第3話
目を覚ます。目を覚ましたが意識がもうろうとする。朦朧とした意識の中、首だけを動かし辺りを見渡すと、隣に小さな焚火が見えた。
「暖かいな...」
そう呟き、痛む体を無理やりに起こして、左腕を見ると...。やはりなくなっていた。
「くっ!」
あの出来事が現実のものだったとは恐怖で体がすくみ上りそうだ。しかし、無くなった左腕の痛み感じ、自分が奇跡的に生きていることを実感する。痛みがあるうちは生きている証拠だ...。俺は、ふと焚火の向こうの平たい石に腰掛けている人物に目を向ける。そいつは、長い耳が特徴的な金髪の男だった。
「目が覚めたか?」
金髪の男は、よく通る低い声で俺に声をかけてきた。見ると美男子でかなりムカつく顔面偏差値だ。
「あぁ...まず言わせてもらおう...イケメンは死ね!!」
「いきなりひどい言いようだな...せっかく助けてやったのに...」
男は、おどけたように言う。そんな姿も様になっており、怒りが湧いてくる。どうせなら美少女に助けられたかった...。
「で?君はどうしてあんな場所に倒れていたの?」
男が落ち着いた口調で言ってくる。まぁ、助けてもらったわけだし、教えてやらんでもない。
「あぁ、化け物に襲われてな...危うく死ぬところだった...まぁ、助けてもらったことには感謝する」
「どういたしまして...それにしてもおかしいな...あの洞窟にはモンスターはいないはずなんだけど...」
男が、小首をかしげながら言うが、異世界に初めて飛ばされた場所がその洞窟だったので何とも言えない。
「そう言えばまだ名乗ってなかったな...。私はエルフ族、タオス・ナチュレ―だ。よろしく」
タオスと名乗ったその男は、自然な動作で握手を求めてくる。こいつフランクだな...外人か?いや違ったな、異世界人か...ていうかエルフ...確かによくあるファンタジー世界のエルフの特徴そのままだ。俺はその手をしっかりと握り返してやった。
「中野 立だ。」
互いに握手を交わし終えると、タオスが口を開き始める。
「そう言えば、君は人間族だね。こんなところにいるなんて珍しい。魔人化の影響が怖くないのかい?」
「魔人化?」
「き、君まさか知らないの!?」
タオスが心底驚いた表情を見せるが、異世界人の俺がそんなこと知るはずがない。一応、言語は通じているようなので聞いてみるとするか…
「知らん。悪いが教えてくれ、というよりこの世界について全く知識がない。どうやら記憶喪失らしい」
俺は投げやりに言った。異世界から来たと言ったら、どういう反応が帰ってくるか分からないので、記憶喪失という設定にしておこうと思う。
「そうか...大変だな...腕もないし...」
「あぁ」
そしてタオスは同情したかのような目をした後、淡々と語り始めた。
「まず、100年前にこの地、エイドに魔王が降臨しことを知ってるか?」
「知らん」
「おい...、じゃあ初めから説明する。魔王が降臨して、人間族にとって悪夢のような時代が幕開けたんだ。魔王が降臨した瞬間、人間族は魔人化という現象に襲われた。最初は原因不明の現象だったが、徐々に原因が判明して...。それは、魔王の呪いだと判明した。その呪いは、人間族が過度な精神ストレスを感じることで、魔人化するというものだった。それと共に、魔王の近くにいることでその呪いの影響が、大きいということが分かったんだ。だから、人間族は、魔王が降臨した地から最も離れた地、このエルフの国スプリーから北の島に、集結している」
「そうか...その魔人化の治療はないのか?」
「ない。魔人化したらその時点でお終いだ。命尽きるまで無作為に暴れまわる...」
どうやら、とっても平和じゃない世界に飛ばされてしまったようだ…先が思いやられる...。
「君も何でこんなところにいるかは分からないけど、さっさと人間族の国に逃げた方がいい」
タオスは、人がいいのかとても心配そうな目線をこちらに向けてくるが、余計なお世話である。
「いや...そうもいかん...」
「どうしてだい?」
「魔王を倒さなきゃならんのでな...」
「無理でだろ君には!?見たところ君、魔力だって微弱じゃないか!!」
「魔力?」
「も、もしかして魔力も知らないのかい!?」
「あぁ、悪いが教えてくれ...」
「はぁ...そんなんで魔王なんか無理だよ...」
と嘆息しながらもタオスは、教えてくれるようだ。新手のツンデレなのか?
「魔力は、簡単に言えば魔法を使うための力のことだ。魔法を使うためには、その魔法にあった魔力の質が必要になってくる。魔力の質は、生まれながらに決まっているんだ。私は、相手の魔力の質を見ただけでわかる能力を家柄上持っていてな。君の魔力の質では、生活魔法しか使えないよ...」
「生活魔法?」
「そうだ。魔法には、下から、生活魔法、初級魔法、中級魔法、上級魔法、超級魔法がある。君の使える魔法は最弱の生活魔法だけだね...」
「ダニィ!?」
適当に驚いて見せたがまずいな...
「因みに、上級魔法が使えるものは、その下の魔法を使うこともできる」
「魔力の質を改善することはできないのか?」
「できない。だが、魔力の量は使えば使うほど多くなる。まぁ、生活魔法しか使えない君にとっては、全く無意味な話だけどね」
俺は、落胆する。まさか、この俺が最弱の魔法しか使えないとは思いもしなかった。地球では孤高の無敵な中野立様だったが、ここでは最弱と来たか...
「チッ!!」
小さく舌打ちしたが、舌打ちしたところで現状は変わらない。
「大丈夫、君が倒さなくても魔王は討伐されるよ...今、中立国アカスで魔王を倒そうと、模索されているからね…。まぁまだまだ先の話だと思うけど」
「先てっどのくらいだ?」
「ザっと見積もって120年後かな...魔族領、下層、中層、上層と順番に東に攻略していかなきゃならないから...」
「それじゃ遅いんだよ!!俺が生きてる間に倒さなきゃダメなんだ!!」
何をのんきなこと言ってやがる、餃子みたいな耳しやがって!!
「そうか...人間族は、寿命が短いのか...こう見えても僕は144才だったりする」
「なん...だと...?驚いている場合じゃない。どうしてそんなに時間がかかるんだ?」
「簡単さ、魔族領が上層奥深くにあって、下層、中層、上層を通らないと倒せない仕組みになっているからだよ...。しかもだ、下層のモンスター一匹狩るのに、100人の中級魔法兵士でやっと狩れると言われている。そんな数の兵士簡単に集まらないし、リスクはなるべく回避したい。だから慎重に計画が進められてるんだ。まぁ、2年後に、下層攻略が行われるらしいが、正直成功するかどうかは分からない。なんせ未知の領域だからね...」
「そうか...なら、やはりこの俺、自らの手で始末するしかないな...」
「だから君には無理だって!」
「やってみなきゃ分からんだろ?」
「はぁ...そう言えば先ほど気になることを言ってたな...洞窟の中でモンスターを見たって...」
「あぁ...そうだが?」
「特徴を教えてくれないか?」
「そうだな...茶色のたてがみを持った大きな獣だった。キメラの様な感じだったかな?キメラてっ言って通じるか?」
俺がそう言うと、タオスの顔が一気に青ざめる。
「キメラだと...キメラなんて魔族領下層にしかいないはずなのに...急いで村に戻らなければ!!」
そう言うと、タオスは座っていた石の椅子から慌ただしく飛び上がり、走って行った。
「おい!ちょっと待て!!」
この中野立様の制止も聞かずに、タオスは走り去る。俺は、仕方なしにタオスの後を追うことにするのであった。
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