美しく描かれる夢と現の狭間の出会いが殻を破る勇気をくれた

ファンタジックでありながら、決して読み手を置いてけぼりにはしない、自然な感情の流れが確かなリアリティ与えている作品です。

読み始めてすぐ、水槽の中に広がる幻想的な世界が美しく立ち上がってきます。
主人公の置かれている辛い状況が分かると、現実とは乖離したその幻想世界と「人魚」が、より魅力的に映りますが、それが現実と向き合うトリガーとなっている所がこの作品のミソです。
主人公と「人魚」との出会いはまさに幻想と言えるものかもしれませんが、その出会いがあったからこそ、現実に立ち向かっていく気持ちが芽生えていきます。

主人公が現実に直面している問題も、不幸を強調され過ぎることなく、けれどしっかりと彼の辛さは伝わってくる書き方で、そこにはきちんとリアリティが根付いています。
だからこそ、主人公の感情に寄り添うことができます。
彼を窮地に追いやっている相手も、その立場、気持ちが分かるように書かれているので、作品が一方的になりすぎることなく、多面的になっていて、それもリアリティに貢献しています。

構成もきれいです。
最後にこの出会いによって現実に向き合えたのが彼だけではなかったということが分かるところで、物語がすとんと収まるところに収まったという感じがして、大変お上手でした。

美しく描かれる夢と現の狭間の出会いが殻を破る勇気をくれた、というのが決して誇張されることのない主人公の辛い気持ちによって無理なく伝わってくる作品です。

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