第4話
タオスを追ってたどり着いた先は、青々と覆い茂った森だった。
森の木、一つ一つを見るとかなり大きいが、無作為に枝が生えてるわけではなく、人の手が入っているようだ。特徴的なのは、その木には扉がついていることで、見たところエルフは木を彫ってその中で生活しているらしい。確かに、エルフといえば森というイメージだがその斬新な光景は、少々メルヘンチックにも見える。俺は、森の奥へと進んでいったタオスの後を付いて行く。正直片手一本じゃ走りにくく、バランスが取りずらい。
森の奥に進みながら分かったが、エルフたちは森に集落を気づきながら生活しているようだ。木の家の中には、商業施設など営んでいる場所が多数あった。森の中でも人間の様に、紙幣を使い生活しているところを見ると、生活レベルは意外と高いのかもしれない。
そして、ようやくタオスが立ち止まり、森の中でひときわ大きな木の前にたどり着いた。その木は、見上げても天辺を見ることは出来ず、空へと届いているようにも見える。
タオスは、その大きな木に設置されている赤色の装飾品が入ったこれまた大きな扉をくぐり、中へと入っていた。俺もその後を追わせてもらうことにする。
大きな木の中に入ると...そこには、外壁が木とは考えられなないような白で塗りたくられた高級感あふれる大きな広間だった。
地面には、高級感漂うレットカーペットが敷いてあり、レットカーペットを追っていくと、金枠の装飾で囲った椅子が奥にポツンと置いてあった。椅子は、輝かしいシャンデリアの光によってさらに光沢を増しているように見える。
タオスは、堂々たる立ち振る舞いで金色の椅子の方へ歩いて行き、そのままその金色の椅子にドスンと座った。
「帰ったぞ?」
タオスが、椅子に座りそうつぶやくと今まで、仏像かと思うほど動かなかった部屋の隅に立っている屈強な体のエルフたちが隊列を作りながら敬礼する。どうやら、見たところタオスはお偉いさんのようだ。
「帰って早々悪いが、緊急事態だ」
タオスがそう言った途端に、場の空気が引き締まる。
「皆、落ち着いて聞いてくれ...エルフの森の中にある洞窟で、レオキメラが出現した」
タオスがそう言った途端、場がざわめきだす。ざわめきから事態が異常であることを理解する。
「タオス様!それは本当なのですか?」
「あぁ」
一人の若い男が代表して前に出て発言すると、タオスが頷く。
「では、今すぐ編成舞台を」
そういうと発言したエルフの男は、周りにいたほかのエルフを連れ、広間を出ていこうとする。
「まぁ...待て、オレン...」
オレンと呼ばれたその男は、タオスの言葉に振り向く。
「なんですか。王よ、今は一刻を争う事態です。命令があればお早めに」
「そこの、中野立という人間族も連れて行くといい」
「嫌です」
タオスの言葉を即座に否定する。オレンという緑頭のエルフ。鼻筋の通ったキリリとした顔立ちは、俺を苛立たせるのに十分な材料だ。それに即座に否定されては、この俺が明らかに見下されているようでムカつく。
「おい、緑頭!!」
「なんだね、人間族?」
「てめぇのパーティ―なんか、こっちから願い下げだ。勝手に行きやがれ!!そして死んで来い!!」
「勿論そのつもりだ。勝手にするとも。では国王様エルフ一の編成部隊を組みそのまま戦いに挑みたいと思います。そして必ず勝利をお届けいたします。」
一礼しそう言い残し、いけ好かないオレンという緑頭は、ずかずかと広間を出ていった。俺は、少しの苛立ちを覚えながらもタオスに確認する。
「お前、実は偉かったんだな...?」
「そうだ。この国、スプリーの王だ」
「そうか」
俺は、さほど驚かなかった。何故ならば、奴には、並々ならぬ気品があったからだ。
「で?中野 立、お前はどうする?魔王を倒すのであろう?レオキメラごとき倒せないようじゃ話にならんぞ?」
タオスが、俺を煽るように言ってくる。見え見えの挑発だったが、ここで引くと俺のプライドが傷付く。
「良いだろう。ただの獣一匹、仕留めて見せよう。ただし、剣を寄越せ、細長く片方に刃がついているものがいい」
「よかろう」
俺はタオスから黒いショートソードを貰い、獣の所に向かった。
◆
俺はタオスから教えてもらった通りの道順に進み、無事洞窟にたどり着いた。洞窟の手前には、赤黒い俺の血痕が残ったままだった。それを見ると無くなった左腕が疼きだす。なんか中二病ぽいけど、実際に疼くのだから仕方ない。俺は、早速洞窟の中に入ることにする。
洞窟に入って少し進むと、案外、例の獣をすぐに見つけることが出来た。獣はすでにエルフの戦士たちと戦っているようだ。だが...
「ぎゃああああああああああ!!」
エルフの戦士たちは、奮闘しているがどうやらだめらしい。見たところエルフたちは魔法が得意で、魔法を放とうと詠唱しようと試みているが、詠唱前に獣に弾き飛ばされている。この世界の魔法は、詠唱が必要なようだ。魔族領下層にいるレオキメラは、100人位の中級魔導士でやっと倒せると聞いている。たぶんだが、強い魔物と戦う時は、詠唱のための足止め役が必要なのだろう。
戦っているエルフの戦士は、10人程度だ。転がっている死体を見る限り、初めはもっといたのだろうが、どうにも人数が足りなかったらしい。残念ながらオレンという緑頭の男は、死体の中に混じっておらず、汗をダラダラと流しながら必死に魔法の詠唱をしている。
「Regardless authority Turbulent...うぎゃああああ!!」
だが、オレンの詠唱は間に合わず、情けない声を上げながら獣の腕に薙ぎ払われ地面に転がる。
「ザマァ...」
と、俺は冷静に分析した後、腰にさしてあるショートソードを引き抜く。俺は、エルフ族のために、足止め役を引き受けるつもりはない。俺一人でサクッと、獣を殺すつもりだ。
「さてと、やりますか...」
右手でショートソードの柄を握る。剣の重さは、竹刀よりも少し重い。だが、やれないことはないだろう。獣は、まだ俺に気付いていない。俺は、地面を思いっきり蹴り、走り出す...
少しずつ距離が詰まっていき、10メートル程度近づいたところで獣は、俺に気付く。獣の体が此方を向き、前足がノーアクションで俺に襲い掛かってくる。素早い速度で襲ってくるその鋭い爪を俺は...
「見えてるんだよ!!」
ギリギリのところで、その爪の方向に合わせるように回転し威力を殺しながらショートソードでいなす。
獣が自身の爪をいなされたことに驚きを隠せないようで、一瞬動きが止まる。俺はそのまま流れた獣の右腕に、体を回転した力と相手の力を利用してショートソードを叩きつけた。
「ギャアアアアア!!」
獣の右腕から鮮血が飛び散り、悲鳴を上げる。少し揺らめいた獣を見て、エルフの戦士たちは、目を見開いたままで固まっている。自分たちが手も足も出なかった獣に、一人で手傷を負わせたのだから当然である。
「続きにしようか?獣...?もう、お前の攻撃は俺には当たらない」
俺は、よろめいた獣に宣言する。そう、もう絶対にお前の攻撃は当たらない。俺は、もうお前を見下しているのだから...。
俺の能力「
「来いよ雑魚!!」
「ギャアアアアア!!」
俺の挑発が分かるのか、獣が雄たけびを上げながら俺に頭から突っ込んでくる。
「フハッ!!ハッ!!無能な獣が!!キサマにはこの左腕の借りがあるからな!!ただでは殺さんぞ!?」
俺は、獣の思考を読む。どうやら怒りで頭から突っ込んでくると見せかけて牙で俺をかみちぎる算段のようだ。獣の読み取ると、予想どおり猛スピードで突っ込んできながら、大きな口を開ける獣を最小限の横ステップで躱す。
俺は、通り過ぎていく獣の威力を利用して横なぎに剣を突き立てる。勢いよく突っ込んできた獣は、自らを傷つける形となってスライスされていき...
「ギャアアアアア!!」
悲鳴を上げながら、引きずられるように地面に転がった。
「借りは返したぞ?獣?」
獣の右腕は、獣の体から離れた場所に転がっている。四足歩行の獣にとって、前足を亡くした事は、致命傷だろう。俺は、痛みでもがき苦しむ獣に近づき...
「あばよ...」
首筋にショートソードを突き立てた。すると獣の目からは光が失われ、すぅーと消え入るように死んでく。
気持ちわるい...。俺はそう思ったがそれ以上の感想は出てこなかった...
「フッ...」
俺は、生き物を殺した恐怖を見下した笑いでごまかした...。
◆
獣を倒してちょっと疲れた俺は、しばらく洞窟の壁に体を預けていた。雑魚だったとはいえ、流石に左腕を無くしてすぐに戦うのは疲れる。
疲れを癒していると、一人の金髪女エルフが此方に駆け寄ってきた。どうやら、先ほど戦っていたエルフの戦士たちの一人だろう。
「あなた強いんですね?」
その女は、綺麗なソプラノボイスで俺に話しかけてきた。俺は、めんどくさいと思いながらもそいつに目を向けることにする。
「そうだ。俺が最強だ」
「いえ...そこまで言ってませんけど...でもあなたのおかげ死なずに済みました。あのままでは、全滅でしたので...一応お礼をと...」
「そうか…全滅してから獣を倒した方がよかったかもな?」
「なっ!?なんてひどい人!?」
そいつは、驚きながらそう言った。よく見るとそいつは、結構美人で目鼻立ちが整っておりおっとりとした顔立ちをしている。そして白いフリフリのドレスの上から鉄の鎧を着ているが、その上からでもわかるほど、スタイルもいい。まぁ、俺にとってそんなことは関係ないことなんだけど…。
「一応聞きますが、こんなところで休んでいるところを見ると、もしかして何処か怪我でもしたんですか?回復魔法ぐらいは掛けてあげてもいいですけど…」
と言って、俺の体をじろじろと見てくる金髪エルフ。正直居心地が悪い。どっか行って欲しい。
「してない。用が済んだなら、消えてくれ...」
「酷いですね!?なんで初対面でそんな言われをしなきゃならないんですか!?」
金髪エルフは、ぷんぷんといった様子で怒ってくる。
「それとも、私を知らないのですか?」
「知らん、なんせ記憶喪失だからな」
「まぁ、それは可愛そうに...では教えてあげましょう。私の名前はファリャ・ナチュレ―。エルフの国スプリーのお姫様です!」
「自分でお姫様とか言っちゃてる時点で、もうお話したくないレベル」
「なっ!?本当にお姫様なんだから仕方ないじゃないですか!?紛れもない、タオス・ナチュレ―の一人娘なんです!!」
「ふ~ん」
「なんですか!?その反応!!実に腹立たしいですね!!」
女は、捲し立てるように言ってくるが、喧しかったので半分以上聞いていなかった。
「で?女?俺にお礼を言いに来たんだろ?」
「そうです!でももう言う気失せました!!失礼します!」
そう言って女は、俺から離れていった。
「やかましい奴だ...」
俺は、そうつぶやきとりあえず街に戻る為に立ち上がった。
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