「凝縮」という言葉が似合う短編。

短編小説はときに長編小説を凌ぐほどのエネルギーを含む場合がある。
短編であるがゆえに情報が少なく、それまでの経緯、物語のあとの気配はすべて描写されない。だからこそ、その短編の背後には広大な世界が広がる。

この短編はまさにその広大な世界を背後に持っている。丁寧に、それでいて簡潔に描写される食事の場面。そこからは立ち込める湯気の熱気や、京風の鍋の匂いが感じられる。
そして少ない言葉から感じ取れる登場人物たちの人柄。沖田のかわいらしい一面、花乃の勝気ながらも健気な性格。それらが言葉と一緒にすっと体に入ってくる。
そして、この物語を根底で支えている「死」の臭い。介錯による血の臭いや、沖田の死を思わせる痰の臭い。それらの臭いと軍鶏鍋の匂いが複雑に混ざり合って、クライマックスの切なさをより引き立たせる。

私はこの物語は「恋」の物語というよりも「愛」の物語だと思っている。「男と女」の物語であると同時に「生と死」の物語であり、自己の満足よりも他者への想いを深く感じられる物語だ。

このようにあらゆる味、匂い、そして想いが凝縮された物語を摂取するには短編小説は最適なメディアだと思う。そして、そのような凝縮された物語に出会えて本当にうれしかった。

こういう短編書きてぇ………。

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