第12話 芝を張る
芝が枯れてしまった。
原因は、昨年の台風である。
2019年の秋、台風は次々と押し寄せた。イベントどころか職場が休みになるほどの大型台風である。半年たっても復興していない地域もある。その後、春まで雨は降り続けた。一週間のうち、一日も降らないという週はなかった。
私の住んでいるところは、冬は基本的に雨が降らない。西高東低の冬型という奴で、晴れの日が延々と続く。なので、冬が来て高麗芝の表面が枯れてしまっても、根を枯らさないために一週間に一度は水をやらなければならない。
例年なら、休みの日に、必ず如雨露で水をやっていた。
しかし、やろうと思うと雨が降るとなれば、どうなるか。
水が、やれない。
8年もの間、気温が40度を超えるだろうルーフバルコニーの上で頑張っていた芝だ。
こんなに雨が降っているのだから無事だろうと思っていた私は、3月には枯れた芝の上部を刈り込み、水をやり、新しい肥料を買った。
4月も後半になって、私は気づいた。
新しい芝が、生えてこない。
というか、枯れた芝が浮きかけている。
端をつかんでめくると、ポロポロとプランターから剥がれてきた。
一部切れた根もあったが、ほとんど抵抗なく、枯れた芝はつながったまま、剥がれてしまった。
私はそれを捨て、プランターの土をならした。
前に買った会社のサイトは、もうない。
たぶん、もう、つくっていないのだろう。
しかし、肥料がある。
そして、土の入ったままのプランターを、階下まで運びたくない。
私はネットで芝を買えるところを探し、お手頃価格の芝を見つけた。
芝の種類は迷ったが、普通の高麗芝でいいだろうと、それを買った。
届いた芝の量をみて、私は計算違いをしていたことに気づいた。
予想していた量の、倍が届いたのだ。
プランターの値段があるので、単純計算はできないが、値段は十分の一だった。
こんな安価で大丈夫なのか、とも思ったが、今年枯れたとしても、問題ない値段なのである。
私はプランターに芝をのせ、水をやり、活性剤をまいた。
余った芝は玄関前の隙間に置いた。こっちは枯れても問題ないので、単に水をやるだけで様子を見ている。一ヶ月ぐらいは気をつけて水をやった方がいいというので、しばらくは多めに水をやることにする。
去年の冬、私の好きなアーティストが病気で亡くなった。昔の仲間が、Facebookで追悼記事をあげていた。大切な人を亡くした、と。ある音楽番組では、一日、涙が止まらなかったと言っていた。
しかし私は聞き逃さなかった。
彼は亡くなった友人と、ずっと音信不通だった。連絡をとる必要を感じていなかったらしい。訃報も妹から聞かされたのだと。
ああ、この人らしいなあ、と思った。
私は彼が好きなので、というか、そういうキャラクターだとわかっていて好きなので、悪口は言いたくない。
しかし、一つだけ言わせて欲しい。
友情も、適度に水をやってやらないと、枯れるよ。
死んでから後悔しても、遅いよ。
芝を刈る 鳴原あきら @narihara_akira
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