ぼくは今日もたまごかけごはんを食べる
如月芳美
あさごはん
ぼくは今日もたまごかけごはんを食べる。
2年生になってからずっと。
うちにはお父さんがいない。いたけど、いなくなった。
お母さんはいつも、朝早くぼくがねているあいだにしごとに行ってしまう。
だからぼくは、毎朝たまごかけごはんを食べて学校に行くことになった。
これなら火をつかわないから、ぼくでもつくれる。
食べおわったらお茶わんをながしに出して、お水をはって、おうちにかぎをかけて学校へ行く。
ぼくのとうこうはんのはん長さんは6年生で、ちゃんとかぎがかかってるかいっしょにしらべてくれるやさしいおねえさんだ。
学校からかえっても、お母さんはまだしごと。
ぼくはちゃんと自分でかぎをあけておうちに入って、朝のお茶わんを自分であらう。
夕方にはお母さんがかえってくるから、それまでにしゅくだいをおわらせておくんだ。お母さんに少しでもたくさん学校のおはなししたいから。
お母さんはかえってくるとすぐに夕ごはんをつくってくれる。
ぼくの大すきなハンバーグやカレー。
ごはんをいっしょに食べながら、学校のこと、いっぱいきいてくれる。
ぼくはこのじかんが一日でいちばんすき。
ある朝、れいぞうこをあけるとたまごが一つもなかったんだ。
ぼくはどうしたらいいかわからなくなってしまった。
その日はふりかけごはんをたべて学校に行ったけど、なぜだかかなしくて、一日中ずっとないてたんだ。
ふりかけごはんがいやだったんじゃない。
たまごかけごはんがどうしても食べたかったわけじゃない。
ただれいぞうこにたまごがなかったのがかなしかったんだ。
そこにあるはずのたまごがなかったのがかなしかったんだ。
お母さんはその日、いつもより早くかえってきた。
学校の先生がお母さんにれんらくしたんだって。
お母さんに「どうしたの?」ってきかれたけど、ぼくにもよくわからないんだ。
よくわからなくて、ただ「たまごがなかった」っていったんだ。
そうしたらお母さんはぼくをひざにだっこして、「ごめんね」っていうんだ。
ぼくはもう2年生だから、だっこなんてはずかしいんだけど、なんだかうれしくて、ますますかなしくて、もっとわからなくなった。
たまご、なかったね。ごめんね。
あんたのこと、わすれたわけじゃないからね。
そうだ。ぼくはお母さんにわすれられたようなきもちになったんだ。
たまごかけごはんは、お母さんとぼくをつなぐだいじなキズナ。
ただの朝ごはんじゃないんだ。
ぼくは今日もたまごかけごはんを食べる。
ぼくは今日もたまごかけごはんを食べる 如月芳美 @kisaragi_yoshimi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます