【Log 99998-a : 世界線0-2-5から回収された録音記録】

“はじめまして”

“僕の声は届いていますか? 狂気に掻き消されていないことを祈ります”

“僕は『星海の渡り鯨ウヌム・アストルム』。第二地球と人間の呼ぶ惑星の星守ほしもりです”

“でも、この記憶装置の声が誰かに届く頃には、きっと僕は狂っています”


“僕は無知でした。僕の抱く星で暮らす生き物人間が何故『全てなる父ミズガルズ』の大いなる庇護を離れ、まだ微生物も誕生していない荒野を開拓したのか知りませんでした”

“そして無力でした。増長した人間たちを淘汰することも出来なければ、人間たちの際限のない好奇心を止めることも逸らすことも出来ませんでした。星守と言いながら、僕は『全てなる父ミズガルズ』の眷属たちにも劣る力しかありませんでした”

“その結果がどう言ったものになり果てたか、この録音を聞いている貴方達には理解できるでしょう。僕の抱く星は最早、萌芽もない灰色の亡骸です。何千の種を植え、何万の水を与えても、種は冷たい土の下で死んでゆくだけ。生命を生む原初の可能性さえ、此処では分岐を許されません”

“こうしたのは人間です。でも責任は、調整に失敗した僕にあるのでしょう”


〔沈黙が十数秒続く〕


“人間は悪食です。多くの生命と資源を食い潰しながら生きています”

“そして盲目です。手に余るゴミや汚物は蓋をして誤魔化しています”

“ときに獰悪です。増えすぎたものは減らせばよいとしか考えません”

“更には狡猾です。見えないことを消えたと言い張り、喜んでいます”


“僕はきっと、ひどく愚かしい星守なのでしょう”

“そしてきっと、都合の良い埖箱ごみばこに過ぎないのでしょう”


“それでも”

“僕は人間を愛してしまった”

“これは、罪だったのでしょうか”


“もしも罪ならば”

“誰が断罪してくれるのでしょう”


“教えて”

“僕はこの罪と屈辱をどう雪げば良いのですか”

“教えて”

“狂った僕はどんな罪を上塗りしてしまうのですか”

“教えて”

“教えて”

“おしえて”

“おしえて”


〔以下、「おしえて」が録音終了まで続く〕



〔追記:当ログの回収の三日後、第一地球の星間通信管制室“アルビレオ-α”は改訂星間条約第七条に従い、惑星Auber及びAuber上のあらゆる生命体の絶滅を宣言。InG-10にて正式に受理されました。現在“アルビレオ-α”を含むあらゆる星間通信管制室による惑星Auberとの対話の試みは無期限延期されています。 :マスター〕

〔何だかやりきれない話ですね。マスターは対話を続けるんです?  :御坂〕

〔そうしたいところですが、輸送船がヘリオポーズを離脱した時点で通信が途絶し、現在はあらゆる対話の試みが断絶されています。対話ログは保管してありますが、公開するかは現在、非公開することを念頭に置いて検討中です。 :マスター〕

〔珍しい。マスターが公開を迷うなんて。 :ヨシタカ〕

〔報道の自由とプライバシー保護の自由は両立するものですよ。 :マスター〕

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BAR『ポストの墓場』 月白鳥 @geppakutyou

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