夜中のラーメン

霧内杳@めがじょ

夜中のラーメン

「……おなか、すいた」


読んでいた本をぱたんと閉じる。

すると、少し離れたところで本を読んでた彼が顔を上げた。


「ん?」


どうした?


とでもいうように、彼の首が少し傾く。

眼鏡の向こう、少し眩しそうに細められた目。


「コンビニでも行く?」


「……めんどう」


時計はすでに、夜の十一時を回ってる。

いまさら、外に出るのは面倒。


「んー」


「……おなか、すいた」


同じことを繰り返したら、はぁーっ、彼の口から大きなため息が落ちた。


「インスタントラーメンあったと思う。

それでいい?」


「うん」


立ち上がった彼の手が、ぽんぽんと私のあたまにふれる。

そのままキッチンに行くと彼は、ごそごそと棚を漁り始めた。

ソファーの背から顔を出して、ぼーっと作業してる彼を眺める。


棚からインスタントラーメンを探し出した彼は、冷蔵庫から卵とお肉のパックを出した。

それから、玉葱とキャベツとモヤシ、それにエノキ。


んん?

インスタントラーメンじゃなかったんですか?

 

腕捲りをすると彼は、じゃーっ、小鍋に水を入れるとチチチッ、ボッ。

火をつけて鍋をかけた。


今度はボールを取り出すと、お酒やお醤油なんか調味料。

んで、お肉のパック開けてごそごそやったら、ピ、ピ、ピ。

レンジに入れちゃいました。


卵を手に取ると、お湯が沸いてるであろうお鍋に投入。


ゆで卵ですかね。


じゃーっ、お野菜洗うとまな板、包丁。

トトトンと、リズミカルに音が響く。


チン、なったレンジの音に中身を出すと、甘辛い匂いがわずかにぷーんと。

またごそごそすると、バン、ピッ、ピッ、ピッ。


いったいなにを作ってるんですかね?

 

カチッ、ジャーッ。

卵の入ったお鍋に水を入れる。


やっぱりあれは、ゆで卵だよね?

 

カチッ、チチチッ、ボッ。

またお鍋に水を入れると火にかけた。


今度こそ、ラーメン作るお湯を沸かすのかな。


チン、電子レンジが鳴ったけど、今度は放置らしい。


カチッ、チチチッ、ボッ。

ガスレンジにフライパンが置かれて火がついた。

ごま油をひいたのか、いい香りが漂ってくる。


とたんにぐーっ、っておなかが鳴って顔が一気に熱くなった。


「もうちょっと待ってなよ」


ううっ、彼にも聞こえてたんだ。

おかげで顔だけじゃなく、体中が熱くなった。


ジャッ、さっき切ってた、タマネギ、キャベツ、モヤシにエノキがフライパンに投入される。


じゃっ、じゃっ、じゃっ。

彼が音楽でも奏でるみたいにフライパンを振るう。


バッ。

途中でラーメンの袋を開けると、お湯の中に麺を入れた。


できるまでもう少し?

 

バン。

電子レンジをあけると、ボールを出して中身を切ってる。


いい匂いでおなかはさっきからグーグーいいっぱなし。


早くしてください。


「机の上片付けてー」


「はーい」


続きは気になるが、運ばれてきたときのお楽しみ。

机の上を片付けて、お水とお箸と用意する。


「はい、お待たせ」


ドン、テーブルの上に置かれたどんぶりの中には……。


山盛りのお野菜と、ゆで卵、さらにはチャーシューっぽいものまで!


ほかほか湯気を登らせて、食べられるのを待っている。


「麺、半分にしてその分、野菜にしたから、少しは良心が痛まないだろ?」


「ありがとうございます」


得意げな彼を拝んでみたりする。


「いただきまーす」


「いただきます」


野菜は塩こしょうが利いていてラーメンとよくあった。

豚バラ肉で作られてるチャーシューは、あの短時間で! って感心するほど味がしみてた。

ゆで卵はもちろん、とろとろ半熟!


「これでお店出せるんじゃない?」


「無理無理」


顔を上げると、湯気で真っ白に眼鏡を曇らせた彼と目があった。

曇りがとれてくると、なんだか幸せそうに笑ってた。


……ああ。

夜中に、大好きな彼と食べる、大好きな彼の、作ってくれたラーメン。


最高に、幸せ。




【終】

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夜中のラーメン 霧内杳@めがじょ @kiriuti-haruka

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