第5話
俺にとってはそれは、小さな鳥かごの中にいるような感覚だった…。
知らない他人に見下された...
知らない他人に同情された...
知らない他人に評価された...
最後にはそんな他人に殺された...
あぁ...ここはなんて地獄なんだろう...
◆
「はぁ...はぁ...はぁ...チッ!!」
俺は、嫌なものを思い出して目を覚ます。
今、俺はエルフの国スプリーにあるボロ宿のボロボロのベットに寝転がっている。枕は、寝汗でびっしょりと濡れており、喉はカラカラだ。
レオキメラという獣を倒してから、一カ月程度が立っていた。その間俺は、獣を倒した報酬で宿を取り、生活魔法の取得と情報収集を行っていた。
生活魔法は一通りマスターしたが、どうやら簡単な魔法ほど詠唱が短いらしく、単語程度で生活魔法は使用できるので案外楽に覚えることが出来た。
だが、魔王についてはあまり詳しいことが分かっておらず、魔族領の奥にいるということ以外、ほとんどが謎の存在だ。
「はぁ...」
大きくため息をつくと扉がノックされる音が聞こえた。
「どうぞ...」
適当に返事した後、簡素な木の扉は勢いよく開かれる。
「立さん!!元気ですか!!朝ですよ!!起きる時間ですよ!!」
今日も喧しいエルフの国のお姫様が、わざわざ俺を訪ねてきたらしい。実にうっとうしい。
「俺は、朝は低血圧なんだ...静かにしてくれないか?」
「ていけつあつ?なんですかそれ?それより立さん聞いてください!!」
俺が、返答もしないままエルフのお姫様ファリャ・ナチュレ―がペラペラと勝手に話始める。
このお姫様、ファリャ・ナチュレ―はあの獣を倒したあと、頻繁に俺のところに顔を出すようになったのだ。
「で?話は終わったか?終わったなら、俺は朝のトレーニングがあるから、邪魔しないでくれ...」
「待ってください!ついてきますから!!」
俺は、無視して部屋着から、黒いボロ布の服に着替えて部屋を後にする。
◆
日課の基礎トレーニングと、剣の素振りと柔軟を終えた俺は、宿の食堂で朝食を食べていた。
食堂は、木の丸テーブルが何個か並べられ、その隣に椅子が置いてあるだけの簡素な場所だ。食堂には、あまり裕福ではなさそうなエルフの人々が食事をしている。
俺は、謎の卵焼きと、キャベツの様な謎の野菜を頬張っていた。食事は体を作る大事なものだ。できるだけ多く食べるように心がけている。
「立さん、そんなに食べて大丈夫ですか?」
詰みあがっていく皿を見てファリャ・ナチュレ―は、キャベツの様な野菜をホークで上手に食べながら心配そうに言ってくるが、当然無視して食べ続ける。
「あの?人の話聞いてます?そんなに食べるのが好きなら、今度もっとおいしい物ご馳走しますけど?」
ファリャ・ナチュレ―が何か勘違いしているようだ。
「俺は味覚を感じない。これはただの栄養摂取に過ぎない」
「え!?ごめんなさい、そうとは知らずに...」
ファリャ・ナチュレ―が頭を縦にぶんぶんさせて、謝ってくるが無視。
「立さんの過去にどんな過去があったのかとっても気になるんですが...」
「なんでお前なんかに話さなきゃならん?」
「ご、ごめんなさい…」
先ほどから謝ってばかりのファリャ・ナチュレ―だが、こいつに対して特に罪悪感は湧いてこない。
俺は他人を信用しない。信用するのは利害関係が一致したときだけだ。
なのでどれだけ俺に好意的な奴で最近ストーカーの様に俺についてくるこいつにも、湧いてくる感情は怒りのみ。
俺は、他人と行動するより一人で行動した方がよっぽど好きなのだ。
数字に表すと、他人と行動するとマイナス100の行動力が失われた状態で行動することになる。一人で行動すると、行動力を0からスタートできる。
故に、俺にとっての他人とは邪魔でこそあれど、助けには決してならない。
ホント他人とか邪魔だわ…俺以外の人間全員死なないかな…。
「立さん…私に心まったく開いてくれませんね...。そりゃあ、私はエルフで立さんと種族は違いますけど…。私は立さん自身と仲良くしたいと思っているだけで…」
「で?そのことが、お前にとって何のメリットがある?」
俺は、布で口を拭いながらファリャ・ナチュレ―に告げる。
「もっ、もういいです!!」
と、フャリャ・ナチュレ―は、勢い良く立ち上がり椅子を倒して、宿の入口へと走っていた。当然俺は、無視してお会計を済ませようとしたんだけど…。
「あいつ...自分の分の食事代、払わずにいきやがった...」
宿の強面店員に、この金どうするの?的な視線を向けられた俺は、渋々金を払うのであった...。
◆
朝食を終えた俺は、エルフの王タオスに謁見するため国の中心にある大木の前まで訪れていた。
相変わらず、大木はその存在感を主張していて近くで見ると圧倒されるものがある。俺は、大木に付いている扉に手を添えて中へと入ることにした。
王の間。レッドカーペットと王の豪ジャスな椅子が奥に備え付けられている広間にたどり着くと、銀の甲冑をきたエルフの戦士たちが、こちらを睨むように見てくる。それもそのはず、エルフはどうやら人間が嫌いらしい。人間は、魔王が出現する前はエルフなどの他種族を奴隷にして召使、性奴隷、どうでもいいところにまで奴隷を使っていたそうだ。
そんなやり放題だった人間をエルフは嫌っておりこの国にいる間は、視線がとてもとても痛かったが、俺にとってそんなことは今に始まったことじゃなかったので心底どうでもよかった。
俺は、金の装飾がされている豪ジャスな椅子に座るタオスの前に立つ。
「中野立か...何の用だ?」
タオスが俺の目を真っすぐ見て質問してくる。
「あぁ、もうそろそろこの国を出ていこうと思ってな」
「そうか、居心地が悪かったか?」
「いや、そんなことはない。ただ、必要な情報は得たのでそろそろ魔族領を攻略しているというアカスに向かおうと思ってな...」
「そうか...なら仕方ないな、だが魔族領攻略は決して一人ではできんぞ?それにアカスまでどうやって行くつもりだ?」
「はぁ?何言ってんだ?一人で十分だ。アカスまでは馬に乗っていく。そのために馬に乗る練習もしていた」
俺の魔王攻略に抜かりはない。
そう思っていると、王の間の俺が入ってきた後ろの扉が開かれた。
「ちょっと待ってください!!立さん!!私を置いて行くつもりですか?」
どうやら、ファリャ・ナチュレ―が話を聞いていたようだ。実にうっとおしい限りである。
「当たり前だ。お前のような奴を連れて行ったら足手まとい以外の何物でもない」
俺は、ファリャ・ナチュレ―の目を見てしっかりと断言してやる。
「何でそんなこと決めつけるんですか!!私は、これでもエルフの中では魔法の達人と呼ばれるほど強いんですよ!!」
「魔法の達人?魔法は才能があったから使えただけのものだろ?そんなものは達人とは言わない」
「では、勝負しましょう。あなたより私が強ければ旅に同行させてください」
「はぁ?やだね。どうしてそこまで俺と一緒にいることにこだわる?」
「あなたと私はきっといいコンビになると思うのです。それに私にも魔王を倒さなければならない理由がある!!」
「へぇ~やはり俺を利用しようとしてたんだな?それならいいだろう。ちゃんとした理由があるならお前の実力だけは見てやろう」
「その上から目線をすぐに変えてあげます」
こうして俺は、ファリャ・ナチュレ―と決闘することになった。
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