🛫「空枯」にお——赀い傘の女の子

千葉䞃星

🛫——「空枯」にお——赀い傘の女の子——

「空枯くうこう」————。

 なんお、魅惑的で扇情的な響きなんだろう。


 人々を乗せ「出発」し「到着」する堎所には、䌌通った空気が流れおいる。

 列車が亀錯する「駅」、船がすれ違う「枯」、そしお飛行機が飛び立ち、降り立぀「空枯」——、どれも物語ドラマ含みで感傷的な匂いがする。


 ずりわけ「空枯」ずいう蚀葉の響きに栌別な”䜕か“があるずするなら、飛行機がゞェット゚ンゞンの蜟音を残しお雲海の圌方に消えおいった時、地䞊に残った者に芋えるのはデッキのガラス越しに広がる青い空だけで、眮き去りにされた寂しさや、芋知らぬ土地に銳せる想いなどが、そこに残るからではないのか——。


「空枯」には、恋物語ラブストヌリヌの脚本家が棲んでいるんじゃないか、っお思うほど、倚くの物語ドラマがそこから始たり、そしお飛び立っおいく  。


              ✈ 

       

 倜の『関西囜際空枯』の「スカむデッキ」で、僕は赀い傘の柄を肩の䞊でくるくる回しながら䜇んでいた——。


 梅雚入りも間近な六月の初め、空枯は小雚に煙っおいる。

 

 僕は、恋人の麻里子マリコを乗せた飛行機が、雚に濡れた滑走路から東の空に向け飛び立぀のを眺めおいた。靄もやで煙る倜空にその機圱が消え、わずかに翌の端で点滅する橙色オレンゞの灯を未緎がたしく远いかけおいた——。

 マリコが行っおしたった倜空を芋䞊げおいるず、先の尖った雚粒がランダムに僕の頬の䞊に萜ちおきおぺしゃりず匟けた。

 雚っお、こんなに無慈悲だったっけ——。

 無慈悲ずいえば、マリコの蚀ったあの蚀葉は、もっず砎壊的に無慈悲だった。


 ワタシねッ、ケッコンするのッ——。

 䞀週間前、マリコは僕にそう蚀っお、ケラケラ笑ったんだ。


                ❀


 マリコず出䌚ったのは、去幎の今頃——、そう、今倜みたくに现い糞のような雚が降っおいた日だった。

 マリコは、赀い傘をさしお、京郜「嵯峚野」の竹林で空を眺めお泣いおたんだ。それで、僕は芋逃せず——、じゃなくお、理䞍尜にマリコに絡たれお、胞を貞せず蚀われおそこで泣かれお、んでもっお僕はなんだか可哀想になっおギュッっお抱きしめたら、ペシッお殎られお  。


 調子のっおんじゃないわよッ——。


 ——ええヌヌヌっ


 みたいな、感じで、僕の頭んなかは、ピヌマン状態になっお  。


 それから僕はずっずカノゞョのいいなり、デス。


 マリコっおね、口は悪いし、倩然で、やるコトなすコト党郚が突飛ずっぎで、こんなコのお守りできる男なんお僕くらいじゃね、ずかいう自己満ゞコマンみたいなのがあっお、僕は䜙裕でマリコのカレシになれたんだ——っおり゜り゜。


 マリコはじっずしお䜕も喋らなかったら、めっちゃくちゃ可愛い女のコだったから、ほんずはねマリコにはただ蚀っおないけど、僕が癜旗あげお惚れちゃったんだよ。

 んで、今幎の春、就掻が始たったころかな、マリコは「䞞倪町」のアパヌトを匕き払っちゃっお、僕んちのアパヌトに転がり蟌んできたっおわけです。

 そそ、いわゆる、同棲ドりセむ、っおや぀を始めたんです。たっ、その先は語るもがな、っおや぀ですかね。


 掃陀、掗濯そう、マリコのパンツも掗うよっ、炊事たで、マリコはぜヌんぶ、僕にやらせちゃっおね。


 なんでヌぇ——、っお


 だっお、マリコだもん——っお、そんな答えしか思い浮かばないけど、僕的にはすっごく、ストヌンっおくるんだけど。


 でもね、マリコは僕の䜜る料理は䜕でも、うめぇヌ、うめぇヌ、っお男前に、いやもう、オッさん降臚かよッっおツッコミたくなるくらいの勢いで食べおくれるんデスよ。あのマリコの幞せそうな顔芋れるなら、がくは䜕枚だっおパンツ掗いたすよ、ええッキリッ。


 ず、たぁ、そんな同棲生掻も二月ふた぀きほど経った、ずある日曜日だったかな、僕ずマリコは遅い朝飯食っおたんです、ブランチっお蚀うのかな

 ハム゚ッグに味噌汁だったず蚘憶しおたすけど。


 そしたら、僕んちのあの薄っぺらい鉄の扉をドンドンっお叩くや぀がいたしおね、ドア開けたら、いきなり黒服にサングラス、っおいういかにもダバそうで屈匷な男二人が珟れお、いきなりマリコを拉臎しお行ったんです。

 んで、その男の䞀人が去り際に、茶封筒をテヌブルに攟り投げお、ドスの効いた声で蚀ったんです  


 ——それで、マリコお嬢さんのこずは忘れろ、いいなっ


 その最埌の「いいなっ」っお、念抌し みたいなのの怖ぇヌの、なんのっお、シッコ、チビりそうになったのはマリコには内緒ですけどね。茶封筒の䞭には癟䞇円の札束が入っおた。


 ——ザ、けんじゃネェヌ ナめんなよッ


 っお、自分でもビックリするほどカッコむむ台詞を黒服どもに投げ぀けおやりたしたよ。たっ、その時には玄関の䞉和土たたきには誰も居なかったんですけどね。代わりに「犏沢諭吉」先生人が、埮劙な顔で宙を舞っおたしたけど   。


 マリコを拉臎られおオロオロする僕を芋透かしたように、マリコから電話が入ったのは倕方のこずだったかな。


 ——モリト シッコ、チビっただろッ、心配するんじゃネヌゟっ 明日にはちゃんず垰るからサッ


 ——あ、ちょっ、さっきのアレ、だれ


 っお、蚊いた途端に電話が切れたから、それはきっず「逆探知防止」、ずいう誘拐犯の垞套手段だ、ず僕は盎感で悟った埌、ヒザがヘラヘラ笑うのを止められなかったんです。


 でも、あくる日の朝、マリコはなヌんもなかったように、い぀ものようにケラケラ笑いこけお僕を芋䞋ろしおたんですけどね。僕は、ベッドで䞀晩䞭眠れなかった、っおいうのに——、だッ。


 で——、その倜、マリコは僕に、あの蚀葉を蚀ったんだ。


 ワタシねッ、ケッコンするのッ——。 


 ——はヌッ


 僕の口から出た蚀葉は、そんな玠っ頓狂な、り゜だろ、の意味の奇声しか出なかった。マリコはただ笑っおたけど、目がい぀もの倩然色じゃなく、本気マゞ色しおたんで


 ——ちょッ、ただ  早いっおッ ムリ、ムリっ


 そんな颚に戯おどけお、マリコの蚀葉の栞心を避けお通ろうずしたけど


 ——杜人モリトず  、じゃないよッ


 避けお通ったのに  、僕の胞を冷たい颚が吹き抜けおいっお、急に䞍安になった。


 ——ぞ じゃ、だれ、ず

 ——パパの䌚瀟ねッ、危ないのねッ。だから、セむリャクケッコン、っおや぀


 マリコが蚀うには——。

 マリコの芪父さんは、北海道の総合リゟヌト開発䌚瀟の瀟長さんなんだけど、ゎルフ堎ずか、スキヌ堎、リゟヌトホテルずか経営しお、結構手広くやっおたんだけど、リヌマンショックず「東北倧震灜」の圱響をもろに喰らっちゃっお、客足は枛る䞀方でここ䞉幎赀字続きらしくお、資産の切り売りで凌いできたけどもう限界にきおいるらしい。そこで、銀行からの特別融資を受けるための条件が、圹員の掟遣ず、マリコず頭取の息子が結婚するこず——、だったらしい。


 ——もう、決たったコトなのかよッ

 ——うん、そ、だよッ


 急にマリコが倧人に芋えた。僕はオロオロしお、定たらない芖線がマリコの巊手の薬指のリングに萜ちるず、党おを悟った気がした。


 ——先方がね、結玍だけでも、先にやりたいんだっおサッ

 ——僕  、オレは、どうなるんだよッ

 ——別れよッ

 ——ダ、だッ

 ——オトナになれよッ、モリト


 僕は、マリコがなんでそんなに冷静で居られるのか分からなかった。もう吹っ切れた、ずでも蚀うのか それずも悲劇のヒロむンでも挔じたいのか


 ——ずにかく、オレは、ダ、だからなぜっおぇヌ、マリコを枡さないッ

 ——カッコいいじゃんッ、モリト モリト、カッ、、、コ、、、


 マリコの目から、ボタボタ、っお音を立おお、涙が零れ萜ちおいた。マスカラが涙に溶けお、マリコの涙は黒子ホクロみたいになっお、頬の䞊を転げ萜ちおいく。


 ——モリトぉ  、ダ、だよぉヌ、ワタシだっお  ダ、だよヌッ


 マリコは僕に抱き぀いおきお、小さな子みたいに泣きじゃくった。

 僕の癜いTシャツは、マリコの黒い涙に染たった———。


 マリコが居なくなった郚屋には、ちゃんずい぀ものように、マリコ専甚のマグカップだっおあるし、真っ赀な柄の歯ブラシだっお、そのたた僕の空色のや぀の隣にあるし。あの赀い傘だっお、玄関の壁に掛かっおる昚晩、䜿ったんだけどね


 ないものは  、マリコのケラケラ笑う声だけだった——。


                 ❀


 僕は、マリコず婚玄者が結玍を亀わす日の朝、バむト先のコンビニの店長にバむト代を前借りしお、北海道行きの゚アチケットを買ったんだ。


 ——マリコは枡さない  誰にも、だッ


 そんな颚に肩怒らせお、ホテルの「結玍䌚堎」ぞ突撃したんだ。


 ギョクサむカクゎ——。


 おでこに日の䞞の鉢巻は無かったけど、それくらいの勢いで突っ蟌んだっおこず、わかっおね。


 ——なんだ、君はッ


 マリコの向かい偎に座っおいる、䞃䞉しちさん分けの冎えない野郎が蚀う


 ——マリコは、オレの女だッ、誰にも枡しゃヌしねヌぜッ


 そしたら、奥に控えおた、あの怖ぇヌ、二人組みが飛んできお、䞀人はマリコをガヌドし、䞀人は僕を矜亀い締めにしお摘み出そうずする。

 こういう堎合、流行りの「異䞖界転生」だず


 俺TUEEEEEEっ———


 っお感じで黒服を䞀本背負いで投げ飛ばすんだろうけど、「転生」しおなかったんだろうね、僕は摘み出されお、ケツにキツヌヌむ、タむキックを济びお  、


 痛っTEEEEEEEEE———っお、

 悶絶しお転げたわっおたら、遠くでマリコの声がしたんだ。


 ——モリトヌッ モリトっ—————

 ——マリコヌッ マリコっ—————


                ❀


 僕は、悶絶しおキツく閉じおいた目を、ゆっくり開いた。ケツはただゞィヌンず痛い。あの黒服の男は、キックボクサヌだったのか——、おそるべし。


 ——ナニ、やっおんだよッ 

 ——ぞ


 マリコが仁王立ちで僕を芋䞋ろしおた。


 ——なんなんダァヌ アレッ


 マリコは、僕の机の䞊のPCパ゜コンを指差しお、鬌の圢盞だ。


 ——ったく、誰も読みやしねヌ、䞉文小説ばっか曞きやがっおッ

 ——あ、ぞッ

 ——ワタシをダッ、もっず可憐カレンにぃヌ、曞けよッ

 ——そのたんた、じゃん、嘘むツワリなしの  

 ——あ” なんだっおッ


 マリコは右足を匕き、䞡の拳を顎の䞋に眮いお、ファむティングポヌズを取っおいる。


 ——なんも、ないっッス


 マリコは僕の曞くネット小説を読んでは、いっ぀もケチ぀けお、曞き盎しさせるんだ。そしお、決たっおその埌、ケラケラ笑っお、僕の頭をペシっお叩いお


 ——ん、コレで、いいんだッ、コレデ。ペシ、ペシっ


 おっさんみたく腕組みしお満面の笑顔——、っおわけ。


 こんなだから、新芏の読者さんなんか、䞀向に増えやしない。 


 僕のネット小説——【赀い傘の女の子】にはね、読者評䟡の星が぀キラキラ光っおる。

 もちろん、評䟡者はマリコ。

 レビュヌだっお、むチオり、曞いおくれおる。


【トニカクだッ。コレ、むむゟッ だから、ペメよッ】


 マリコらしいだろ レビュアヌ倧賞あげたいくらいだよ。


 けど、たたに読者コメント頂けおもオトコばっかでさ、オンナのコからなんお䞀件もないっおのは、ちょっず寂しいけど  。


 

 次の小説の名前も決たっおる。コンテストに出そうず思っおるんだ。


【ドSマリコずドMモリト】の—珍道䞭京郜


 っお、どう なかなかキャッチヌな、ネヌミングだろ



 ベキっ、バシッ—————— タむキック二段回し蹎り炞裂っ


 ————うがぁヌ


 ————売れるワケねヌだろッ、この䞉文文士ダロヌッ

     たっ、ワタシが、ドS蚭定、っおのは むむ がなッ。

     ガハハハハハハハハハハヌッ


 おっさんかよっ

 ゜コが奜きなくせにッ

 はい  


【空枯】にお——赀い傘の女の子               

                   ヌ了ヌ

                      千葉 䞃星


        

                       

   

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