17話 今朝

藍梨の声とともに、明日華はすぐさま頭を下げた。

表情が全く見えないほど深い。


「よっ、よろしくお願いします……」


続けて発される挨拶はたどたどしく、大いに緊張しているのが見て取れる。

また、なかなか上がらない頭は、黎の返事を待っているように見えた。


その姿には、黎はもちろんであるが、しかし他全員が驚いたようである。


「明日華に何をしたんだキサマ」


藍梨は剥き出しの敵意を向けて、黎に問う。


「こんな明日華は初めてだぁ……こんな可愛い姿を見てもいいのかぁ…………?」


理子はそんな明日華の様子を恍惚と見つめている。

想志だけはニヤニヤとして一言も発さなかったが、さすがに黎は居心地の悪さを感じる。


そして、特にやましいことはなかったはずだと詳細に思い出しながら、その今朝の状況をわかりやすく伝えることに努めた。


話しながら明日華の様子を確認するなどして、記憶の確証を強めていく。


そのときには、彼女は頭を上げていて、表情がはっきりと見えていた。

ただ、緊張が持続しているようで、目が合うことはなかったのだが。


それにしても、区切りごとに頷いて肯定してくれる明日華を見ていると、あるはずもない不安が払拭されていく感覚があった。

なんとも言えぬ居心地であった。

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青藍ベルガモット アーモンドゼリー。 @Almond_Jelly

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