれない。
だけど今作ぐらいしっかりと情景描写が描かれていると、話は違ってくると思い知らされた。
とにかく頭の中に思い描く小説世界の密度が全然違うのだ。
文字を目で追いながら心はその世界に引き込まれ、匂いや街の喧騒、海からの潮風すらも感じるほどの錯覚を覚える。
圧倒的な情景描写が生み出すリアル感ーーWeb小説を楽しむようになって長らく忘れていた読書の醍醐味のひとつを思い出したような気がした。
続編は必ず読む。この読書体験をまた味わいたいから。