じゆーのめがみ
銀冠
おお、見えるだろう、夜明けの薄明かりの中
かばんたち一行が船で旅立って一年後。
結局ごこくエリアでもヒトの縄張りを見つけることは叶わず、かばんたちは更に遠くのエリアへ行こうと決めた。
そして遠征準備のため、いったん故郷の島へと戻ることにした。
バス船の天井から身を乗り出して、だんだん近づいてくる島の岸壁を見つめるサーバル。
そんな彼女の目に奇妙なものが飛び込んできた。
「なにあれなにあれー! すっごーい! おっきーい!」
それは崖の裏側にそびえ立つ、巨大な銅像であった。
===
そして、島への到着後。
港で出迎えてくれたフレンズらに対して、帰還の挨拶もそこそこに、かばんたちは例の像について話した。
「とても興味深いのです」
「さっそく調査に行くのです」
謎の像を調べるべく四人のフレンズがバス船へ乗り込んだ。
博士と助手、人類の遺産に詳しいツチノコ、そして護衛係のヒグマである。
元から乗っていたかばん・ボス・サーバル・アライさん・フェネックと合わせると九人の大所帯で、バス船の荷台は積載重量ギリギリだ。
「狭いほうが落ち着くのではなかったのですか」
「俺はカベとか天井に囲まれてるのが落ち着くんだよ! フレンズ同士でぎゅうぎゅう詰めなんてまっぴら御免だ!」
頭上での騒ぎに苦笑いしながら、かばんとボスは操船に
「ラッキーさん、さっきの崖の所へ南側から回り込んで下さい」
「マカセテ」
そうして現れた光景を前に、ツチノコが裏返った悲鳴を上げた。
「せ、せ、世界……遺産……」
白目をむいてひっくり返る彼女の言を、博士と助手が継ぐ。
「こんなものが崖際に隠れていたのですか」
「島の中からでは決して発見できませんね。賢い我々にとっても盲点だったのです」
運転席のかばんが問いかける。
「博士さん、ミミちゃんさん、これが何なのか分かりますか?」
答えたのは正気を取り戻したツチノコだった。
「こいつは『自由の女神』と言ってな、ジャパリパークで例えると……そう、群れだ! ヒトが生きてた頃、一番大きくて強い『あめりか』っつー群れがな、自分らの群れの象徴としてこの像を仰いでたんだよ!」
興奮冷めやらぬ早口でまくし立てるツチノコに対し、博士たちは冷静な分析を加える。
「ですがこれは、大きいと言っても我々の身長10人分程度しかありません。本物の大きさはこんなものではないはず」
「自由の女神は世界中にレプリカがあると言われているのです。きっとその一つなのです」
ボスが船の向きを調節すると、荷台の中にいるヒグマにも像が見えるようになった。
「これより大きな像があるなんて信じられないな……」
事前知識のないヒグマは見たままの感想を呟く。
「でも、なんだか……かばんに似てる気がする」
「僕にですか?」
思わぬところで名前を出されて困惑するかばん。
像の女性は等身も高く顔の彫りも深く、似ているようには思われない。
だがヒグマがそう思ったのには相応の理由があった。
「ああ。巨大セルリアンとの
「凛々しいって……僕はそんなつもりじゃ」
赤面するかばんにアライさんが更なる追い打ちをかける。
「かばんさんはやっぱりすごいのだ! そうだ、あの大きな像をみんなの群れの『しょーちょー』にするのだ!」
「ちょ、ちょっとアライさん」
博士と助手もそれに乗っかる。
「たまには良いことを思いつきますね。我々の群れとしての強さを見せつけた、あの戦いを記念する象徴……
「かばんであれば、英雄として祭り上げるのに不足はないのです」
「博士さんたちまで……」
かばんはとうとう真っ赤になって運転席にしゃがみ込んでしまった。
「かばんちゃん大丈夫? お水飲む?」
「大変だねぇ。心中お察しするよ」
サーバルとフェネックの気づかいが心からありがたいと思うかばんであった。
===
それから更に一ヶ月後。
旅立ちの準備をしっかりと整えたかばんたち一行は、これまたしっかり再整備を済ませた船に乗り込んで島を後にした。
出発に際して、かばんたちは博士と助手からこう告げられていた。
「途中で例の像の前を通っていくといいのです。『さぷらいずぷれぜんと』を用意してあるのです」
「
船上のサーバルはわくわくが収まらないといった様子で身体を左右に振っている。
「ねえかばんちゃん、博士が言ってた『さぷらいず』って何なのかな?」
「さあ、何だろう……アライさんやフェネックさんは何か聞いていますか?」
「全然わからないのだ……みんな忙しそうにしてたけど、アライさんが何してるか聞いても誰も教えてくれなかったのだ……」
「アライさん傷心だねぇ、よしよし」
四者四様の反応を示すフレンズたちに、ボスが告げた。
「モウスグ像ノ前ニ着クヨ」
そうして一行が目にしたのは……
自由の女神像の顔の部分が、かばんの顔そっくりにデコレーションされている光景だった。
「わぁ……!」
よくよく目を凝らして見れば、その彩りは島のフレンズたちの服で作られているのが分かった。
帽子と肌の黄色、瞳の白と黒、髪の
一体何人分の服を集めたのか。島に住むフレンズのほとんど全員が協力しないと、この演出は成立しないだろう。
「みんなー! ありがとうー!」
かばんは船から身を乗り出して、力一杯声を張り上げ帽子を振った。
それが届いたかどうかわからないが、像のまわりに薄着になったフレンズたちが現れて手を振り返す。
「絶対、絶対また帰ってくるからー! だからそれまで、それま、で……!」
言葉に詰まって泣き出してしまうかばんであった。
===
かばんたちの船出の後、飾りつけはすぐに取り外された。
フレンズたちも、いつまでも裸でいるわけにはいかない。
そうして元通りに戻った自由の女神は、今も岸壁から島の外を見つめている。
この島にやってくる者を、そして帰ってくる者を暖かく迎えるために……。
じゆーのめがみ 銀冠 @ginkanmuri
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