新名渉の攻略本

如月 真

第1話 彼の秘密



自分は女の子なんだ、と自覚してくる小学生高学年…くらい。

お母さんに駄々をこねながら、片手では重すぎる分厚い月刊の少女漫画雑誌を買ってもらい、翌月号を待ちわびながら飽きずに何度も何度も繰り返し読んでいた。

友達と今月号の感想を語りあったり、家に遊びに行って自分が買ってもらえていない方の雑誌を借りて読んでいたりしていた。

他にも縄跳びとか、おままごととか、テレビゲームとか。

色々遊ぶものは多かったけど、少女漫画を読んでいる時間がとても楽しかったのを覚えている。


内容と言われると全く覚えていないのだが、やっぱり少女漫画にでてくる主人公の相手役の男の子は、

顔が良くて、

頭も良くて、

スポーツもできて、

優しくて、

お金持ちで、

実はある国の王子様だったり、

実は魔法使いだったり…


…まぁ、ファンタジー類いのことは置いといて。


とにかく女の子の理想をありったけかき集めた集合体の具現化、みたいな男の子ばかりが描かれていた。


最初は憧れと妄想と目標を抱きながらキラキラした目で読んでいたけれど。

あるときそんな人はこの世にはいないと悟ってしまい、それがきっかけなのか少女漫画も読まなくなっていった。


そんな完璧な人はいない。


もし居たとしても遠くから見ているだけで恋愛対象になるなんて恐れ多いし、というか、完璧すぎると怖い。

いないいない。

架空の人物。

偉人レベル。




なーんて思っていたら。










「あっ!あそこに居るの営業課の新名さんだよね絶対!」


「えっうそ!昼間に会社にいるとか珍しい!見れてラッキーなんだけど!」


「ほんとそれ!も~かっこよすぎ~。だって今は席があいてないだけで、今すぐにでも部長になれるくらいの業績なんでしょ~?」


「そうそう。大きい契約はとれるし、残業もいとわず仕事熱心で、おまけに部下や同僚の悩み相談にものるし、上司や取引先との付き合いもこなすし」


「うんうん。顔も芸能人並みにイケメンだし、スタイルもいいし、清潔感もあるし、礼儀正しいし、笑顔も素敵だし、身に着けている物もお洒落だし」


「まさに理想の塊」


「「ね~!!」」



………。



コホン




「三森さん、大野さん、次、Bミーティングルームで商品会議だからね」


「「あっ!す、すいません!!」」



バタバタバタバタ…


指示したばかりの場所へそそくさと逃げていく後輩の若々しい背中をみつめながら、私はため息をついた。

なんでデスク上の配布資料とサンプルを持たずに行っちゃうのよ…。

何度指摘してもちっとも直らないことばかり…。

これ以上影で”ガミガミ班長”などと呼ばれたくはないが、班長たるもの放っておくわけにはいかない。

仕方なく彼女たちの持ち物も抱えて事務所と会議室をつなぐ廊下に出ようとしたところ…



「僕、ドア開けますよ」


そう告げるよりも先に、荷物で手が塞がっていたのを彼の手が助けてくれた。


「…ありがとう…新名くん」


「いえいえ」


彼の爽やかな笑顔にはマイナスイオンが出ているのではないかと心底思う。

彼の体臭…いやいや…ではなく、マイナスイオンをさりげなく鼻呼吸で取り込む。


「これから営業?」


「はい、行ってきます」


「い、行ってらっしゃい」


「寿さんも部下のことばかり背負いすぎちゃ身体に悪いですよ」


「あ…うん…」


ニッコリ会釈し、彼は左腕の時計を確認しながら事務所の入口である廊下と反対方向へ颯爽と会社を後にした。

ため息…聞かれてたのかも…。

営業課にも”ガミガミ班長”が広まっていたらどうしよう…。

更に大きなため息を吐きながら落ち込んだ背中のままミーティングルームへと向かった。






「———————では、〇〇会社とのコラボ商品は3班ともこのまま企画を進めてください。寿さん率いるランジェリー班はもう一度生地の発注スパンを確認して、再度サンプルを組みなおしてください。次の会議は2日後の9時半から始めます。以上、お疲れ様でした」


ガタガタ…


配布していたサンプルを集めていると前屈みになって突き出たお尻を誰かが軽快な音を鳴らしてはたいた。


「ちょっ…!美幸!」


「ごめんごめん、そこにお尻があったからね、お疲れ様」


ぞろぞろと部屋を出ていく社員を他所に、彼女は「どっこいしょ」と言いながら一度片づけた椅子に腰深く座った。


彼女は菅野美幸かんのみゆき

私より2つ年上の29歳。

快眠にこだわった流通事業会社、「快眠Life株式会社」の商品開発課で働く同期である。

一度も染めたことがないというツヤツヤとした黒髪ストレートをピッチリと一つにまとめ、厚めの唇に塗られた色気たっぷりの真っ赤なルージュが印象的である。

基本的に私服通勤可能なのだが毎日アイロンしたてのかっちりスーツで、彼女曰く前職までずっと営業だったからかスーツじゃないと仕事モードに切り替わらない…らしい。

転勤や人事異動も多いこの会社で唯一変わらず一緒に働き続けている。


「ほんっと…今回のコラボ企画も急だっての~。まだこの前のアロマ商品のやつだって進行途中なのにさ~」


部屋の掛け時計をみて余裕があることを確認した私も、美幸の隣の椅子にゆっくり腰かける。


「オリジナル企画は大抵後回しにされるもんだよね…」


「そうそう。ま、今回は某!有名!下着ブランドとのコラボだからね~。そりゃ企画部長も気合入ってるわな~」


分厚い資料を汚いゴミでも持つかのように、親指と人差し指でぷらぷらと持ち上げて彼女は言った。


「レンレン今まで寝具ばっかりだったから、今回初の下着でてんてこ舞いなんじゃない~?」


わざと私の担当ページを見開いて、ほれほれと言わんばかりにこちらに見せつけてきた。

それをしかめっ面で払いのける。


「もう…レンレンって言わないでってば。…まぁね。枕を作るのとは全然違うけど、新しいことをするのは楽しいよ」


「タフだね~レンレン。あたしなんか企画あげてもあげてもボツ続きでイライラ最高潮だわ~。そもそも快眠ってそんなに大事か~?とか思ってきちゃってたり」


椅子の背もたれをギコギコ鳴らしながら彼女も大きくため息をついた。

どうやら飲みの場で彼女の泣き上戸の被害になるのはそう遠くはないようだ。


「快眠なんてね~。だ~いすきな恋人に抱きしめられながら寝たら一発じゃない。グッズとかいらないのよ、そもそも」


「…?…あれ、美幸この前…」


「……”実はホストでした”男とは先週別れましたけど何か!?」


どうやら地雷を踏んでしまった私は、背中越しに罵声を浴びながらそそくさと部屋から逃げた。









「あ、半額…」


大きく”半額”と貼られた刺身の盛り合わせを手に取るが、カゴにいれる前に考えた。

最近手料理という料理をしていない…。

外食かレトルトかこういった惣菜を適当に買って帰るだけ…。

一人暮らしを始めた頃は、いろんな料理本を読んで嬉しそうに付箋をつけていた遠い昔の自分を思い出す。

いつか作る時のためによくわからない調理器具や、いつか誰かが遊びに来るであろう時のために余分にお洒落な食器なども買いそろえていた。

それも今や開封せず勿論使用もせず。

実家で長い冬眠を迎えている。


「ただいま~」


真っ暗な玄関の明かりをつけても、そこには美味しそうなご飯のにおいも、迎えてくれる人もペットもおらず、朝に家を出たそのままの景色が目に入ってきた。

上下揃っていないジャージに着替え、ベランダに出て洗濯物をとりこみ、冷蔵庫から冷やしたビールを取りだし、これといって楽しみにしているわけではないが直ぐ様テレビの電源を入れて、皿も出さず、パックのまま刺身を食べ始める。


もぐもぐ


平日に映画鑑賞をする気力もなく、読書も忙しいを理由に手に取らず、編み物などの可愛らしい趣味もなければ、ジムで体力作りや習い事などをするやる気もない。


「今日野球ばっかりじゃん」


食事を済ませばすぐにお風呂のスイッチをいれ、ささっと洗い終えた後は防水スピーカーで少し音楽を聴いてから湯船を出る。

美幸に半分強制的に買わされた保湿に特化した高額スキンケア一式をつけ、以前会社で発売した軽量のサテン生地のパジャマを着て布団に入る。

快眠のために軽いストレッチもしないし、快眠のためにアロマや加湿器も点けない。

疲れて眠くなっていたらいつの間にか寝る。

どこでも寝る。

快眠にこだわっている会社の社員にはふさわしくない思想だが、これに至っては仕方がない。


「だいすきな人と寝ればぐっすり…か…」


子供はお母さんと、妻は夫と、恋人は恋人同士…。

確かに体温とか、安心感とか、幸福感とか関係してくるのだと思う。

目を閉じて自分の記憶を辿ってみるが、生まれてから27年間初婚もなければ当然出産も経験していない。

同棲したこともないし、むしろ家に恋人を呼ぶような展開がおこる前に自然消滅したり、フラれたり、浮気されたり…。


「…眠れない…」


変な記憶を呼び起こしてしまったためか、寝返りをしてばかりで瞼は重くならない。

違うことを思い浮かべろ…。

違うこと…。


明日朝一に生地スパンとコストを確認して…。

生産工場からサンプル生地を配送してもらって…。

あ、フリルの素材も調べなくちゃ…―――



『背負いすぎちゃ身体に悪いですよ』



ふと今日見た彼の笑顔が頭いっぱいに浮かんでくる。

新名くん…。

近かったなぁ…。

肌もきれいで、歯も白くて…。

ドアを開けてくれた時に見えた手首…血管とか浮き出て男らしい筋肉だったなぁ…。

昔運動部だったのかな、それとも最近鍛えてたりしてるのかな…。

そんなカラダに抱きしめられたら……よく眠れそう……。



はっ



バチンバチンとわざと大きく両手で頬を叩く。


バカ!

何妄想してるのよバカバカバカ!

自分で自分が気持ち悪い…あ~悪寒がする。



大体新名くんと一緒に働いてもう2年くらい経つんだから、今日の三森さんたちみたいに今始まった事じゃないんだし…。

そりゃ彼が入社してきたときは、本当にビックリしたし、それは大半の女性社員が思っただろう。

見た目も完璧で、話してみると更に中身も完璧で。

お近づきになろうと、あらゆる手で奮闘する子も居れば、気まずくなりたくないから陰からの傍観者として目の保養にするんだと自制する子も多かった。


私は後者。


別に気まずくなりたくないからとかではないけれど、あんな完璧な人、近づけないし、近づいたら呼吸困難になりそうだし。

不釣り合いなのはわかってるし、身の程はわかっているつもりだし。

というかあんな完璧な人…


「絶対女に困らないじゃん…」


もぞもぞ体をずらして、掛け布団の中に頭を潜らせた。











「お疲れ様でしたー」


「お先に失礼しまーす」


私はノートパソコンに一点集中で、帰っていく後輩を優しく見送っている暇は持ち備えていなかった。

同じくして帰ろうと片付けをしていた隣のデスクの美幸が、こちらへと首をひょいと見せる。


「あれ、レンレン残業?」


「……。そう」


「”レンレン”の呼び方にも突っ込めないほど切羽詰まってんだね…。ちぇ~今日飲みに行きたかったのにな~」


「ごめん美幸、また今度でお願い」


「りょーかい!じゃ、お先~」


まるで退職するかのように綺麗に整理整頓されたデスクから、すくっと立ち上がり私の背中を軽く叩いてから彼女は事務所を出て行った。

そんな背中を視界に入れることもなく、私は瞬きも忘れてしまっているかの如く、血眼で集中していた。




カタカタカタカタ…



定時退社から2時間半ほど過ぎた今となっては、事務所に居残っているのは自分だけになっていた。

BGMも無い広く静かな部屋で自分のタイピング音だけが響く。

タイピング音をなくしてしまうと、掛け時計の秒針音が聞こえてしまい、それが自分を追い詰めてしまう。


カタカタカタカタ…


カタカタ…カチッカチッ…


「ああ…終わらない…ううう…。明日なのに…ううう。お腹すいたお腹すいた…」


一人で気を緩めているのか、それとも静かになるのが嫌なのか、自然と愚痴がこぼれてしまう。

集中力も長くは続かず、カロリーと時間短縮を気にして夕ご飯をどうするかばかり考えていた。





「手伝いましょうか?」




え?





「え?」





バッと大袈裟以上に振り返ると、数メートル先の事務所入口で新名くんが立っていた。


「にっ…!!」


本当に湯気が出たのかと思うくらい、私の顔はみるみる火照っていった。

冷や汗なのか熱くて汗が出ているのかはわからないが、とりあえず身体はびっしょり汗ばんでいると感じた。


恥ずかしい!


独り言を聞かれたことと、

その独り言が駄々っ子のようにブーブー文句を言っていたことと、

それを聞いた人が新名くんだということ。


三連苦である。

三連恥さんれんちと命名したいくらいである。


突然の驚きと恥ずかしさで一時停止をしてしまっていた自分の内心を察知したのか、ちょっと申し訳ない顔で彼は笑みをこぼした。


「驚かせてしまったみたいですね、すみません」


硬直した身体が彼の笑顔で雪解けたようだった。

すぐさま我に返る。

口も開いたままだったようで、ぎゅっと唇をしめる。


「う、ううん。大丈夫。……あ…今戻り?」


「そうです。午後の商談が早く終わったので、それで」


事務所の入口から近い商品開発課を通り過ぎ、隣の隣の低いパーテーションの囲いを越えた所にある、営業課の自分のデスクに秋用の上着と重たそうな鞄を置いて、彼は少しネクタイを緩めながら言った。


「そ、そっか…」


元々挨拶くらいで仲も深まっていない者同士、二人きりになってしまうとどんな話題を持ち掛ければ良いのかわからない。

それどころか残業に追われている現状で、フランクな会話も持ち掛ける余裕が無かった。


気まずいのか緊張なのか、ドキドキしていて先ほどの集中力が途切れてしまったようだ。

一度落ち着いてコーヒーを飲もうというのと、気まずい空気をどうにか打破したいがために給湯室へと立ち上がった瞬間、すぐ近くまで彼が接近していたことにまたも驚いてしまった。


「わっ!」


「あー…はは、すみません何度も。何が大変そうなのかなーと思って来ちゃいました」


サンプルやら資料やらでぐちゃぐちゃで汚いデスクを彼が覗き込む。

隣の美幸の綺麗なデスクとあまりにも対極すぎて、恥ずかしさが倍増した。

そんな私の感情の葛藤には気づかず彼はサンプルの生地を数枚手に取る。


「新商品…ですか?」


「え…あ、そうなんです。まだまだ企画段階なんですけど…下着メーカーとのコラボで…」


「あ、それこの前耳にしました。凄いですよね、コラボが実現できるなんて。あの会社、自社ブランドの固執が強かったのに」


彼は資料と私を交互にみる。

笑った時の目尻のシワや、少し長い八重歯や、先ほどネクタイを緩めたために垣間見える首筋……と目線が一定できず泳いでいて、最終的に床ばかり直視していた。


「納品前でもないのに残業するくらい追われてるんですか?」


「あー……いや、それが明日ミーティングで商品の最終決定なんですけど…。朝受け取るはずの工場からのサンプル配送が遅延して、商品加工の依頼が間に合わなくて…。それで、自分で商品に少しでも見えるように裁縫して…でも不器用だから時間がかかって…それで……資料を作る時間がこう…このような時間まで…」


「……そうなんですか…」


「外注の方から生地資料を商品と一緒にもらうはずだったんですが取り消して自分でやってしまったので…良く説明できる資料が作れなくて…」


なんだか惨めになってきてしまう。

弱音だし、失敗だし、言い訳だし。

それをまさか新名くんに話さなくてはいけないなんて。

そんなつもりは滅相もないのだが、彼からするといかにも「そんなことないですよ」とか、励ましてほしいという意味だと認識して面倒くさい女性だと思われているに違いない。

それもふまえて色々と心が雨模様…というか雷雨状態になっていると、


「僕、ひとつ前はベビー服担当だったので、生地資料とかわかりますよ」


「え?ほ、ほんと!?」


「ちょっとデータ残ってるかパソコンで確認してみますね。赤ちゃんは敏感肌なんで、そういう知識入れようとしてたんですよね」


「あ、ありがとうございます!」


「はは!いいですよ全然。あと僕に敬語必要ないですよ。寿さんは先輩なんだし」


「そ、そうなんだけど…部署も違うし…そ、そんなに喋った事ないから、馴れ馴れしいかなって…」


「気なんか使わないでくださいよ。あ、あったあった。データ送りますね」


私なんか放ってせっかく早く仕事終えたんだから帰宅なり寄り道なり退社すればいいのに…。

こんな関係ない部署の、自分の業績に反映しない仕事に助けてくれるなんて…。


「いい人だなぁ…」


「え?」



はっ。


ついつい口も顔も緩んで、意識なく声に出してしまっていた。

こらこら、仕事しろ私!

そう言い聞かせて雑念を取り除こうとしていたのだが、作業が終わるまで私は終始鼻の下をのばしてだらしない顔をしていた…と思われる。










「お、終わったあぁ~!!」


肩も腰もガチガチ痛くて目の奥も疲労感があって、化粧も型崩れしているだろうという確証があったけれども、それより達成感からの高揚が絶えなかった。


ぐっと伸ばした両手を下げたついでに左腕に目をやる。

時計の針は長針が42。

短針は10を指していた。

現在の時刻を認識してすぐに待ってましたと言わんばかりに疲労感と睡魔が襲ってきた。


やれやれ…この歳でこの時間までの残業は辛い。

身体的に苦痛だし、そしてもうそこまで元気でない自分の年齢を実感して精神的にも苦痛である。


これはすぐ家に戻ってベッドにダイブしたらそのまま朝を迎えるコースだ。

それで良いと現状思えてしまうが私のプライドと肌が許してくれない。

すぐにお風呂のスイッチをいれて、お風呂に浸かりながら、コンビニのおにぎりかパンを詰め込んで、スキンケアはしっかりして寝よう。

それなら大丈夫。よしそれだ。

目を閉じこの後のスケジュールを頷きながら満足していると、


「はい、お疲れ様です」


目の前に冷たいお茶のペットボトルが差し出されていた。


「あ、ありがとう!」


あれから新名くんは、ずっと隣で助けてくれていた。

何度も「もう一人で大丈夫だよ」と断ったのにその度に「手伝いたいから居るだけです。ここで帰っちゃ薄情ですよ」と全く気にしてないという笑顔を見せてくれていた。

資料内容とかレイアウトとかも全部横でアドバイスをしてくれ、手作りのサンプル商品も手直ししてくれた。

…まぁ私より断然器用で手際がよくて家庭科でいうと満点評価だったので、そこはさすがに遠慮せず有難いと感謝した。


二人で並んだ椅子に深く腰掛け、ぐいっとお茶を乾ききった喉に潤いを与えた。


「おいしーっ!」


「はは、ビールみたいに言いますね」


「本当にビールなら、なお良かったんだけどね~」


「はは、ごめん」


いつのまにか少し砕けた調子で話せるほどまでになっていた。

それが何より嬉しかった。


遭遇してしまったのが新名くんで良かったし、

明日の会議のことを相談したのが新名くんで良かったし、

手伝ってもらえたのが新名くんで良かったし、


そしてなにより、


誰も邪魔なく二人きりでずっと居れたことだった。


我ながら欲深いというか…浅はかというか…。

イケメンが罪なのか面食いが罪なのか…。

いつもと変わらない美幸との椅子の距離が、相手がイケメンなだけでこんなにドキドキ意識して緊張してしまうとは…。


隣で腕を伸ばして首を鳴らしていた新名くんを横目でちらちら見ていた。


あれっ…?


「…?…新名くん、何それっ。すごい目のクマ!」


「え?あ、ああ。やっぱりわかります?」


あまりにもケロッとして言うものだから、いつものことなのだろうか。


「いつも睡眠時間短いの?残業とか?」


彼は左目の下をさすりながら平然としているため、よくこういう心配をされているんだろうなと瞬時で悟った。


「いや、別にそんなんじゃないですよ。寝付きが悪いんです元々。クマはどうにかしないといけないなぁとは思ってるんですけどね、はは。営業マンが寝不足な顔ってダメですしね」


私は大胆な行動だが、少し近寄り彼のきれいで整った顔をまじまじと見た。

たしかに昨日今日でできたようなクマではなかった。

寝付きが悪いというのは恐らく本当のことだろう。

彼イコール笑顔というようなイメージで、いつも涙袋かなと思っていたものは、偶然目の下のクマが作ったローライトの役割を持っていたのであった。


「そろそろ帰りましょうか。明日、会議なんですよね?」


はっ


クマのことなんて初めの数秒で、そのあとは新名くんの顔にただただ見惚れてしまっていた。

このイケメン…“公開凶器”だ。

”君子危うきに近寄らず”。

言い換えるなければ”君子イケメンに近寄らず”。


「そ、そうね。今日は本当にありがとう!助かりました。新名くん、本当に優しくて、良い人だね」


少し営業マンっぽく頭を深々と下げ、体を戻して現時点での最大力の笑顔を作ると、何故か彼は少し悲しそうに、そして何か諦めているかのように眉が若干下がり気味のままニコッと笑ってみせた。


「そんなことないですよ。役に立ててよかったです。……あー……じゃ、先に出ますね」


「……あ………うん」


一緒に会社を出て…まではいかないか。

恐らく向こうは車通勤だし。

それか今何か気に障るようなことをしたから先に帰っちゃうってことなのかな。



気に障ることって………

何?



落ち込んだり考え込んだりしながらデスクを片づけていると、入口のドアノブに手をかけた彼が振り返った。


「寿さん!」


「…は、はい?」


「明日!会議、成功したら今度は本当にビール、飲みに行きましょうか!」


「え…え!…あ、うん、うん!」


「ははっ。じゃ、お疲れ様です」


「うん!お疲れ様!」


疲れていても、相手が誰でも、いつでもどこでも誰もが知っている彼の爽やかマイナスイオンスマイルを受け止めながら、ドアが閉まるその瞬間まで私はただ棒のように立って見送っていた。


ガチャン。


閉まる音がなると同時に持っていたお茶のペットボトルを強く握りしめ、ぐいっと流し込んだ。


飲みに行きましょうって…。

飲みに行きましょうって言った。

誘ってくれた、飲みに。

え、この流れって…二人で、だよね…?

絶対そうだよね。

他の社員と、なんて言ってないもんね?


嬉しい!

あたしを誘ってくれた。

誘ってくれた!




単純だな、あたし。

社交辞令かもしれないのに、明日の会議はめいっぱい頑張ろうと奮起しているし、


明日は買ったばかりの服を卸そうと陽気になっているし、


そんなことを鼻歌をうたいながらウサギのように跳んで帰宅しているし、


急に女子力を上げようと夕食を作ってみたり、


トリートメントで終わらずヘアパックをして半身浴したりするし、


良い香りのボディクリームを乾いてカピカピの肌にふんだんに塗りつけるし、


鼻息を荒げながらベッドにジャンプ、からのダイブ。


慣れないことを、しかも残業した今日に一気に総なめするもんだから時刻はもう午前3時前。

身体はバキバキで思ったように動かないほど疲れているのに、瞼は全く重たくならない。

むしろ開眼状態だった。



「明日…。明日に誘う…。会議終わりに誘う…。絶対誘う…」


会議は明日朝の9時半から1時間の予定。

それなら営業課MTGをして11時から営業に出ていく新名くんに会える。

そこで、言うんだ、寿蓮華ことぶきれんげ


「会議、成功したよ。昨日言ってた飲み会を今日できないかな?」


ブツブツ呪文のように口に出して予習する。

上目遣いに首を横にかしげる。

脇はきゅって締めて、

少しシャボン系の香水をつけておこう。



「カイギセイコウシタヨキノウイッテタノミカイヲキョウデキナイカナ…カイギセイコウ…————」










「おはようございま~す」


「はよーございまーす」


「おはようございまー…え!?」


先に出社して座っている私を目撃した彼女は、回転椅子を私まとめて自分の方へグルッと大きく回した。


「レンレン…!!何その女子女子した服装!!」


今のような秋始めの通常の服装と言えば、後輩の女子達のように雑誌の流行に則ったいかにも可愛らしいOLスタイルはせず、美幸のようなスーツほど堅苦しいわけではないが、動きやすいストレッチパンツに白のトップスに綿や麻のジャケットという感じである。

それが今日は美幸に驚かれるのも承知の上。

ブラウスと秋色のカーディガンに袖を通し、ふんわり…は恥ずかしいというか年齢にそぐわないというか…もともとクローゼットになかったので、膝の隠れるくらいのタイトスカートを履いていた。

友人の結婚式くらいしか履かないようなヒールも値段も高めの靴も今日はそれで通勤した。

正直動きにくいし、靴擦れもしたし、朝の通勤だけでも無駄な体力を浪費した気分である。


「どうしたの!?今日デートなの!?」


「いや…なんにもないって」


「なんにもないわけないでしょ!レンレンが色づいてそんな女子力高めましたなんて服装…男を落としにいくからでしょ!?私にはわかる!無駄に2年半以上隣の席で一緒に働いてないから!!」


「無駄にって何よ…。もー!とにかくデートとかじゃないから。今日の会議に気合を入れてるの!」


「え~うっそだぁ~」


「もう…早くミーティングルーム行って準備するよ!」


ニヤニヤが止まらない美幸の顔をしっしっと手で払いのけ、私はサンプルと資料をがさっと持って廊下に出る。

ただ出る前にちらっと営業課をみる。

彼の姿を朝から何度も確認したが、デスク上の持ち物をみて事務所に居ることだけしかわからなかった。

少し肩を落としながら、それでも新名君と二人で頑張った力作を企画部長に鼻高々と披露してやろうと背筋をのばした。







ガチャッ


バタバタ…


ミーティングルームから続々と人が出ていく。

それよりわざとずらしてから私と美幸も同時にでた。


「お疲れ~レンレン。まぁまぁの高評価だったんじゃない~?」


「レンレンって言わないでってば。……うん、まぁね…。とりあえずボツにならなくてこのまま進めれそうで良かったよ」


鼻高々としたものの、成果は今一つ。

緊張していた私のアピール力や発言力が乏しかったというのもある。

ただ、あまり褒めない企画部長も「いいと思います。このまま続けて下さい」という一言をもらえただけで今日は万々歳であった。


「…あ!!美幸、ちょっとごめん!」


ドサッと美幸にサンプルやら資料やらいれた箱を渡す。


「え、ちょっと…え~!?」


せかせかと早歩きで廊下を抜ける。

自分のデスクに戻らず、通り過ぎて営業課めがける。


いない…。

もう彼のデスクは朝と違って何も置いていなかった。

すぐさま入口ドアの方へ向かう。


ガチャッ


そこには丁度営業に出ようとしていた彼が階段を降りかけていた。


「新名くんっ……!」


「……」




あれ…



なにか…違和感。



彼は顔をこちらに振り向いたものの、目も合わさず下を向いたままで、そして何より…


笑顔がなかった。


怒っている感じでもなく、何かに落ち込んでいる様子でもなく、

なんと表現したらいいか……。

これは私の勝手な推測だが、私に対する興味がガタ落ちしているような対応だった。


「……どうしたんですか」


「え…あ、あ、あのねっ。昨日のお礼言いたくて…そ、それでね…」


昨日あんなに何度も繰り返しつぶやいた言葉なのに、一文字も頭をよぎらなかった。

緊張と疑問と困惑。

さっきの会議より舌が回らない。


「あの…昨日誘ってくれたやつ…今日…会議成功したから…その……の、飲みにいきたいなって…」

「すみません、当分忙しいので」




えっ。




言葉には出なかった。

発することが出来なかったというのが正しい。

あまりにも淡々と素っ気なく冷たくあしらうように言うものだから、浴びた言葉も理解できなかったし、

そもそも目の前に立っている人間は本当に昨日と同じ人物なのだろうかと目を疑った。

必死な作り笑いも消えて呆然としていた私の姿を他所に、


「じゃぁ、営業にでるので」


と小さく会釈し、最後まで目を合わせないまま、彼は階段を降りて行った。



カンカンカン…



銀色の鉄骨階段をおりる音が耳の奥まで響く。

俯くと視界に自分のスカートとあまり履かないヒールが目に入る。

その途端何故か視界が少しぼやけた。

涙を落とすまいと瞬時に顔を上げ、鼻を強くすする。



何してんだろう私。

舞い上がってたんだな、きっと。

イケメンに優しくされて浮かれてたんだよ、ほんと。

私多分ホストクラブに言ったら騙されて貢いじゃうタイプなのかもしれないな、うん絶対そうだ。



「は~。仕事しよ」



慣れないヒールで後ろ足首の靴擦れの痛みが先ほどより倍に増した感じがした。











「はぁぁ~…」


あのあとからというもの、イライラと靴擦れの痛みでいつも通りに仕事が進まず、ただやることはやって定時でそそくさと退社した。

ストレス発散と言われても仕方がないくらい、

どういう観点からおしゃれと判断できるのかわからない雑貨やら、

使わないだろう個性的な模様の食器やら、

いつもは手に取らないオーガニックとかなんとかの食品やら、

とりあえず沢山買い占めた。

そして荷物が多くなって踵上の靴擦れが増し、更に悲鳴をあげた。


「う、買いすぎた…」


後悔しつつ一刻もはやく家に帰って足をのびのび解放したいと、駅に向かう。

それなら一度家に戻ってラフな格好に着替えてからで良かったのではという得策も浮き上がるが、会社の近くの方がショッピングモールや百貨店が並んでいるため、よく美幸と寄ってから帰宅することが多いのだ。

ICカードを取り出そうと鞄やポケットを探っていると、

チャリン…


「げっ」


スカートの後ろポケットに小さい銀色の鈴が付いた細長い鍵。

これは家の鍵でも自転車の鍵でもないことは、言わずもがな、重々承知である。


「うわ~!持って帰っちゃってた~」


会社の倉庫の鍵である。

これを保管している管理室の鍵棚に戻しておかないと、事務所ビルの警備員がチェックし、直接代表や役職者に注意報告が流れ、最悪の場合は通報・調査されてしまう。

お金同様大切な部分であるため、社員一同厳重注意を払っているのだが。

わかりきっていた私が、こんな時に迂闊だった。


「返しに戻らなきゃ…」


腕時計を確認する。

19時41分。

まだ警備員が確認する時刻には間に合う。

大荷物で両手が塞がった状態のまま、ふらつく足取りで猛ダッシュで会社に戻った。





「失礼しまーす…」


ガチャン…


管理室の扉を閉める。

運悪く日中無人の管理室には警備員が二人も待機していて、持ち帰った事をグチグチ注意を言われてしまった。


「は~」


管理室から事務所に戻る。

救急箱から絆創膏を拝借しようと思ったからだ。

もう私の両足は剣山の上を歩いているかのように激痛で限界だった。


そーっと開けると話し声も作業音も無かった。

だが、部屋の明かりがついたままだった。

誰かいるのだろうか…でもあまりにも静かすぎる…消し忘れなのだろうか。

警備員が確認に徘徊する前であるから、それはあり得る話である。

そのままそーっと用具棚の場所まで向かうと…———


「!!」


今日一、出会いたくない人が椅子にもたれて腕組みをしながら仮眠をとっていた。


もちろん、

新名くんだった。


ノートパソコンは電源がついたままで、恐らく仕事途中だったのだろう。

ただ深く俯いているため、本当に寝ているのだろうかと疑った。


ゆっくり近づく。

ヒールの音をたてないように。

第三者からみるとコソ泥と変わりなかった。

やましくないなら普通に近づけばいいものを…。


彼のすぐ目の前まで到着した。

横顔をまじまじと見る。

正真正銘夢の世界に入っていた。

この距離でようやく寝ているとわかる呼吸音が聴こえた。


今日のあの態度はなんだったんだろうか。

直前でイライラするようなことがあったのだろうか。

いやでも感情的に八つ当たりしてしまうような人だろうか。

いや待て。

そんな人だろうかと言うが、そもそも私は彼の事を何も知らない。

何も知らない…。


まつ毛長いな…。

肌もきれいで、髪も多少のワックスはつけているだろうがサラサラだ。

顎もシャープで丁度いい筋肉質で、

私はそこまで詳しくないが、さりげないマークのついた海外ブランドの腕時計や、

取引先ウケの良いおしゃれだけれども控えめな柄のネクタイ。

爽やかで清潔感のある香りの香水。


この人はすべてが完璧なんだなぁ…。


同じ職場なのに、まったく段差の違う人。

そして釣り合わない私。

隣に歩くことがおそらく一生ない私。

夢をみちゃいけない。

少女マンガじゃないんだから。



…帰ろう。




ぱちっ


「!!!」


「…あ、……?……!?えっ…え!?」


瞼を開いた彼は目を細めてぼやけていると、あたりを確認し、目の前の私の姿を捕らえた。

みたとおり、彼は私がぬっと立っていることに酷く困惑いている様だった。


「…な、なんで会社に……」


き、きまずい。

顔が引きつる。

でもここで真実を言おうが偽ろうが気まずさに変わりはない。


「あ、えっと…忘れ物を…」


「あ……そうですか…」


あ、また目を合わせてくれない…。

彼は自分のノートパソコンの方を向き直した。


「あ、あのね…?何かしたんなら謝るよ。飲みに誘ったりするのが迷惑なら金輪際しないし」


「え?」


目が合った。

きれいで澄んだ、ストレートティーみたいな茶色の瞳。

カラコン…でもないだろうし自前の色素の薄さなんだろうか。

目が合っただけで喉がきゅうっと締め付けられた。


「あれだよね、やっぱり無理して手伝ってくれたんだよね。私が変に帰り辛い相談を持ち掛けたから性格上断れなかったんだよね、ごめんね」


ここまで言うつもりはなかったのだが、静まり返る空気には耐えきれそうにもないので、緩んだ口からなんでもかんでも言葉が出て行ってしまう。


「え、いや、ことぶきさ…」

「ごめんね本当に!おこがましいよね私なんか!」


とうとう声を荒げて自虐罵倒になってしまっている。

でも自制できなかった。


「昨日の今日で飲みに誘うなんかさ、本当気持ち悪いよね!社交辞令を真に受けるなんてね!」


「嫌なんて思ってないですよ!」


ガタッ


高身長の彼が席をたつ。

勢いよく立ち上がったものだから、回転椅子がかなり後ろまで離れた。


「え……。え?じゃ、じゃあ何、今日の態度。嘘言わないでよ、迷惑だったんでしょ!」


「だから違いますって。あれは………仕方なく……」


イラッ


「し、仕方なく断ったってどういうこと!?ちゃんと説明してよ!!」


こんな場所で酒で悪酔いした夫婦喧嘩みたいになっていた。

自分が泣いていることも自分自身気づいていないほどヒートアップしていた。


「あーもう!だから!寿さんが僕に告白するのをとめたかったんです!!」




は?




「な、なに苦し紛れの嘘ついてるの!?こ、告白なんてするわけないじゃない!そりゃ新名くんが入社してから格好良いなぁこんな彼氏なら素敵だろうなぁって思ったし、昨日も助けてくれて優しいなぁ嬉しいなぁって好感度右肩上がりだったし、今日飲みに行ってそこから仲良くなって付き合えたらな~って安直な考えはあったけど!別に告白しようなんて素振りはみせてないはずだし!!!」








「…寿さん…それって遠まわしですけど、僕のこと好きっていう告白になってませんか…?」





時間が静止したようだった。

ここは会社の事務所。

時間は20時過ぎ。

目の前にはイケメン…訂正、新名くん。

と、私二人きり。

そして今私が口走ったことって…


全身を巡る血液がどこかへ流れ出てしまったかとように、体温はさがり、汗がどこからともなく脱水症状になってしまうほどの量が出ていく。

このまま気絶して、起きたら何もかも夢であってほしいのだが、それでも意識だけは残念ながらしっかりあった。


私の心情を汲んだのは良いが、どうフォローしたら良いかと困り顔の彼は、わざと咳払いをして真っすぐ私を見た。


「僕…予知夢をみるんです、必ず。しかも鮮明に。今日、本来一緒に飲みに行っていたら、別れ際に寿さんに告白されたんです。断ったら貴女が泣いて走ってこけて…擦り傷ですけどケガをしたので、その方向から避けようと………って聞いてます…か?」



勿論耳から脳へ伝わっていた。

しかし、外国語でも宇宙人語でもモーレス信号でもないのに、私にはまったく理解が出来なかった、いや、理解しようとしなかった。


なに…え…予知夢?


未来を知ってたから?


私が告白する未来?


それを避けようと?





「すみません、忘れてください」


「え…」


「全部僕が言い訳するための嘘です。不快にさせてすみませんでした」


頭を深く下げた彼の旋毛をじっと見た。


うーん…


寝不足の原因って…もしかして…。


うーん…



私は大きく深呼吸する。

今となっては靴擦れの痛みも全く感じなくなっていた。


「わかった。信じる」


「…え…え!?」


「その代わり、本当に予知夢なのかどうか夢に出たことを教えて。それでその後本当に起こったら、それこそ本当に信じる」


「……」


「もしかしなくても、新名くんはその予知夢のせいで快眠できないんだよね?災害とか事件とか、そういうのを見てしまうのが怖いからだよね?」


「う、うん…」


呆気にとられて口をあけたままの新鮮な彼の表情を目の前にしながら、私はどんと胸をたたく。


「じゃあ私が変えてあげる!今日みたいに夢と現実を変えて新名くんを快眠させてあげる!快眠Life株式会社商品企画課、寿蓮華に任せなさい!」




つづく



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   プロフィール

   ●彼の名前

    新名 渉(にいな わたる)

   ●彼の職業

    イケメン(営業マン)

   ●彼の秘密

    予知夢能力……あり?

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