歓談:アウラの疑問と、デミウルゴスの確かな愉悦 ~デミウルゴス式フィロソフィー~
天使と悪魔。その違いは実に曖昧なものである。
己に都合が良ければ、その存在は全て天使足り得る。
己に都合が悪ければ、その存在は全て悪魔足り得る。
天使は、一般には見目麗しく、博愛主義を良しとする存在。
悪魔は、一般には怪奇醜悪な容貌、偏屈であり利己主義を良しとする偏愛的な存在。
では、容貌魁偉でありながらも、己の理想とする存在足りえれば、それすなわち
では、容姿端麗でありながらも、一般に醜悪とされる偏愛を懸想し、現実離れした理想を実現させるべく立ち働く者は、傍目からは理解しえない
・・・ ・・・ ・・・
デミウルゴスは、
悪魔、それは
利己的であり、私利私欲のためならば、その他全てを
そもそも悪魔の所業とは、
神の御業と称される神算は、確定した結果が明らかに成っていることを強調する。
そもそも、鬼や悪魔の本来の役割は、戒めにある。
神や仏が衆生を導く上で、その導きを踏み外せし時、訪れる場として地獄が生み出された。醜悪とされる行いに染まる時、そこへ赴くだろうと戒め、踏み留まらせるために。
本来の意味では、鬼や悪魔は純全たる正義の正対ではなく、戒めるために、区別し差別化するために存在する。
要は、鬼や悪魔と言われる存在は、鏡写しの自分。そうなりたくはないと思わせ、踏み留まるためのもの。
その禁を踏み抜き、踏み出せし者こそが、悪鬼羅刹や悪魔と言い表される。
・・・ ・・・ ・・・
アウラは珍しく、一人でバー・ナザリックを訪れていた。普段、一人で訪れることは滅多にないが、さりとて気分転換に普段とは違うことをするのは楽しみの一つでもある。
静かな空間で、規則的に繰り返される微かなきゅっきゅぅと擦り合わされる布とガラスの擦過音、泡沫のぱちっぱちりと弾ける幽かな弾き音、聞き慣れぬタイミングで
ふと、カウンター席から背後を窺うと、一言。
「ねぇ、デミウルゴス」
デミウルゴスは、バー・ナザリックのテーブル席でホットワインを燻らせながら読書をしていた。
「どうかしましたか、アウラ」
「そっちの席、空いてるから移っていい?」
「・・・構いませんよ」
【ノンアルコール】・スプリッツァー=白ワインの炭酸割り=
「デミウルゴスに聞きたいことがあるんだけど」
話を聞きたいと声をかけられたことで読み掛けの
メガネを指先でクイッと直し、こちらを静かに見つめるデミウルゴスを見て、話を聞く態勢に入ったと判断したのを期に、疑問を投げかける。
「前々から聞こうと思ってたんだけど。デミウルゴスはセバスのこと、嫌いだよね」
セバスの名前が出た時点で、僅かに苦い表情が滲み出るが、直に笑みを取り繕う。あたかも、そんな嫌がる素振りなど一切していない、というような風情で。
「ええ、相容れないですね。お互いに。どうしてかは、その原因には心当たりがありませんが」
「でも、セバスの子供のリュートのことは、スッゴい甘やかしてるけど、どうして? 普通、嫌いな相手の子供なんて、絶対に嫌っていそうだけど」
リュートの名が出た時点で口角が僅かに釣り上がり、愉悦が滲む。
「ククク、それは早計というものですよ。アウラ」
デミウルゴスは、左足を右足に組み、膝に置いていた己の組んだ手を腹に乗せるようにしてリラックスした体勢に座り直す。
「リュートを甘やかすのは、そうすることが純粋に愉しいからです」
「ふぅ~ん」
アウラは、ちょっと信じられないかな~といった風に聞いていた。そんな些細な疑問になど応える義務はないが、デミウルゴスは話を続ける。
「ええ、あの純真無垢な子供を己が色で染められるのは、今を以ってこそでしょう?」
「・・・うっわぁ~」
面白そうに、茶目っ気たっぷりなデミウルゴスの答え。心底楽しそうな純然たる
もしかしてこれは、アインズ様に報告したほうが・・・といった思いに駆られ始めるアウラを他所に、デミウルゴスは話し続ける。
「支配してしまうのは簡単ですが、それでは正直、面白味が足らないのですよ。それに、あの子が引き起こす騒動によって、困り果てるだろうセバスを愉しむ理由が出来るとあらば、これは甘やかすべきでしょう」
「でも、その困ったことの半分ぐらいは、デミウルゴスにも返ってきてるよね」
近くで遊ばせていたら、メガネを取られてしまったり。紐が結べるようになると靴紐をほどかれて両足が結び付けられていたり。シルバー・プレートに覆われた尻尾に色とりどりのデコレーションが施されていたり。
それらを言い示すと、ほんの少し困った様子を見せるデミウルゴスだが、毅然とした態度で持論を口にする。
「そこは、言っても仕方がないですね。愉しむための対価と思えばこそ、快く払おうではないですか」
その太っ腹ともいえる持論には、一切の嘘偽りなきデミウルゴスの心情が吐露されていた。
「子供の育成は愉しいですね。どんな
アウラは楽しげなデミウルゴスの発言から、そういうものなのかと半ば納得し、素直に話に耳を傾ける。端々に不穏な言動が差し挟まれている事実は、聞き逃してはいない。
「我々の造物主たる、至高の御方々から齎されてきた愉悦とは到底及びもしない、微かな愉しみなのですが、このように儘ならぬ事柄でも、アインズ様の思し召しとあらば、容易に悦に入れるということですよ。このような考えをどう思われますか、アウラ」
「そうだね、ぶくぶく茶釜様が側にいらっしゃって頂けるのと比べちゃうと悪いけど、楽しいから良いよね」
「ええ、そういった悦楽が味わえるのも、アインズ様の御配慮の賜物と思えばこそ! それを我々は大いに、甘受すべきではないですか」
興奮のあまり、つい立ち上がったデミウルゴスを見上げるアウラ。
「ふぅ~ん。色々考えた上で、甘やかすわけだ」
「ええ、それをアインズ様が思し召しとされるのであらば」
さっきまでの興奮はどこへやら、デミウルゴスが落ち着いた様子でゆっくりと腰を下ろす姿を見て。どことなく、デミウルゴスの考えが腑に落ちた。悪魔として甘やかし、何時か訪れるだろう
アウラからすると、天使は主上からの在るが儘を、
デミウルゴスの
「それに、このナザリックに害を為すように育てるわけには流石に行きませんからね。甘く、厳しく、されどナザリックの為と成るように、きちんと
「え? ちょっとまって!?
「少々、一致する処があるのであれば、だね」
どことなく、不穏な雰囲気を醸しつつ、デミウルゴスは楽しげに
「うっゎ~」ちょっと思っていたのとは違うと思いつつ。「まぁ、デミウルゴスが良いっていうのなら止めないけど」
戸惑いつつも、アウラは成るように為るかと思うことにした。もし、イザ洒落にならないと思ったなら、割り込みを掛けるぐらいには、気には掛けておこうと決めた。
「それぐらいでどうにかなるなら、それまでかもしれないしね」
ダメだったとしても、その時はその時。違う道があればいい。破滅を選ばないのであれば。
「まぁ、将来的には、私のようになりたい。そう思わせられる事を狙っていますよ」
「そうなったらそうなったで、ちょっと困るかも」
アウラは、本当にそうなった時を想像してみて、どうしようと思案に暮れる。マーレとも少し話し合っておこうかな。
「なぁに、アクマで私自身に成り代われるのではなく。リュートらしい、私の理想像に近づいてくれる事を目指すとしましょう」
「え? なにそれ!?」
「おや、分かりませんか?」
「わっかんないよ!」
「
「・・・だからか。最近、なんとなく物騒なこと言ってたりするの」
「教育の現れですね」
「いやいや。アインズ様が心配してたから」
「アインズ様にご心配を掛けてしまうとは! まだ少し、早すぎたようですね。多少計画の順延をして様子を見るとしましょう」
「う~ん、そのほうが・・・」
ふと、アウラの耳が何か音を捉えたのか、ピクピクと動く。
「あ。ちょっと遅かったみたい」
振り返るアウラの視線の先には、バー・ナザリックの扉を押し開け、中に入ろうとするメイドの姿があった。
メイドはキョロキョロと辺りを見回し、デミウルゴスの姿を認めると、静かに傍にまで歩み寄り、一礼。
「失礼いたします。アウラ様、デミウルゴス様。ご歓談中に申し訳ありませんが、少々お話をよろしいでしょうか?」
「うん、いいよ」
「ええ、構いませんよ」
「では、失礼いたします」
その場で更に一礼すると、用件を告げる。
「デミウルゴス様、アインズ様がお呼びです」
「承知した。ところで、要件については何か」
メイドは戸惑いながら、用件について語りだす。
「その、リュートちゃんの最近の言葉遣いと、デミウルゴス様が下げ渡されたという
甘やかし、玩具として与えたものは数多く、そのどれが問題とされてしまったのか、釈明の余地は十分にある筈。などと考えつつ席を立った。
「・・・アウラ。話の途中で申し訳ないが、中座させてもらいますよ」
「いってらっしゃ~い」
と苦笑を浮かべるアウラに見送られ、若干固い面持ちのデミウルゴスはバー・ナザリックを後にしたのであった。
その後、リュートに与えられる物には、一定の倫理検証を経たものをとの制限が設けられる事となった。
・・・ ・・・ ・・・
フィロソフィー/フィロソフィア
=ものの見方、そのそれぞれの原理。また、物の考え方。哲学。
地獄。そこは死後、罪を犯したとされる者が訪れる、死者達の牢獄。
そこでは、ありとあらゆる苦痛と拷問が繰り返されるも、そこで死を迎え終わる者は誰もおらず、一度風が吹けば全てが元に戻る。
永劫、それは果て無き刻より、更に永く続く過程の極めて一部にしか過ぎない。全てが延々と終わる事無く、何時の日か終わりが訪れることを願われつつ、それは延々と終わること無く、何時までも、何時までも、何度でも繰り返される場所。
魔券 デミウルゴス監修・悪夢城ナイトメア
魔鍵 開かぬ
魔繭
魔釼
魔衒 売買交渉/翻訳器 =冒衒
魔拳
魔絹 伸縮自在な
魔圏 一定圏内を探知する
魔賢
通称:エ・ランテルの大迷槍シリーズ?
浅ましき強欲な悪【魔の手】を模した
鬼妖な鈎爪がついた
開発コード:
Hand of NECRORANCER《ネクロランサー》 別名:不死者の槍
死してなお、不死を求め伸ばされたる白骨化した左手を模した
いうなれば、逆刃の薙刀/青龍刀
開発コード:
Time is SLOTH 別名:夢魔の囀り
楽器:鳴笛=惰眠を誘う音色が出る
時計の針:
開発コード:可変式槍型鳴笛:
Witch trial SWEETS 別名:お菓子な魔女
当たり判定が激甘!
先割れ
産出元:エ・ランテル
通称:悪夢城ナイトメア
これらは既に手に渡った・・・とされている。残りが発見されるのも時間の問題。
デミウルゴスお手製の
【干し首】という呪具の作成を試み、破けて失敗したものを押し伸ばし、リサイクルしたもの。
【ナマケモノ】の生皮を煮絞め、縮み上がった革の目と口を広げつつ内に丸め込み織り込み、目と口と後頭部を縫い合わせ、煮絞め、干すを幾度も繰り返したアミュレット。
原材料:元バハルス帝国原産【
お~ば~ろ~ど・ミニマム トータス @tortoise
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