半世紀近く前の海外ドラマなら「ルーツ」。海外小説なら「大統領の娘」。相対的に最近の映画なら「アミスタッド」辺りか? アミスタッドは微妙に雰囲気が違うが…。
テーマは奴隷。でも、単なる虐待物ではない。下層階級から這い上がろうとする主人公達の物語。
こう書くと陳腐な立身出世物の雰囲気が漂うが、そうではない。地に足の付いた、「さもありなん」と感じる展開をしていく。
そして、主人公が奴隷擬きの奉公人の立場ながら、誠実さと向上心、矜持を失っていないので、読んでいて疲れない。
また、筆者が場面、場面を丁寧に描写しているので、社会背景や人間の傲慢さがストンと腑に落ちる。寧ろ、そちらの方に読み応えを感じるのではなかろうか。
主人公の出身地であるワクワクは架空の地であるが、物語のメイン舞台は中世の地中海世界(not北アフリカ)、欧州人がインド洋を目指して勢力拡大を図った大航海時代をモデルとしており、読者がイメージアップし易い舞台設定となっている。
この奥行の深い世界観を、あなたも楽しんでみては? 高い確率で後悔しない、と思う。
この作品は「奴隷の実態」や「差別」を題材にした作品だよー。奴隷という非常に扱いにくい題材を上手く描いている。情景描写がしっかりしているけれど読みにくさはあまり感じない。話数の多さに一瞬、目次を見て圧倒されると思う。けれどいざ読み始めるとページを進める手が止まらない。
一話の文字数が少なめで、でもだからと言って描写に手を抜くことはせず。キャッチコピーにあるようにこの本は「本格派」。でも、本格派小説をとしての文章力を維持しつつ、読みやすさにも気を配った作品でもあるの。
何より私は声を大にしていいたい。よく奴隷の実態をここで書いてくれた、と。今、世界は差別に対して良くない流れにある。そんな今だからこそ、このような本格派の、奴隷を題材にした小説を読んでほしい。そう思わずにはいられない
奴隷、というなかなかに扱いにくい題材に真っ正面から取り組んだ歴史ものの意欲作にして力作。
それも、「アルスラーン王は奴隷解放してエライ!」というタイプではなく、奴隷視点で奴隷の実態を生々しく描いています。
それでいて、生々しすぎて読者が不快を覚えるようなこともなく、ちゃんとバランスを保っているのも上手い。
そして驚くべきは読みやすさ。
本作品のように描写に厚みのある作品というのは、えてして読みやすさとトレードオフになってしまうケースも多いのですが、本作品は実際に読んでみれば分かる通り、さくさくページを進めることができます。
話数は多い。でもそれは、うわーなげー、とうんざりする要素ではなく、それだけたくさんこの物語を楽しめる数だということです。
Web小説に情景描写はいらないーー
作者さんもあとがきでそんなことを言っているように、とかくWeb小説では情景描写は読み飛ばされることが多く、力を入れるべきところではないのかもしれない。
だけど今作ぐらいしっかりと情景描写が描かれていると、話は違ってくると思い知らされた。
とにかく頭の中に思い描く小説世界の密度が全然違うのだ。
文字を目で追いながら心はその世界に引き込まれ、匂いや街の喧騒、海からの潮風すらも感じるほどの錯覚を覚える。
圧倒的な情景描写が生み出すリアル感ーーWeb小説を楽しむようになって長らく忘れていた読書の醍醐味のひとつを思い出したような気がした。
続編は必ず読む。この読書体験をまた味わいたいから。