第4話 賀次郎ホーム~何故こんなことに~

 ところが放課後である。

 私は何故か賀次郎くんの家にお呼ばれされているのであった。


「これから料理の練習をする。叩き直してやるから覚悟しておけ!」

「なぜ、こんなことに」


 とは言え二人きりではない。

 徳子も一緒である。


「小佐藤君は料理クラブの部長で、私は料理クラブの副部長です。私の口添えなのです」


 それだけ説明すれば十分とばかりに胸を張る親友。

 対して言葉の暴力を叩きつけてくる賀次郎くん。


「良いか? 貴様が作った料理はクズだ! 掃き溜めのゴミ以下だ! カブトムシの方がまだ食える! 初歩の初歩から教えてやるぞ! ……返事はどうした!」

「は、はひぃぃ」


 な、なんと言う鬼軍曹だろうか。

 しかし、料理を食べさせて、なんでこんな展開に?

 彼が私を好きになっているとはどうしても思えない。


 ふと、徳子が私にメモ帳を渡して来た。

 それにはこう書いてある。


『食べる前に好きだったら、ミミちゃんの料理を食べても変わらないと思う。その理由は裏に書いたよ』


 食べる前から、賀次郎君は私を好きだった?

 そんな美味しい話があるのだろうか?

 私はメモを裏返す。


『私も家庭科でミミちゃんのハンバーグ食べた時、そうだったし』


 ふと彼女を見返すと、徳子は顔を赤らめて、じっとりとした目で私を見ている。


「ひ、ひぃ……!」


 友情が信じられなくなった瞬間である。

 だがしかし、もしそうなのだとしたら、賀次郎君と私がくっついて徳子は大丈夫なのだろうか。


「……辛いよ。でも、好きな人が幸せなら、それで良いじゃない?」

「こ、心を読むな」

「兎穂村! 指導の最中に何をしている? 貴様、やる気はあるのか?」

「す、すす、すみません……」


 鬼教官の叱責。

 私は穏やかならぬ心のまま、賀次郎君のレクチャーを受け続けた。


 数日後、この時、私が作った料理を帰宅した彼の父、理事長が食べてしまい、一波乱起きるのだが、それはまたいつか語ろう。


 とりあえず、私の退学の件(そもそも杞憂の可能性もあったが)と恋愛の件は今のところは上手く行きそうである。


〈了〉

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兎穂村ミミ子の恋愛壊滅クッキング 秋田川緑 @Midoriakitagawa

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