トライアングル

しゅり

賢史郎 13歳

「少女をレンタルしませんか?」



夏の日差しが照りつける暑い日、

賢史郎は学校が終わってから遊ぶ約束で友達を待っていた。

五階建ての団地に住んでいて、棟がいくつも並んでいる大型の県営住宅に、その友達も賢史郎も住んでいた。

その中の1つ、棟の壁に寄りかかりながら、友達を待ちながら日影で暑さをしのいでいると、

冒頭の声が聞こえてきた。

それを聞いた瞬間、

無意識に気配を消し、周りをキョロキョロと見回した。


…レンタルってレンタルビデオとかの

レンタルかな…


言葉の意味は分からなくても、ニュアンスでただならぬ会話だと感じた。

その場から動けず、じっとしていると

もう1度声が聞こえてきた。

「美しい子なんですよ」

声のする方に目線を向けると、どうやら部屋の中から声が聞こえるようだった。

おそるおそる進んで、一階の部屋のベランダを見ると戸が半分程空いていた。

声はそこから聞こえたようだった。

カーテンが引いてあって中の様子をうかがうことはできない。

賢史郎はベランダから見えない死角の壁にピッタリと張り付いて、聞き耳をたてた。

相手の声は聞こえないので、

どうやら電話で話しているようだった。

「いつがよろしいですか?」

「振込で」

「口座はメールで送ります」

「もちろん秘密厳守です」

そんな会話が聞こえたあと、最後に

「損はさせませんよ」

という声を聞いた途端、

顔は見えないが声の主の嫌な笑顔が目に浮かぶようで、賢史郎なゾッとしてその場をすぐ立ち去った。

立ち去る時、棟の上を見て番号を確認した。

数字の「5」の文字…


5号棟だ…1階…

何ていやらしい話だろう…


嫌悪感で頭がいっぱいだった。

賢史郎は友達との約束も忘れて、

自分の家に走り戻っていた。

自宅には団地の住人の名前、連絡先、部屋番号の書かれた一覧表があったからだ。

それを見て賢史郎は声の主の住人がどんな奴か突き止めようとしていた。

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トライアングル しゅり @shurizyo

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