セルリアンの隙間話

桑白マー

〈きずな〉

 ここは〈さばんなちほー〉サーバルとかばんが、最初に出会ったちほーです。

 日が落ちて静かになった水辺に、アラームが鳴り響きました。

「だぁれぇ〜?」

 水の中から出てきたのはカバです。このちほーのお姉さん的存在で、困ったことがあるとフレンズはみんな彼女を頼ります。

「あら、ボス。この変な音は貴方だったの?」

 アラームを鳴らしていたのは、ラッキービーストのボスでした。

「キンキュウジタイ ダヨ」

「!驚いたわ〜。貴方、喋れるんですの?」

 カバはボスが喋ったことに驚きました。普段のボスはとても無口で、喋れることを知っているフレンズは少ないのです。

「緊急事態って、どういうことですの?」

「サーバルト カバンガ、コマッテイルンダ。タスケニ キテ」

「サーバルとかばんが!?…もう、あの子達ったら。仕方がありませんわね」


 ここは〈じゃんぐるちほー〉沢山のフレンズが暮らす、とても広いちほーです。

「今日は終わりかな。もう客もこないだろ」

 彼女はジャガーです。川の多いこのちほーで、泳げないフレンズのために渡し屋さんをしています。

「あ!ジャガーだ!何してるのー?」

 コツメカワウソがいますね。じゃんぐるちほーの水辺で暮らす、とても明るくて手先が器用なフレンズです。

「帰るんだよー。カワウソ、乗ってくか?」

「ほんとー!?わーい!うーれしー!でもね、ボスが変なんだよー!」

「ん?ボスが?」

 そう言うと、カワウソはクルクルと回していたラッキービーストをジャガーに見せました。

「ジャガー。カワウソ。サーバルタチガ、コマッテ イルヨ。タスケテ アゲテ」

「ね?なにかな?なにかなー?」

「うーん…わからん!」


 ここは〈こうざんちほー〉にある〈ジャパリカフェ〉今は夜なので閑散としています。でも、実は昼間も閑散としているんです。

「あるぇー、みでみでぇー。ボスの目が光っでるよぉー」

 この子はアルパカ・スリ。このカフェのオーナーです。彼女の淹れる紅茶はとても美味しくて、数少ないお客さんには大評判です。

「……暗くてよく見えないわ」

 この子はトキ。ジャパリカフェの常連さんで、とても歌が大好きなフレンズです。

「アルパカ。トキ。カバンタチガ、ピンチダヨ。タスケニキテ」

「私のファンが?大変、急がなきゃ」

「まっでまっでぇ。私も行ぐからぁー」


「ギンギツネ、ギンギツネ」

「あら、キタキツネ。ゲームはもういいの?」

 彼女たちはキタキツネとギンギツネ。この〈ゆきやまちほー〉で温泉の管理をしているフレンズ。とっても仲良しで、ふたりはいつも一緒です。

「見て。ボスが喋ってるよ」

「ボスが?かばんたちが帰ってきたのかしら?」

「ううん。元々ここにいたボスだよ。ほら」

 キタキツネの指した先には、このちほーで暮らすために毛皮を着ているラッキービーストがいました。

「キタキツネ。ギンギツネ。カバンタチガ コマッテイルヨ。タスケテアゲテ」

「ギンギツネ、助けに行こう」

「キタキツネ…あなた…」

 キタキツネは、かばんたちと作ったソリを指差しています。

「早くー行こうよー」

「あなた…それに乗りたいだけでしょ…」


「よし、今日の練習はここまで。みんな、よく頑張ったな!今度こそライオンたちに勝つぞ!」

「「おおー!」」

 ヘラジカと、その仲間たちがいますね。この子たちは〈へいげんちほー〉の覇権をかけてライオンと日々戦いを繰り広げています。といえば、大袈裟ですね。

 おや?噂をすればライオンがやってきました。部下のフレンズもみんないます。

「どうしたライオン。勝負は明日だぞ」

「いやー、それがねぇ。ボスが急に喋り出してさぁ。驚いちゃったよー」

「ボスが喋った?どういうことだ」

「ライオン。ヘラジカ。チカラヲ カシテ。カバンタチガ ピンチダヨ」

「ほらねぇ。かばんたちがピンチらしいしぃー」そういうと、ライオンの目が光りました。「ちょっとみんなで本気出そうか」

「うむ。みんな聞いたな?武器を持て!かばんを助けにいくぞ!」

「「おおーー!」」

「それ突撃ーー!」

「「お、おおーー?」」


「ツチノコ。ツチノコ」

「ボ、ボス。まさか、俺に話しかけてるのか?ひょっとして、アイツらに何かあったのか!?」

 この子はツチノコ。パークの遺跡を巡るのが趣味のちょっと変わったフレンズですが、とても賢いので話がはやいですね。

「ソウダヨ。テキハ チョウオオガタセルリアン ナンダ。テツダッテ」

「本当か?くはぁー、ったく。しょうがないかぁ」

「ボクもついてこうかな」

「ぬぉわはぁー!おおお、お前、どこにいたんだ!」

「大きいセルリアン、見てみたいですから」

 ちょっと飽きっぽいフレンズ、スナネコもついていくことになったようです。


「みなさん!大変です!」

 このマーゲイは人気アイドルグループ、PPPのマネージャーをしているフレンズです。

「ボスが急に『カバンタチガ ピンチ ダヨ。トショカンニ アツマッテ』って言ってます!」

「かばんが!?」「どうしますか?」

「もちろん助けにいくわよ!ファンを守るのもアイドルの役目なんだから!」

「だけど集まってるファンはどうする?」

 そうです。会場は明日のライブを徹夜で待っているファンで溢れかえっています。

「それでは会場が変わったことにしましょう。明日からPPP海上ショーの開催です!」

「さっすがマーゲイ!練習してた甲斐があったな!」


「ビーバー。プレーリードッグ」

「どうしたんすか?ボス」

「ボスが我々に話しかけるとは、珍しいでありますな!」

〈こはん〉に立つこのログハウスには、アメリカンビーバーとオグロプレーリードッグが暮らしています。

「カバンタチガ ピンチダヨ。タスケテ アゲテ」

「なんと!かばん殿が!?こうしてはいられません!急ぐでありまーす!」

 プレーリードッグは、そう言うとどこかに行ってしまいました。

「ボス。どこに行けばいいんすか?」

「トショカン ダヨ」

 ビーバーが冷静にボスと確認をしていると、プレーリードッグが帰ってきました。

「かばん殿はどこにいるのでありますか?」


 ここは〈ロッジ・アリツカ〉

 アリツカゲラが管理人をしている宿泊施設です。

「そのとき、誰もいないはずの部屋から私を呼ぶ声がしたんだ…」

「あわわわ…」

 今夜も作家のタイリクオオカミが、アミメキリンを驚かせようとしていますね。

「ほら、今も後ろから…」

「キリン、アリツカゲラ、タイリクオオカミ」

「キャー!怖い怖いー!」

 びっくりして飛び上がったキリンでしたが、タイリクオオカミは涼しい顔をしています。

「おや?ボスじゃないか」

「かばんさんがいないのに喋るなんて、珍しいですね」

「タイヘンダヨ。イマ…」

「ちょっと待ったー!その先は私が推理します!」

「サーバルタチガ、ピンチダヨ。タスケテ アゲテ」

「そんな!私の推理が…」

「まぁまぁ、キリンさん」

「それじゃあ、新作もできたことだしカンヅメ生活も終わりかな?どこに行けばいいんだい?ボス」


「ミンナ ココニ アツマルヨ」

「でかしたですよ、ラッキービースト」「よくやったのです」

 アフリカオオコノハズクのコノハ博士と、ワシミミズクのミミちゃん助手が、〈ジャパリ図書館〉の屋根の上に立っています。

「かばん、待っているですよ。すぐに助けてやるです」「すぐに助けてやるです」

「助かったら、我々に料理を作るのですよ」「そうです。作るのです」


 こうして、島中のフレンズが集まろうとしています。

 はたして、かばんたちはどうなるのでしょう?

 それは、皆さんの目で確かめてくださいね。


 おしまい

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セルリアンの隙間話 桑白マー @Qwuhaku

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